ロシア文学の巨匠ドストエフスキーのドイツ語翻訳家、スヴェトラーナ・ガイヤーの波乱に満ちた半生に迫るドキュメンタリー。幼少期にスターリン時代を体験し、ナチス・ドイツ占領下でドイツ軍通訳として戦火をくぐり抜けた一人の女性の激動の生きざまをスクリーンに刻み付ける。監督と脚本を務めるのは、プロデューサーとしても活躍するヴァディム・イェンドレイコ。自身の戦争体験を胸に刻んだ翻訳家のりんとしたたたずまいと、文学の世界に魅了される。
あらすじ:1923年、ウクライナのキエフで生まれたスヴェトラーナ・ガイヤーは、何十年もかけてロシアの文豪ドストエフスキーのドイツ語翻訳に取り組んできた。彼女は80歳を超えてからも自宅でコツコツと翻訳の作業に励みながら穏やかで充実した日々を送っていた。だが、ある日、工場の教官をしていた息子が重傷を負い、半身不随の体になってしまう。
<感想>「罪と罰」などドストエフスキー文学をドイツ語に翻訳した、優れたウクライナ出身の女性翻訳家スヴェトラーナ・ガイヤー。84歳の時の記録で、今はもう亡き人です。この映画が残ることの歓びを噛みしめる。
内容は地味だが、味わいは深い。いろいろなことを考えさせられます。第二次世界大戦でドイツがウクライナに侵攻したことが、一人の女性の運命を大きく変えた、・・・ということなのか。
ユダヤ系でもなく、ドイツ系でもないこの女性について、もっと知りたいと言う思いに駆られました。1992年からわずか10年間で「罪と罰」などドストエフスキーの長編5作をロシア語からドイツ語に翻訳したガイヤーさんは、父親がスターリン政権の粛清に遭い、その後ナチの占領下となったウクライナで育つ。激動の時代を生き残る術として、ドイツ語を身につけたガイヤーさんは、第2次世界大戦初期にドイツへ移住した。映画はガイヤーさんの仕事風景と日常生活、そしてドイツ移住後に初めて訪問した故郷への旅の中で、ウクライナの激動の歴史と向き合う姿を追う。ガイヤーさんは2010年、87歳で死去した。
スターリンとヒットラーの狭間に生まれ合わせた聡明なる女性は、やがて母国語を異国の言葉へ翻訳する人生へと、異国の地で歩み出します。その時、彼女が向き合うのは、おそらく、民族や国家から切り離された、純粋に意味と音との体系としてある言語なのだ。
テキストと織物(テキスタイル)がそうであると同様、ただ一つの語、ただ一つのステッチ次第で、人生は劇的に相貌を変える。挿入される「罪と罰」の映像が、ソ連版(70)ではなく、ロベルト・ヴィーネ監督によるドイツ映画(23)であるのも興味深かった。
言葉という道具を使って、スターリンとヒットラー、二つの独裁政権を生き延び、言葉という道具の素晴らしさを追求し続けた、厳しく美しい人生。
何一つおろそかにしない彼女の暮らしぶりを、丁寧に映すヴァディム・イェンドレイコ監督。何かを伝える仕事について、改めて発見の多い傑作だと思います。挟まれる古い映像も貴重ですよね。
2014年劇場鑑賞作品・・・256 映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
フィンランドの名匠、アキ・カウリスマキ監督の「罪と罰」DVDをレンタルして鑑賞したいと思います。
フィンランドの鬼才アキ・カウリスマキの監督デビュー作。19世紀のロシア・ペテルブルグの重く暗い街並み。そこには貧困に喘ぐ人と裕福に暮らす人が暮らしている。
そんな混沌とした社会の中で、自分を正当化して老婆を殺害した若者ラスコーリニコフの物語ははじまる――。
50分×8エピソードでじっくりたっぷり語るその物語は、「白痴」「カラマーゾフの兄弟」ドラマ版同様に、ロシアならではの時間と費用を十分にかけた大河ドラマ。
「罪と罰」を読んだ後も、読む前でも、ドストエフスキーの世界に誰もが没入できるハイクオリティな完成度。
老婆殺害シーンと、追いつめられ憔悴しきってゆくラスコーリニコフの姿が衝撃的である。
ロシアのペテルブルグ。「人間は凡人と非凡人に分けられる。歴史に残るような天才が正しいことを行うためなら、すべてが許されるのではないだろうか。英雄が大量殺りくを行うことすらも――」このような英雄思想を持つ貧乏学生ラスコーリニコフは「高利貸しの老婆を殺害し金を奪っても、それは正しいことである ―」と考え、斧で老婆を殺害し、その現場を目撃したリザヴェータをも殺害する・・・。
あらすじ:1923年、ウクライナのキエフで生まれたスヴェトラーナ・ガイヤーは、何十年もかけてロシアの文豪ドストエフスキーのドイツ語翻訳に取り組んできた。彼女は80歳を超えてからも自宅でコツコツと翻訳の作業に励みながら穏やかで充実した日々を送っていた。だが、ある日、工場の教官をしていた息子が重傷を負い、半身不随の体になってしまう。
<感想>「罪と罰」などドストエフスキー文学をドイツ語に翻訳した、優れたウクライナ出身の女性翻訳家スヴェトラーナ・ガイヤー。84歳の時の記録で、今はもう亡き人です。この映画が残ることの歓びを噛みしめる。
内容は地味だが、味わいは深い。いろいろなことを考えさせられます。第二次世界大戦でドイツがウクライナに侵攻したことが、一人の女性の運命を大きく変えた、・・・ということなのか。
ユダヤ系でもなく、ドイツ系でもないこの女性について、もっと知りたいと言う思いに駆られました。1992年からわずか10年間で「罪と罰」などドストエフスキーの長編5作をロシア語からドイツ語に翻訳したガイヤーさんは、父親がスターリン政権の粛清に遭い、その後ナチの占領下となったウクライナで育つ。激動の時代を生き残る術として、ドイツ語を身につけたガイヤーさんは、第2次世界大戦初期にドイツへ移住した。映画はガイヤーさんの仕事風景と日常生活、そしてドイツ移住後に初めて訪問した故郷への旅の中で、ウクライナの激動の歴史と向き合う姿を追う。ガイヤーさんは2010年、87歳で死去した。
スターリンとヒットラーの狭間に生まれ合わせた聡明なる女性は、やがて母国語を異国の言葉へ翻訳する人生へと、異国の地で歩み出します。その時、彼女が向き合うのは、おそらく、民族や国家から切り離された、純粋に意味と音との体系としてある言語なのだ。
テキストと織物(テキスタイル)がそうであると同様、ただ一つの語、ただ一つのステッチ次第で、人生は劇的に相貌を変える。挿入される「罪と罰」の映像が、ソ連版(70)ではなく、ロベルト・ヴィーネ監督によるドイツ映画(23)であるのも興味深かった。
言葉という道具を使って、スターリンとヒットラー、二つの独裁政権を生き延び、言葉という道具の素晴らしさを追求し続けた、厳しく美しい人生。
何一つおろそかにしない彼女の暮らしぶりを、丁寧に映すヴァディム・イェンドレイコ監督。何かを伝える仕事について、改めて発見の多い傑作だと思います。挟まれる古い映像も貴重ですよね。
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フィンランドの名匠、アキ・カウリスマキ監督の「罪と罰」DVDをレンタルして鑑賞したいと思います。
フィンランドの鬼才アキ・カウリスマキの監督デビュー作。19世紀のロシア・ペテルブルグの重く暗い街並み。そこには貧困に喘ぐ人と裕福に暮らす人が暮らしている。
そんな混沌とした社会の中で、自分を正当化して老婆を殺害した若者ラスコーリニコフの物語ははじまる――。
50分×8エピソードでじっくりたっぷり語るその物語は、「白痴」「カラマーゾフの兄弟」ドラマ版同様に、ロシアならではの時間と費用を十分にかけた大河ドラマ。
「罪と罰」を読んだ後も、読む前でも、ドストエフスキーの世界に誰もが没入できるハイクオリティな完成度。
老婆殺害シーンと、追いつめられ憔悴しきってゆくラスコーリニコフの姿が衝撃的である。
ロシアのペテルブルグ。「人間は凡人と非凡人に分けられる。歴史に残るような天才が正しいことを行うためなら、すべてが許されるのではないだろうか。英雄が大量殺りくを行うことすらも――」このような英雄思想を持つ貧乏学生ラスコーリニコフは「高利貸しの老婆を殺害し金を奪っても、それは正しいことである ―」と考え、斧で老婆を殺害し、その現場を目撃したリザヴェータをも殺害する・・・。