
ナチス時代のドイツを生き抜いた作家ハンス・ファラダが、当時のベルリンで実際に起きた事件を基に書き上げたベストセラー小説『ベルリンに一人死す』を、俳優で本作が長編監督3作目となるヴァンサン・ペレーズが映画化したヒューマン・ドラマ。ごく平凡な労働者階級の夫婦が息子の戦死をきっかけに、自らの尊厳を守るためにナチスへのささやかながらも命がけの抵抗運動へと身を投じていく姿を描き出す。主演はエマ・トンプソンとブレンダン・グリーソン、共演にダニエル・ブリュール。
<感想>ゲシュタボの文書記録を基にした小説「ベルリンに一人死す」を映画化したもの。実話なのだが、これはたくさんの人に観て欲しい映画だと思う。監督は、フランスの俳優であるヴァンサン・ペレーズが、正攻法のスタイルで原作に取り組んでいる。ヴァンサン・ペレーズが出ていた作品では、「王妃マルゴ」が一番好きな映画です。
1940年6月。恐怖政治に凍り付くベルリン。ヒトラーの忠実な支持者だった平凡な労働者夫妻が、一人息子の戦死をきっかけにナチス政権へ、絶望的な闘いを挑むのである。ペンとハガキだけを武器にして。
やがてオットーはペンを取り、ハガキにヒトラーを批判する言葉を書き連ねると、アンナとともにその匿名のハガキを、公共の場所に置いて立ち去る行為を繰り返すようになる。
政治的思想的な動機で始まったものではなく、支援者や組織を持たない単独犯であることが、多くのレジスタンスの物語とは違うところで興味深いですね。
クヴァンゲル夫妻が政府を批判するのはただひとつの理由から。ひとり息子を戦場で死なせたこと。一井の小市民による命がけの抵抗。そのために選ばれた手段が、直筆のメッセージであり、自らの足で街角の建物の階段とかにひっそりと置く。
そうした地道な行動の積み重ねが、しかし情報カットとしてしか撮られていない。身の危険を冒しても綴らずにはいられなかった直筆の文字には、それだけの想いがこめられているはずだからこそ、絵葉書の裏に文字を替えては、指紋がつかないようにと手袋をしてハガキを書き、自分の家の周りのビルの中に置いて来る。
ですが、もちろんのこと、この映画の核心部分は、クヴァンゲル夫妻を演じたエマ・トンプソンと、ブレンダングリーソンの力によるところが大であります。
じりじりと迫る警察とゲシュタポ(秘密国家警察)の捜査。ゲッシュタポから無能呼ばわりされる、警察のエッシャリヒ警部は、285枚の葉書のうち、回収されなかった18枚を除くすべての葉書を読んだのは彼だけだったのです。他の誰もがそのハガキを読むことさえ、危険だと感じて読まないのだ。もし、ハガキを自分で拾い大事に保管でもして見つかったら、殺されるからだ。
警察も必死で犯人を捜しますが、その中でもエッシャリヒ警部に扮した若いダニエル・ブリュールだけが、ハガキを読み、その内容が間違っていないということを確信する。圧倒的な権力の前に、なすすべもない市民たちに対して、エッシャリヒ警部だけは理解をし、自分一人ではどうにもならないやりきれなさに、最後に死を選ぶのです。
やはり、「夜に生きる」でも好演していた、オットーを演じたグリーソンの不機嫌そうな真顔が素晴らしい。そして、夫のナチに反抗する密やかな抵抗運動として、絵ハガキ毎晩書いて、それを毎日仕事を終えてからビルの中へと置く。そのことを応援する妻のエマ・トンプソン。妻はナチスの婦人部のメンバーでさえあるのに。二人の名演技が印象的でした。しかしやっぱりドイツ語でセリフを話て欲しかったですね。
ラストの逮捕から裁判、そして処刑(斬頭台)に至る終幕は、そっけないほどの簡潔な描写であり、それがかえって夫婦愛を静に訴えており余韻を残していると感じた。
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