「パルプ・フィクション」「イングロリアス・バスターズ」のクエンティン・タランティーノ監督が、1969年のハリウッドを舞台に、古き良き60年代アメリカへの愛を描いたノスタルジック・エンタテインメント。有名な“シャロン・テート殺人事件”を背景に、復活を期す落ち目のTV俳優と、長年彼のスタントマンを務めてきた男の友情の行方を、虚実を織り交ぜつつ郷愁あふれる筆致で描き出す。主演はこれが初共演となるレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット。ヒロインのシャロン・テート役にマーゴット・ロビー。
あらすじ:落ち目のTV俳優リック・ダルトンは、なかなか復活の道が拓けず焦りと不安を募らせる。情緒不安定ぎみな彼を慰めるのは、リックのスタントマンとして公私にわたって長年支えてきた相棒のクリフ・ブース。固い絆でショウビジネスの世界を生き抜いてきた2人だったが、このままでは高級住宅地にあるリックの豪邸も手放さなければならなくなる。そんな彼の家の隣には、時代の寵児となった映画監督のロマン・ポランスキーとその妻で新進女優のシャロン・テートが越してきて、彼らとの勢いの違いを痛感するリック。一方クリフはヒッチハイクをしていたヒッピーの少女を拾い、彼女をヒッピーのコミューンとなっていた牧場まで送り届けてあげるのだったが…。
<感想>1969年8月9日、事件は起こった。この落ち目のTV俳優リック・ダルトンの二人にも――ラスト13分。タランティーノがハリウッドの闇に奇跡を起こす。それは自らが少年時代を過ごした時代と街へのラブレターであり、アメリカの“夢の終わり”への痛烈なカウンターパンチでもあった。
主演は本作が初共演となるレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット。そしてマーゴット・ロビーが映画の都に降り立った美女、シャロン・テートを演じている。そして、驚いたのが、ご老体の、アル・パチーノ、カート・ラッセル、ブルース・ダーンといったベテラン勢の豪華版共演と相成った。
たとえアメリカの夢が終わっても、映画への夢は終わらない。そんなタランティーノの声が聞こえてきそうな、問答無用の2時間41分である。
もちろんCGは使ってない。建物やファッションや音楽はもちろんのこと、ポスターからバス停に至るまで、当時の再現でありそっくりそのままなのだ。
今作でもう一つ、大きな題材となっているのが、同じく1969年に起こったシャロン・テート事件である。当時26歳で妊娠8カ月であった女優のシャロン・テートが、チャールズ・マンソン率いるカルトの信者たちに惨殺された事件。今もハリウッド史上の悲劇として語り継がれるが、なぜ人々はこの事件にこれほど興味をそそられるのか。
どうしてマンソンが若い男女にあれほどまで信奏され、彼らを自在に操られたのか、まったく想像を絶するのだが、理解できないこそ、興味をそそられるんだと思う。
シャロン・テートの夫といえばロマン・ポランスキー監督だが、彼もスクリーンに登場する。あの当時ロマン・ポランスキー監督は、ハリウッドで、最もホットな映画監督だった。大ヒットした「ローズマリーの赤ちゃん」の収益が800万$だったそうだ。現在の金額に換算したら5600万$くらいかな。歴史的な大成功を収めた。その一方で、カルト教団のマンソン・ファミリーの描写は興味深いですね。彼らが生活をしているスパーン映画牧場(西部劇撮影用の牧場)の様子がていねいに描かれている。
リックは60年代後半のハリウッドに現れた新しい俳優の典型だ。マッチョでなく、女性的な面もあるタイプ。その彼が昔ながらのハリウッドの価値観のなかで、自分の将来に不安を感じているようす。ハリウッド文化のなかで生き延びられるだろうか?、そんな悩みを抱えながらも、どこかおかしい人間を描く時のクエンティンの演出がとても良く出来ていた。レオとブラピの友情を印象づける息の合ったコミカルな演技は、今作の見せ所の一つといっていい。
リックとクリフは、当時のハリウッドによくあった俳優と裏方のコンビだ。俳優というのは本来孤独な職業だと思う。だからこそ、裏方の制作関係者とは家族のような関係になっているようだ。クリフはリックの沈んだ心を明るくしてくれる相棒みたいな存在。二人はプロフェッショナルな関係だけれど、同時に家族のような絆で結ばれていると思う。
俳優として自信が持てず、ある映画の撮影中についにセットで泣き崩れるリック。その演技に対し、ブラッドもスクリーンの歴史に残る、メルトダウンの名演だと思うと称賛を惜しまない。子役に励まされるシーンも笑いを誘う。子供であるにもかかわらず、演技に真剣に取り組んでいるプロの女の子だ。
対してブラピが演じているクリフは、おんぼろトレイラーハウスに犬と暮らす楽観主義者だ。リックとクリフを一人の人間の、表裏だと考えているというのだ。リックは人生から理不尽な扱いを受けていると感じている。一方の、クリフは自分の居場所を受け入れて、心穏やかに生きている。何が起きても受け入れて、その時その時で何とか対処をしていけると分かっているようだ。クリフは体力自慢のスタントマンであり、身体にいくつもの傷をもつタフガイである。劇中では様々なファイトシーンを演じているが、中でもブルース・リー(マイク・モー)との格闘シーンは話題を呼ぶと思う。ブラッドは激しいアクションをこなすため、事前にトレーニングをしてきたと言うのだから、それくらいに凄かった。
特に最後のアクションも凄かった。リックの豪邸のお隣がシャロン・テートとロマン・ポランスキーの豪邸。そこへ、ヒッピーのカルトの信者たちが襲撃してくるのだ。リックはプールでプカプカ浮かびながら、ヘッドホンで音楽を聴いていた。だが、自分の家に強盗が襲撃すれば、納屋に隠していた映画用の火炎放射器を出してきて、半狂乱でプールの中にいる女性に、火炎放射器を浴びせかけるのだ。どうみても男らしくはない。でも、何だかんだいっても、その二人が見事にヒッピーたちを成敗してしまうのだから。
もちろん、隣に住んでいるクリフも、薬でラリってはいるが、戦場で培った度胸と反射で、いつのまにか敵と対峙しているではないか。女の顔をバンバンと壁に打ち付けるのが印象的だった。
車や自宅のラジオから、のべつ幕なしにおかまいなしの無神経さで音楽が流れ続けるのだ。これも60年代のハリウッドなので、土ぼこりと共に我慢するしかない。その我慢はやがて快楽へと変わるだろう。
ネタバレではあるが、しかしだ、タランティーノ映画の実物は、いつもそれらを軽々と上回っていて、圧倒的な大きさで観ている者を黙らせるのだ。
うっかりして気がつかなかったのが、デミ・ムーアとユマ・サーマンとアンディ・マクダウェルの娘が出演しているというのだ。1回観ただけでは分からない。二回目、三回目には必ずや見つけてやると、意気盛んで見届けたい。
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