パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

夏をゆく人々 ★★★

2016年05月20日 | DVD作品ーな行、は行
2014年のカンヌ国際映画祭でグランプリに輝いたドラマ。イタリアの人里離れた土地で養蜂業を営む一家の昔ながらの暮らしぶりと、徐々に訪れる変化の中で12歳になる4姉妹の長女の大人への成長を丁寧な筆致で描く。監督は、これが長編2作目のイタリアの新鋭アリーチェ・ロルヴァケル。
あらすじ:イタリア中部、トスカーナ地方。人里離れた自然豊かなこの土地で、昔ながらの方法で養蜂を営む一家があった。ドイツ人の父ヴォルフガングと母アンジェリカ、4人の娘たちに、居候の女性ココという家族構成。長女のジェルソミーナはまだ12歳ながら養蜂の技術に優れ、いまや頑固一徹な父の助手として欠かせない存在となっていた。ある日、一家はテレビ番組のロケ現場に遭遇し、ジェルソミーナは女性司会者の華やかな美しさにたちまち心奪われる。そんな中、一家は14歳のドイツ人少年を預かることに。それは、少年更生プログラムによるもので、ヴォルフガングが勝手に決めてしまったことだった。戸惑う女性陣をよそに、まるで息子ができたようでご機嫌のヴォルフガングだったが…。

<感想>イタリアの新鋭女性監督アリーチェ・ロルバケルの長編2作目。製作時に若干32歳。主人公のジェルソミーナと同じくドイツとイタリアの混血で、養蜂家の家族で生まれ育ったロルバケル監督の半自伝的作品である。
人里離れた土地で、養蜂を営みながら、自然との共存を目指して暮らす、ほとんど何も劇的なことは起きていないような、ゆるやかな時間と空間の中で描かれる養蜂業一家の姿の物語。

頑固な父親、優しい母親と小さな妹たち。ドキュメンタリーのような趣も交えて、自給自足の家族の日常を、主に長女のジェルソミーナの視点から柔らかくユーモラスに描いている。それはフェミニンな脚本だからなのだろう。

伝統と時代の移り変わりを、12歳の長女の年齢にして、テーマとして深く掘り下げずに、瑞々しくも豊かに表現できる才能には末恐ろしいほどです。
この映画を観て「ミツバチのささやき」のアナが幼年期の終りとともにあったとするならば、この主人公ジェルソミーナは、過ぎゆく夏とともに少女期の終りを迎えているようにみえる。
12歳でありながら、養蜂業の仕事に厳しい父親の手伝いをしている。いつも威張っている頑固者の父親、そしてすべてを包むような母親の優しさと、3人のすばしこい妹たち。監督の実姉であり、「眠れる美女」で鮮烈な印象を残したアルバ・ロルバケルが母親を演じている。それに謎の同居人で未婚のおばさんココの存在も、彼女はただこの家のやっかいもののような存在にしか見えない。

ふいに現れた口笛の上手い少年と笑顔が素敵な女神のようなTV番組の司会者の女優。地中海の島での撮影の「ふしぎの国」。テレビ番組の司会役では、モニカ・ベルッチも出演しているのだ。

ある日のこと、この村に、テレビ番組のロケーション・クルーがやってきます。番組はイタリアの地方を巡って、いろんな特産品を紹介し、もちろん賞金もあり、一回ごとにその土地のチャンピオンを決めようというもの。そんな時に、ジェルソミーナの家には、行政の方から、蜂蜜の製造施設を衛生面に考慮してリフォームするようにと、勧告が来てたのです。リフォームするには、高額なお金がかかる。どうみても養蜂業だけでこの大家族を養っていくには、大変なことで、そこでジェルソミーナが、こっそりと父親に内緒でこのTV番組への申し込みをしてしまうのです。

そうなんですね。どうみても不衛生としかいえない蜂蜜の製造法で、父親はすべてを長女のジェルソミーナに任せて、重いバケツや遠心分離機のような蜂蜜を濾過する機械など、始終見ていないとバケツの中が一杯になり、疎かにすると蜂蜜がバケツから溢れて漏れ出し、床一面に蜂蜜だらけ。
大事な家計を支えている蜂蜜、瓶詰作業もジェルソミーナと小さな妹たちで作業するんですからね。だから、時おり、バケツを替えるのを忘れてしまい、床一面に蜂蜜が広がってしまう。こりゃ、父親に叱られると慌てて、床掃除をするジェルソミーナ。母親は、畑の野菜作りの仕事で手が回らないらしく、蜂蜜製造にはかかわらないのだ。
その一家の中では、あらゆることが起きていると言えて、自然の風景を含む全体に、ある悲しさが漂っていることで観ていて泣きたくなってくる。

背中に蜂の針が刺さっているのに、“天然で純粋で自然”という言葉は、自分の仕事に対するプライドをもつ父親だからなんでしょうね。でも、TVの美人司会者の前では、恥ずかしそうに言葉を詰まらすし、それに、お金で買えないものを大切にする家族愛と、仕事に前向きな頑固親父。
結末では、父親が子供たちのためにとラクダを買ってきて、家の財産が無くなり怒る母親。離婚騒ぎが起きても、それでも、夏で家の中で眠るには熱すぎるのだろう、庭に置いたマットレスに家族全員で重なり合って寝ている。それはまるで彼らが作る黄金色の蜂蜜のように濃密なのだ。
そして、家からは家族が消え、誰もいなくなっているのだ。きっと家族の時間の儚さを描きたかったのだろう。この作品も人間のありようを描いた作品として受け止められたのだと思います。

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