NPO法人POSSE(ポッセ) blog

ブラック企業問題の本当の論点

今回は代表・今野晴貴のブログよりブラック企業問題について述べた記事を転載します。

***以下、今野ブログより掲載***

ブラック企業問題の本当の論点


・「ブラック企業」という言葉の持つ意味
 ブラック企業という言葉は曖昧で、とらえどころがない。最近では「ブラック企業大賞」という市民運動の企画の中でも物議をかもしている。東電がノミネートされたことで、ただ「イメージの悪い企業」をさすだけの言葉になってしまっている、と批判されている。
 考えて見れば、他の労働問題のタームでは、「過労死」「派遣切り」「偽装店長」「サービス残業」など、問題としていることがはっきりしている。
 私が思うに、「ブラック企業」という言葉の持つ意味は、「正社員の変化」にある。これまで「正社員になれば大丈夫」といわれ、中学生の段階から「生涯賃金の違い」のグラフを見せられ、競争が煽られてきた。
 ところが、実は正社員も大きく劣化していたという問題。若年労働者が次々にパワハラと長時間労働で鬱病にさせられ、過労死・自殺の事件が起きているということ。この問題なのである。
 
・「ブラック企業」という言葉の背景
 「正社員の変化」という問題としてブラック企業を捉えると、「違法行為」がブラック企業の特徴だと語ることも間違いになる。サービス残業や過労死といったものは、ブラック企業」という言葉が出てくる以前から、日本社会で問題になっていたからだ。
 ところが、従来の日本型雇用では、サービス残業などの違法行為に耐える代わりに、生涯を通じて生活の面倒を見るという場合も多かった。しかし、現在のブラック企業には、まったくそんな心づもりはなく、使えなくなったら容赦なく社員を切り捨てようとする。
 90年頃のバブル崩壊までは、過酷な労働をしなければいけないのは若い時期だけで、年齢を重ねるごとに過酷さはだんだんと緩和され、給料も上がっていくという認識が労使間で共有されていた。いわゆる日本型雇用といわれる終身雇用や年功序列といった制度がその典型だ。その代わり、社員は企業の命令を絶対的に遵守するという、ある種の「契約」があった。つまり、賃金が支払われないサービス残業など、違法なことを我慢する代わりに、得るものも大きかったといえる。
 しかし、そうした日本型雇用を維持できたのは、70年代以降も続いた日本の右肩上がりの経済成長があったからこそ。バブル崩壊以降は低成長時代に突入し、企業が社員の生活を守る力がなくなっているのにもかかわらず、企業の強い命令権だけが残ってしまっている状態になった。そのため、ブラック企業が現在、社会的な問題になってきているのだ。
 企業の側からの「雇用ルールの裏切り」の横行こそが、問題の本質なのである。
 
・ブラック企業を生み出す日本社会の構造的欠陥
 このように労働者が圧倒的弱者となってしまう背景には、日本の社会制度の不備が指摘できる。
 もともと日本では、手厚い企業福祉を前提として社会設計がなされていた側面がある。住宅手当や家族手当など、本来では国家が税金を通じた再配分で保障する部分を、企業福祉が代替していた。しかし、長引く不況で企業は手厚い福利厚生を維持できなくなってしまったことから、国からも企業から福祉を得られない状態に陥った。
 
・どう対抗すべきなのか
 現状を打開するためには「高福祉、低命令、低処遇」の社会を目指すしかない。まず、一番大切なのは、低命令。長時間残業や過酷なノルマによって、過労死・過労自殺・鬱病が蔓延しており、一刻も早くこれを是正しなければならない。
 しかしやっかいなのは、日本において長時間残業や過酷なノルマは、「終身雇用・年功賃金・企業福祉」とセットで、法的にも認められてきたものだということだ。法の論理としては、「終身雇用や年功賃金、企業福祉を求める以上は、どんな命令にも従ってもらう」ということになってしまう。
 だから、ブラック企業を是正しようとおもったら、まずは「命令の規制」を優先し、企業福祉や年功賃金の要求は後回しにするしかない。しかし、そうすると今度は生活が成り立たない。だから、そこは国家が福祉政策として担保すべきなのだ。このためには、生活保護を解体し、一定以下の年収の者には医療や教育を無料化していくことが有効だ。こうすることで、病気や進学で一気に家計が破綻することを防ぎ、就労と社会参加を促進できる。賃金ですべてをまかなわなくとも、家族を形成し、維持することはできるようになるだろう。
 要点をまとめると、国が社会福祉を充実させ、企業の命令権を法規制で弱める。その代わり、労働者は給料などの処遇を低い水準で我慢するという方策を取るという主張だ。ただし、この「低い賃金」は今以上に低くなることを想定しているのではない。現在の賃金は十分すぎるほどに低い。
 実はこの「低処遇」というところには、間違いがあって、本当は修正したいのだが、すでにいくつかの雑誌に出てしまって困っている。本当は、「年功とは違う論理で賃金を決定せよ」ということが言いたいのだ。大企業の正社員=エリートとは違っても、低処遇には低処遇の決定の論理と安定がある、という状態を作り出す必要がある。それは本来的は仕事の内容=「ジョブ」による決定である。
 これについては『POSSE』15号の今野論文を参照していただきたい。

http://www.npoposse.jp/magazine/no15.html
 
 このような「ジョブ型賃金」と福祉、適切な労働時間であれば、なんとか子供を育てて暮らせるだろう。
 想像して見てほしい、先進国並みに、保育、教育、医療、住居が無料ないし定額であれば、ほとんど生計費はかからない。また、遅くとも夜7時までにかえることができれば、それから家事や育児をたくさんこなせる。生活の経費は激減するはずである。
 
・エリートとノンエリート
 このような雇用モデルは、濱口桂一郎さんがいうように、ノンエリートに関するものである。柔軟な命令と高賃金の組み合わせは、各国でもエリート部分には一定共通している。日本では「日本型雇用」と呼ばれる人口で6%にもみたない「エリート」部分の労働条件が、あたかも国全体の標準であるかのように語られてきた。
 このため、政策においても福祉は非常に劣悪で、労働規制もろくにおこなっていない。「企業の賃金と福祉で生活しろ」ということだ。また、「賃金が高いんだから、法規制など必要ない。いくらでも働け、稼げ」といってきた。この結果は、極めて自由度の高い、無規制の状態である。低賃金でいくらでもはたらかせる、という常識はずれの雇用システムを作り出してしまった。
 ここまで大企業中心に国全体を作ってきた国家・労組は他に見当たらない。「普通の人」が普通に暮らせる国づくりを、当たり前だが求めていく必要がある。ノンエリートの生活設計を、国家が福祉と規制で守らなければならない。また、労働組合がこれを推進しなければならない。
 
・経済効果
 福祉と労働規制を行うことで、実は経済の持続的な成長も期待することができる。社会福祉をしっかりやれば、中小企業は関連の仕事が増え、国内産業を育てることができる。そして、子どもを育てられるような状態ができ、少子化にも歯止めがかかって内需の拡大も期待できる。
 このときに、あくまでも福祉の分配を「賃金」ではなく、現物給付の「福祉」で提供することが味噌になる。賃金の場合には、大企業労働者に偏って多くが支給される。大手企業の社員であれば、1000万を超え、2000万に迫るかもしれない。普通の生活では使い切れないほどの高所得は、結局株の投資や海外の高級品の消費にあてられてしまい、日本の中の経済循環=経済成長には結びつかない。
 現物給付の福祉に充当すると、まず日本全体の福祉が向上することはいうまでもなく、それを担うのは日本の看護師や介護士、提供されるのは日本の住宅である。ここに新しい雇用が生まれ、経済循環が促進される。日本で作ったものを、日本の人が消費する、という経済を構築することで、日本経済は強くなるのである。
 この意味では、ベーシックインカムのような「お金のばらまき」も危うい。お金をばらまいても、実際にそれが日本経済の成長に使われるかはわからない。たとえば、医療保険がなくなってしまったら、アメリカの保険会社にお金がどんどん吸い取られてしまう。ベーシックインカムもただの「アメリカへの援助」になってしまうだけだ。もちろん福祉の内容も下がる。
 具体的な現物の「生産物」と「サービス」の生産と配分こそが問題なのである。

***以上***

 

****************************
NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人で す。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集 しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
____________________________________________________

NPO法人POSSE(ポッセ)
代表:今野 晴貴(こんの はるき)
事務局長:川村 遼平(かわむら りょうへい)
所在地:東京都世田谷区北沢4-17-15ローゼンハイム下北沢201号
TEL:03-6699-9359
FAX:03-6699-9374
E-mail:info@npoposse.jp
HP:http://www.npoposse.jp/

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ニュース解説・まとめ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事