貧しい家庭の不良少年が、プロの音楽家に見出され、コンクール目指して過酷なレッスンに打ち込み成長していく音楽青春ドラマ。主演は「アスファルト」のジュール・ベンシェトリ、共演にランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス。監督は長編3作目のルドヴィク・バーナード。
あらすじ:パリ郊外の団地で貧しい家庭に育ったマチュー。不良仲間には秘密にしているが、実はピアノが好きで、パリ北駅に置かれた誰でも自由に弾けるピアノで練習するのが何より好きだった。そんな彼の才能に目を付けたのが、パリの名門音楽学校コンセルヴァトワールでディレクターを務めるピエール。マチューが盗みの罪で警察に捕まると、実刑回避に一役買い、マチューはコンセルヴァトワールでの清掃の公益奉仕を条件に釈放される。そんなマチューにピエールは、女伯爵の異名を持つピアノ教師エリザベスのレッスンを受けさせるのだったが…。
<感想>自分のこの指で、未来を拓くが主題のこの映画。ストーリーはありきたりの成功物語だが、俳優と、ラ・セーヌ・ミュージカルなどのロケーションを含むパリの風景、ラストで弾いて聴かせてくれるラフマニノフ「ピアノ協奏曲2番」などの、名曲とで一応の体裁は整えていたのが良かった。
だが、目的地点、つまり成功に到達するまでは、エピソードが予定通りに積み重ねられていくので、もう一工夫欲しいところですね。
物語が、郊外のおよそクラシック音楽と縁のなさそうな青年が、見事にピアノを弾いてのけるっていう設定に、最初は恐れを感じていたが、主人公のジュール・ベンシェトリが、これまでに全くピアノに触れたことが無かったから疲労困憊して、演じた興味深い作品です。
さすがにピアノの演奏自体は吹き替えだが、それを観客に悟られずに、違和感なく見せることが出来るのは、俳優の演技力の賜物だ。ピアノに対する向き合い方を進化させていくのが、この作品の肝でもある。マチューには絶対音感があるけど、クラシック音楽の基盤が無い上に、プロになるために不可欠な、忍耐強く規律正しく演奏する技術が備わっていなかったのだ。
でも、ランベール。ウィルソン扮するピエールや、クリスティン・スコット・トーマスが演じる女伯爵と呼ばれるピアノ教師と出会ったことで、彼の中にピアニストとしての自覚と自信が少しづつ芽生え始めるわけ。
だが、型にはまった展開がいちいち予想できてしまうのがつらいものの、演奏時の静かな間など、場面ごとの見せ場をゆったりと堂々たる演出で見せきったのには感心しきり。キャストも良く、とりわけ、クリスティン・スコット・トーマス演じるピアノ教師“女伯爵”の存在感が素晴らしかった。この作品は、ディレクターを務めるピエールの自分の地位を持続させるために、マチューを選び賭けに出た結果、見事勝利を収めることが出来たわけ。もちろん、マチューの天賦の才があったからこそですね。
天賦の才能を持つマチューが、プロを目指して努力を重ねる姿には、父親の監督作品で俳優デビューを飾った後、バーナード監督と出会い、一皮むけたジュール自信の姿と重なってゆくのもよかったですね。
横顔の、額から鼻筋にかけての輪郭に、フランスを代表する名優ジャン=ルイ・トランティニャンを祖父に持つその面影がにじむ、サラブレットであるジュール・ベンシェトリの今後に期待しようではないかと思った。
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