1980年代のアメリカ南部を舞台に、韓国出身の移民一家が理不尽な運命に翻弄されながらもたくましく生きる姿を描いた家族映画。2020年・第36回サンダンス映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した。
あらすじ:農業での成功を目指し、家族を連れてアーカンソー州の高原に移住して来た韓国系移民ジェイコブ。荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを目にした妻モニカは不安を抱くが、しっかり者の長女アンと心臓を患う好奇心旺盛な弟デビッドは、新天地に希望を見いだす。やがて毒舌で破天荒な祖母スンジャも加わり、デビッドと奇妙な絆で結ばれていく。しかし、農業が思うように上手くいかず追い詰められた一家に、思わぬ事態が降りかかり……。
父ジェイコブを「バーニング 劇場版」のスティーブン・ユァン、母モニカを「海にかかる霧」のハン・イェリ、祖母スンジャを「ハウスメイド」のユン・ヨジョンが演じた。韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンが監督・脚本を手がけた。第78回ゴールデングローブ賞では、アメリカ映画だが大半が韓国語のセリフであることから外国語映画賞にノミネートされ、受賞を果たす。第93回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞など計6部門にノミネート。祖母スンジャを演じたユン・ヨジョンが助演女優賞に輝いた。
<感想>この作品は、リー・アイザック・チョンが監督の半自伝的作品である。彼の父親はまさに移民一世としてアーカンソーで農園を始め、祖母を韓国から呼び寄せていた。つまり、本作のかなりの部分は実体験に基づいているといっていい。そして、もう一点、重要なことは、キリスト教のモチーフであります。韓国は東アジアでは、例外的にキリスト教信者が多い国でもある。
とはいえ監督は、宗教臭い映画を作る意図はなかったという。ただし、自身が経験した「神との格闘」のある側面を捉えたいとは思っていたようです。だから主人公の名前は「ジェイコブ」=「ヤコブ」。そう移民一家は、さまざまな困難との闘いを強いられる。新しい家と称してトレーラーハウスに連れてこられた妻は、落胆のあまりすぐに転居したいと言うのだった。
息子のデビッドには心臓の持病があり、専門医のいる病院までは車で一時間もかかる。夫は農業の経験は乏しく、やっと掘り当てた井戸水も涸れてしまい、水道水を引いたのはいいが料金が支払えずに水道を止められてしまう。転居せずに留まる条件として韓国から呼び寄せた妻の母親スンジャは、性格が陽気であり、それはいいのだが家事は苦手で、子供達には花札を教えて喜ぶような飛んでもないお祖母ちゃんだった。
本作をキリスト教的だと感じるところは、一家のところで働いている村の男ポールが、休みの日に教会へ行くのに、キリストのように十字架を背負って歩く姿を目撃するからだろう。それと、最初はやたらとトラブルが続くのだが、主人公の必死な努力と思いがけない出会いから、一発逆転するという展開にはならないのだった。
だが、息子デビットの心臓病は、この土地の水のおかげで回復に向かうし、家族を土地にとどまる理由を与えたようだった。そして、お祖母ちゃんも始めこそ子供たちから「汚い」、「臭い」と嫌がられるも、一緒に遊ぶうちに大好きなお祖母ちゃんに変わっていった。花札のことは、デビットが、地元の友達と親しくなるきっかけを作った、遊びとなることが喜びに転じる。
しかし、極めつけは、お祖母ちゃんの脳卒中にはみんなが驚く。入院後に退院して、家に帰りふとしたことから、作物を収める小屋を全焼させてしまう。だが、この事件をきっかけに、家族の絆がいっそう強いものに変わることが、この家族にとっては幸いに転じたのだろう。
お祖母ちゃんが水辺に植えた「ミナリ=セリ」自然と自生繁殖したミナリが、全てを失った一家のピンチ助けたことになるからだ。だから、極端な破局も成功も描かれずに、一家はそのトラブルを一つ一つと熟しながら、小さな幸福を大切に育んでいく。地味ながらも、しみじみとした余韻を残す作品となっていた。
(WOWOWにて鑑賞)
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