帰ってきた“いつまでかけるか”

マイペースに日常を暮らす。

小説「底」その4

2013-02-15 02:24:27 | 小説
「私に見せたいものって何?」
家どうしは、ご近所なのに電話で呼び出すのなんてオカシイと思ったが
私は久々の実家で、あんまり暇なのもあったので気がゆるんでいたのかも
しれない。まあこのせまい田舎だ、変なことはしまいと、ここはAを
信じた。
「お前、三回生だったよな?なのにお前ヒマそうにしてるから、というより
論文も手につかなくてシューカツもしてなさそうだから、
まあ論文のテーマぐらいにはなりそうなネタを提供して
やるよ。」
と言ってやってきたのは、このあたりでも一番大きな池だった。
私はとっさに恐怖を感じた。
「バカッ震えるなよ、ここでお前を突き落すとでも
思ったのか。んなこととしても何の得にもなんねえよ。」
そうだ、ビックリしすぎだった。

小説「底」その3

2013-02-12 18:13:30 | 小説
とにかく家に戻り畳のある部屋で寝っころがりながら天井を見上げ
私はあることに思いをめぐらせた。
〝Aが言いかけた沼の話って、やっぱりアレのことだよね・・・”
と言っても特別な話ではないだろう。池とか沼には
昔からちっさい子が行っちゃダメと言われているのに遊んでいたり
これまた禁止されていても釣りをしたり。そして・・・
〝そこから先は想像したくない考えたくもない。”と思うと
私はガバッと飛び起き、とりあえず持って帰ってきた
パソコンでネットでもしようかと思ったのだが、そこで母が
「奈々子!あんたAくんから電話やで。」
こんなことがあるからケータイも大学近くのアパートに
置いてきたのだ。だいたいオカンという存在は・・・
と言っても仕方がないので電話に出た。

小説「底」その2

2013-02-12 13:46:35 | 小説
沼までと言ったが別に大した目的があって歩いたわけではない。
散歩の目的地が田舎というところはないのである。
だから無意識のうちにこの沼まで来たのだ。そこで思わぬ
人物と出会った。幼なじみの男だ。まあ何かと差し障りがあるかも
しれないので名前をAとしておく。
そのAがこう言った。
「よう!奈々子、お前大学行ってきれいになったなあ。
ちっちゃい頃は全然不細工やったのに。ところで、この沼
知ってるか?あの・・・」
そこまで言われて私は逃げるようにして実家の方へと向かった。
私は、こういう男は生理的に嫌いなのだ。そうは言っても
昔はよく遊んだけど。

小説「近未来式時計」第1章~時計の街まで、いらっしゃい~その2

2013-02-11 10:12:35 | 小説
それは父であるハリーの存在だ。父は時計職人であった。
可憐は小さい頃、父の仕事をする姿をよく見ていた。その姿を可憐は
尊敬の眼で見ていた。そんな可憐だから父と同じ時計職人になりたいと思ったのも
当然かもしれない。そんな父は若い頃に修行に行っていた〝時計の街”のことを
よく話してくれた。そして可憐は、その町に憧れを抱いた。
そして、故郷を出発の日。母が見送りに出てくれた。その想いを胸に、可憐は街を後にした。
わずかな金銭と、父からの手紙をポケットにしまいこんで。

小説「近未来式時計」第1章~時計の街まで、いらっしゃい~その1

2013-02-10 21:25:01 | 小説
呉可憐は、遥か彼方の街まで歩いていた。
それは、〝時計の街”までへと続く道だった。可憐は、歩きながら思い起していた。
彼女が育った町は、いわゆる〝クロック・ロード”と言われるところの出発点、
〝ソンロゼ”という町だ。そこは小さい町ながらも、それなりの賑わいののあるところだった。
その故郷から〝時計の街”まで旅に出ることになったのには理由があった。