パピとママ映画のblog

最新劇場公開映画の鑑賞のレビューを中心に、DVD、WOWOWの映画の感想などネタバレ有りで記録しています。

月と雷 ★★★

2017年10月25日 | アクション映画ータ行

 

角田光代の同名小説を「海を感じる時」「花芯」の安藤尋監督が映画化。かつて子連れの愛人によって家族を壊された過去を持つヒロインが、大人になってその母子と再会したことで、地道に築いてきた普通の生活を狂わされていくさまと、その中で葛藤しながらも自らの人生を見つめ直していく姿を描き出す。主演は「ノルウェイの森」「終戦のエンペラー」の初音映莉子、共演に高良健吾、草刈民代。

あらすじ:幼い頃に母が家を出て行って以来、普通の家庭を知らずに育った泰子。亡き父が遺してくれた家に暮らす彼女は、職場であるスーパーで知り合った男性との結婚を控え、これからは普通の人生を送っていけるものと信じていた。そんなある日、泰子の前にひとりの青年・智が現われる。20年前、智とその母で父の愛人だった直子が家に転がり込んできて、半年間だけ一緒に暮らしていたのだった。当時は仲良く遊んでいた泰子と智。普通の生活を願っていたはずの泰子だったが、突然の智の登場で、思わぬさざ波が立ち始める。やがて、当の直子もふらりと現われ、おまけに異父妹・亜里砂の存在も判明するなど、激変していく日常に戸惑いを隠せない泰子だったが…。

<感想>置き去りにされた時間が、私の中で動き出す。田舎の田園風景や日本家屋には風が通る道があるようだ。だだっ広くて、何もないことで構図てきな奥行きが生まれ、映像からは「誰もいない」感じが引き出されている。

この抜けのような構図は度々登場し、土地や家屋、そして人間も空っぽであることを導いているのだろう。

幼少期に母が家出し、普通の家庭を知らぬまま大人になった泰子(初音)の前に突然、20年前に半年だけ共に暮らしていた亡き父の愛人の息子・智(高良)が現れ、“普通の生活”を求めていた泰子の人生が変わり始めていくさまを描いている。

映像は、20年ぶりに再会した泰子と智が寝床に就く模様を映し出している。うとうとと眠っていた智に、泰子は「あれ、したいな。子どもの時、してくれたやつ」と背中を預ける。そして2人は、離れていた時間を埋めるように、距離を縮めていく。今作にはラブシーンが数度登場するが、ここでも美しい濡れ場を作りだしている。その結果が、泰子の妊娠である。

職場で知り合った青年の婚約者がいながら、毎日働かないで寄生虫のように泰子に頼ってこの家に棲みついている智。妊娠していることが婚約者にバレてしまうも、うやむやにしてその後会わないようにしている。智に妊娠のことを告げても上の空。

他人同士なのに主人公の男女、親たちの因果で兄妹以上、恋人未満というややこしい関係に、実母が生んだ「知らなかった」妹の佐伯亜里砂(藤井武美)も、まるで最初から知っていたように受け入れる優しさ。というか、きっと一人住まいが寂しかったのだろう。

ただ、実家で一人暮らしをしている泰子を含め、どの人物にも共通する浮遊感が、映画自体を浮遊させてしまっているようで、いまいち捉えどころがなかったのが残念でなりません。

それに、泰子の血の繋がった母親以上の、何者かを演じた草刈民代も、野良猫の如き浮遊を感じさせ、始終ぼんやりとしているだけに見えて、それでも凄い存在感があるのに驚く。彼女の歩く姿の引きの画面は、海の上の船のような帆船の如くでもある。

その智の母親、直子も一緒に暮らす、本作でもまた血縁関係に頼らない、家族的な関係、疑似家族的に描いているが、人があえて不幸である側に魅せられてしまう所似も考えて見せている。だから、泰子のお腹が大きく膨らみ始めると、一人、また一人と家から出て行ってしまい、泰子はまた一人ぼっちになってしまう。

人生に本気になれない人たちの押したり引いたりと言う、ローカル色のあるロケ地も、人物たちをさらに浮遊させ、何だか観終わったらそれっきりって感じがした。

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