「北のカナリアたち」「エルネスト」の阪本順治監督が稲垣吾郎を主演に迎えて贈る人生ドラマ。過疎化が進む地方都市を舞台に、親の仕事を受け継いで淡々と人生を送ってきた40歳目前の主人公が、旧友との再会を機に、改めて互いの友情を確かめ合うとともに、これからの人生を見つめ直し、仕事と家族と真剣に向き合う姿を描く。共演は長谷川博己、渋川清彦、池脇千鶴。
あらすじ:とある地方都市で、妻の初乃と中学生の息子・明と暮らす39歳の高村紘。父から受け継いだ備長炭づくりを生業とする紘だったが、今の仕事に特別な思い入れがあるわけでもなく、その一方で仕事を理由に家のことは初乃に任せきり。そんな単調な日常をただやり過ごすだけの毎日が続いていたある日、中学時代からの親友で、自衛隊員をしていた沖山瑛介が妻子とも別れて一人で突然の帰郷を果たす。紘は、同じ中学の同級生・岩井光彦も交え、久々に3人で酒を酌み交わす。瑛介は何か深い事情を抱えているようだったが、多くを語ろうとはしなかった。一方紘は、反抗期の息子に無関心なことを光彦に鋭く指摘され思いがけず動揺してしまうのだったが…。
<感想>ファンというほどでもないが、稲垣吾郎初主演作品と言うので、2月に鑑賞した。阪本順治によるオリジナルの脚本を自ら監督した作品。39歳という年齢を迎えたかつての同級生3人の友情物語を軸に、「残りの人生をどう生きるか」という葛藤、家族との絆、そして新たな希望を紡ぐ物語。オリジナル脚本を執筆した阪本監督は、日本の地方都市に焦点を当て、今年の2月から3月にかけて三重・南伊勢町を中心にオールロケを敢行したそうです。
主人公は親から継いだ備長炭を製炭し生計を立てている高村紘。高校生の一人息子がいるが、反抗期で親の言うことも聞かず、稼業の備長炭を製炭にする仕事には無関心だ。実は学校で虐めを受けているのだが、親には明かしてない。紘は自分の代で終わらせることになるかもしれないと思いつつも、本当は息子に継いでもらいたいのだ。
それでも今時、備長炭の売れ行きは思うようにいかず、営業に歩く高村紘なのだが、そこへ旧友の沖山瑛介が自衛隊を辞めて実家へ帰って来た。どうやら仕事が上手くいかず、帰って来ても家に籠りっきり状態がつづく。実家は両親が亡くなり空き家になっていた。雨戸の修理や、家の周りの修復の手伝いにいく紘。
心配した高村紘が、自分の稼業の備長炭の製炭の手伝いをしてもらうことにする。毎日来るのだが、妻が作った弁当にも理由をつけて、明日からはいらないというのだ。夜に呑みに誘っても嫌だというし、どうやら神経が参っているらしい。
妻の初乃には池脇千鶴が扮しており、夫が息子に無関心なので、昼の弁当にピンクのそぼろでバカと描いたりして、好感が持てる。帰郷した友人には長谷川博己が扮して、演技達者が揃っており、アイドルだった稲垣吾郎の演技も中々上手かったです。
三重県の南伊勢町におよそ1カ月滞在して、未知だった土地で暮らしながらの撮影が、役作りに影響を与えたという吾郎ちゃん。伊勢志摩の土地の力が大きくて、本当に別世界にトリップしたような、ファンタジーの世界に来たような感覚になったそうです。
森から木を切り出し、運び出し、トラックで運搬してきて時間をかけて炭を焼く。「こんなこと、ひとりでやってきたのか」と思わず驚きの声を上げる瑛介。長い歳月を経て、男たちの友情が緩やかに動き出す。
狂気を帯びた役を演じるにしては、長谷川博己はちょっと理知的に見えるが、突然暴力的になるシーンには迫力があったと思う。
もう一人の友達の渋川清彦は、中古自動車屋の稼業を継ぎ、ぼんやりとした役を好演。その父親役には石橋蓮司が扮して、親子の関係が良好なのがいい。
タイトルの「半世界」自体がミステリアスだ。瑛介がヒントを出してくれるシーン。沖山が紘に対して「お前らは世間を知っているけど、世界は知らない」と言い放つシーンがある。それに対して紘は「こっちも世界だ」と反発するのだが。異文化の地に赴任して変貌した彼の世界観と、生まれ育った「村」という閉鎖的世界観の衝突、あるいはジレンマを表しているのだろうか。
紘の炭焼きの手伝いを辞めて、港で漁師の手伝いで船に乗っている瑛介。彼を探し当てた紘との間に、ちょっとした距離感がある。殺戮を経験した人間と、平和に暮らしている人間とでは、どうしても平行線になる時があるってもの。
友人の渋川清彦の中古自動車屋の稼業の所へ、チンピラが暴力を振るっているのを見て駆けつけた瑛介は、チンピラの親玉を地面に叩きつけ、執拗に首を絞めつける。それは瑛介が内に抱えた傷や、赴任先で体験した暴力的な衝動を一気に噴出させてしまったことで、それはまるで神経症的な狂気だった。
それは戦地で少年兵を銃殺してしまったトラウマからだと思う。それに、自分の部下が日本に帰って来て、神経をやられて自殺をしてしまった。その息子の母親に対して、すまないと詫びる心も、宅急便で季節の物を贈るのも、すべて自分が悪いからだと悔いている。だから、友人とは、前と同じようには顔を合わせてはいられない。故郷を出て行くしかないのだ。
3人が海辺に行き、酒を飲み、ガキみたいに押しくらまんじゅうしてじゃれ合っていた。あの3人の関係は、異性が介在しないという意味での、ホモソーシャルな関係といっていい。
そして、突然紘が心臓発作を起こして倒れ亡くなってしまう。葬式のシーンでは、何だかつい涙が出て来てしょうがなかった。息子は、炭焼きを継ぐとは言うのだが、ボクシングの選手になりたいと母親にいい、炭焼き小屋にサンドバックを吊るして練習をするのだ。学校の悪ガキに虐められ、暴力を振るわれ、そこへ瑛介が助けに入り腕力で助けるというもの。それで、息子はボクシングなのかもしれない。
男3人の中年男性の幼馴染も、40代にもなればいっぱしの親爺になっている。昔のように仲良く同じような考えとはいかない。それぞれに違った道を歩き、考え方もそれぞれに違って来るというもの。
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