パピとママ映画のblog

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トイレのピエタ ★★★

2015年06月22日 | アクション映画ータ行
手塚治虫の病床日記に着想を得たオリジナルストーリーに、RADWIMPSの野田洋次郎が余命3か月の若者役で、初めて映画の主演を務めた恋愛ドラマ。忍び寄る死に恐怖を募らせる主人公が、純粋な女子高生と出会い、生きる喜びを見つけだす姿を描く。ヒロインに『繕い裁つ人』やテレビドラマ「夜行観覧車」などの杉咲花。『ピュ~ぴる』などの松永大司が監督を務める。主演の野田やヒロインの杉咲の演技に加え、脇を固めるリリー・フランキー、大竹しのぶ、宮沢りえらの存在感にも注目。
あらすじ:余命3か月を宣告された宏(野田洋次郎)は、出会ったばかりの女子高生・真衣(杉咲花)にすぐに死のうかと言われるものの、死ぬことはできなかった。美術大学を卒業後、窓を拭くアルバイトをしながら何となく生きてきた宏だったが、死を目前にしながら純粋な真衣に惹(ひ)かれていく。

<感想>タイトルのピエタ、すなわち息子のキリストの遺骸を膝の上に抱く聖母マリアの姿を、トイレの壁にそのまま描くのではなく、口が悪い女子高生の真衣がまるで聖母マリアのように描く男。それは、手塚治虫さんが書き留めていたアイデアであり、「若くして死んでいく男が、このまま死んでいくのは嫌だと、トイレの天井にピエタ像を描く」ものだという。普通では、教会の天井に絵を描いたものであればまったく興味を持たなかった。排泄をする場所に命を見いだすところが凄いなぁと、トイレの空間は狭いけれど、そこに宇宙が広がっている。トイレは「浄化と昇天」だと言う宏が、死ぬ瞬間が、生まれる瞬間になる発想が凄く面白かった。
「生は死の始まりで、死は生の始まり」という冒頭の言葉が思い出されます。
社会の真ん中から外れた男と居場所を見失った女子高生の、孤独と孤独がやがて溶け合う。女子高生の真衣に扮する杉咲花が素晴らしい。もちろん主人公の、野田洋次郎もいいのだが、というよりは、言葉少なくボーっと立っている彼がいるからこそ、それに突っかかるように勢いで仁王立ち、動く真衣がいっそう光って見えるのだ。

それでも、野田洋次郎の佇まいもいいので、そこに引っ張られて見せられたようだ。それは本人の単なる見た目や資質、活動によるものでもあろうが、なによりも監督松永大司のなかにある若者像、描き出したかった主人公の姿が惹きつけるものを持つゆえだろうと思う。

自ら忘れさせている夢、鬱屈が、土壇場になってようやく生き始めようとすることとか、主人公がもはや仕事ではなく何かの証明のために、生きている証とでもいうのか、ガラスを拭こうとする姿に胸を打たれる。実家の縁側のガラスや、夜中に町の花屋のショーウィンドーとかを綺麗にピカピカにする。
それは、ただ一つの絵を描くために、彼は下地を澄ませていたのだろう。宏が最後にアパートのトイレに絵を描くことで”生きている”という実感を手に入れます。癌患者のリリー・フランキーをアパートに連れて来て、トイレの絵を描くところを見せる。

ラストでも、女子高生の真衣に見せるのだが、あまりにも自分を美化して描いているような、それとも、もっと生きて欲しかったのだろうか。
二人の静と動。それは同時に、死と生でもある。死を前にして、生は眩しいまでの輝きを見せるから。金魚を放ったプールに飛び込む真衣、自転車で疾走する真衣、そんな生の輝きに照らされ、宏もまた絵筆に命を燃やす。そして、彼の描いたピエタを見た真衣は、ひたすら走るのだ。

脇役なれど、宮沢りえが演じた小児病棟癌患者の息子の母親に、宏が好きで近づいてきた小学生の男の子。生きることを信じて病院にいるのだが、まさか死が間近に迫っているとは。宏もその男の子と同じで、抗がん剤の治療をしないと死が間近に迫ってくる恐怖。しかし、両親に入院費や抗がん剤の費用を出してもらうわけにはいかない。だから、死を選ぶ。

宏の母親には、大竹しのぶが、息子が癌で余命幾ばくもないことを知っても、何をしてやるでもなく、あまり存在感が薄い母親のような気がした。父親は、息子の絵の才能をいくらか理解しているのか、それとも息子の死を感じ取っているのか、1万円札を差出し、「これで買えるのかと、お前の描いた絵を1枚くれ」と言うのだ。
彼の“妹”として余命の宣告を共に聞くことになった真衣は、認知症の祖母を抱えた厳しい家庭環境の中で、自分が何故生きなければならないのか。そのことを掴みきれないでいたが、目の前に死が迫った宏と会うことにより、その圧倒的な生命力で彼に変化を与えていく。とにかく、見ていて女子高生の口の悪さに辟易したが、確かに優しい言葉よりもそのくらい喧嘩越しの言葉をはく方が勇気づけられるのだろう。

無表情で生気のない顔で生きてきた宏は、真衣や、リリー・フランキー演じる同室の、癌患者の横田とのやりとりを経ながら少しずつ変わっていくのだ。その変化はとても穏やかで、ささやかなものだが、生きる喜びとは、そんなごくごく小さな心の動きなのではないかと思えてくる。死は残酷だけど、みんなに訪れるもの、遠いところにあるような気がしているけど、常に寄り添っているのだから。
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