めいぷるアッシュEnnyの日々是好日

雲の墓標


「長門」に続き阿川弘之の戦争文学を読む。
「雲の墓標」昭和31年刊

昭和十八年十二月十二日から昭和二十年七月九日朝までの日記の形で綴られている。(終戦昭和20年8月15日)

主人公は学徒動員により飛行予備学生として入隊。
特攻出撃までの軍隊生活、
特攻迄の心の持ちようをリアルに描いている。
リアルと書いたが違う「生々しい」とも違う。
生への執着と死の恐怖に身悶えする真実の姿を描いている。

どうしたわけかなかなかページが進みませんでした。





生前父が護国神社の慰霊碑に刻まれた海軍の部隊名を指さして、この部隊に兄がいたという事を言っていた。その部隊名は五〇一空だ。
その兄が亡くなったのは昭和十九年六月十九日と墓碑には刻まれている。
この小説の主人公が特攻行く一年ほど前になる。
(特別攻撃隊の初めての出撃は昭和十九年一〇月二十一日)
父は生前、2人の兄がどんな死に方をしたのか知るために厚生省援護局にも行った。
私もどんな状況下で死んでいったか、どんな思いだったかを今も知りたいと思っている。

日記を読んで少しホッとしました。



主人公の大分県宇佐海軍航空隊基地でのひとコマの中に五〇一空のことが書かれている。

昭和二十年二月十四日
一直の副直将校見習いに立つ。空母四十乃至(ないし)五十隻を基幹とせる大機動部隊がマリアナ根拠地を発したという情報入り、夕方六時より合戦準備、明朝〇四〇〇より第二警戒配備となす。事態急迫す。

午後の飛行作業取り止め、艦攻練習機を飛行場外の掩体壕(えんたいごう)にうつし「銀河」五十機の進出に備う。自分は三号機をひき出し、悪路のため無理をして、車輪をパンクさせた。

当隊にいるもの、七〇一空、五〇一空、七〇八空、全部特攻隊員なり。しかし道場住まいの七〇八空下士官搭乗員たちは、死をまえにしてひねくれ根性を露骨にさらけ出している。昨晩も今日も、酒に酔い甲板棒を持って学生舎にやって来、われわれは明日死ぬんだから、士官はわれわれをあつかうのにもうちっと注意してくれという。与太者のように「明日死ぬから、明日死ぬから」を連発する。学生総員と激論になる。かかる連中を引き具して死地につき、使いこなして戦果をあげること、容易ならず。
(以下略)

<学生出身者は一定期間の錬成を終えると少尉に任官され、部隊を率いて出撃することもあった。>

昭和二十年二月十八日
五時起床、敵機にそなえる。五〇一空は午前〇時より待機。夜を徹して発動機のおとやまず。ペラの轟音肝を揺さぶるごとし。腹を据え眼をむいていないと、酔ってしまう。(中略)
十二時頃、搭乗員は指揮者まえに集合していたが、室戸岬沖および有明湾沖に敵発見の報に、出発命令が下る。鹿屋基地に集結、数時間後には特攻出撃である。水盃のあと、われわれは飛行場にななめにならんで、帽を振って見送る。「銀河」十八機、機上よりも帽を振って見おくる者、敬礼している者、出発点に向う地上滑走で、わざわざわれわれの方へ寄って来て走り去ったり、前部の偵察席から立ち上ったりするのは、十三期の先輩、慶應、早稲田、東大出身の連中らしい。離陸するとき、一機一機機首を突っこんでスピードが増してゆくにつれ、電信席から手の先だけ出して、前後に激しく振っているのが、小さく遠くすぐ見えなくなる。胸をつかれる。見おくり後、飛行機を分散する。


二月二十二日
昨晩の雪が三寸ほどつもっているが、水っぽい雪で、日射しはつよく、ぽかぽかとあたたかい。衣服を脱ぎすてて光を浴びたい春日和である。「垂水の上のさ蕨の萌え出づる」季節になった。たんぽぽが咲いているかも知れないと、Gがいう。雲雀はもう鳴きはじめた。九州もいいなァ、とおもう。生きていることも、やっぱりいいなァ、とおもう。
雪合戦。きょうの雪は握るときゅっと固くなる。雪のなかで、取組みあい、元気一杯でやった。それから大きな雪だるまをつくった。雪のあたらしいところを掘って、コーヒー・シロップをかけて食うと、とても美味い。
「銀河」の連中は、昨晩、配給の太平洋を飲んで無茶苦茶に騒ぎ、騒ぎがしずまるとあつまって泣いていたが、きょうは午後から雪を吹き上げて次々に離陸、出水にかえって行った。見おくる。


遺 書  二

鹿島へ。

雲こそ吾が墓標
楽暉よ碑銘をかざれ

わが旧き友よ、今はたして如何に。共に学び共によく遊びたる京の日々や、其の日々の盃挙げて語りし、よきこと、また崇きこと。大津よ山科よ、奥つ藻の名張の町よ、布留川の瀬よ。軍に従いても形影相伴いて一つ屋根に暮らしたる因縁や、友よ、思うことありやなしや。されど近ければ近きまま、あんまり友よしんみり話をしなかったよ。なくてぞ人はとか、尽きざるうらみはあれど以って何かをしのぶよすがとなせ。
友よたつしゃで暮らせよ。

昭和二十年七月九日朝 吉野次郎


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