ＮＰＯ法人ＰＯＳＳＥ（ポッセ）　blog

POSSEオンラインアカデミー第１回　イベントレポート

2020-08-17 20:03:59

　派遣切り、学生の貧困、医療崩壊…コロナ危機の中で様々な課題が浮き彫りになっている今だからこそ、若い世代と共に現場の声から社会問題を考える場を作りたい。「危機の中でこそ、学ぼう」をテーマに発足したPOSSEオンラインアカデミーの第１回目が、８月６日に行われた。

　オンライン連続講座は初の試みであったが、「自分にできることがないか考えたい」「コロナ危機で深刻化する奨学金問題に関心がある」といった声とともに若い世代を中心に約２０人から申し込みが寄せられ、盛況のうちに幕を閉じることができた。

初回のタイトルは「コロナ危機と貧困」。
前半の講義部分では、POSSE事務局長の渡辺を講師とし、日本の社会保障制度や労働市場が抱える課題について６０分の講演があった。

　講義では、日本の貧困と社会保障制度の概観が示され、その後でコロナ禍での貧困の現状が解説された。
冒頭で渡辺は「経済成長ありきの社会保障は、もう成り立たなくなっている」と指摘。低賃金の非正規雇用が広がり、どんなに働いても生活を維持できない「ワーキングプア」が増えていること、年々企業の利益が増大するのと反比例して賃金が下がっていることを挙げ、労働分配率を下げる事で無理やり経済成長を促しているのが日本の現状であり、経済成長による貧困改善はありえないと示した。

　また、貧困が子供の虐待につながるケースが多いことから、家庭の貧困が子供に及ぼす影響が解説された。親からの虐待の影響で就労が難しかったり、借金を抱えて劣悪な労働市場で働かざるを得ない場合、貧困は親から子供へと連鎖してしまうという。
　虐待により就労困難となった２１歳男性のケースが紹介されると、参加者からも「１８歳以上だと相談できる機関がほとんど無く、被害が埋もれてしまいますよね」と貧困家庭への成人後の支援の薄さを指摘する声が上がった。

　社会保障の現状については、本来生活保護を受けるべき人が水際作戦に遭い、受給困難になっている問題を指摘。現場では申請者に対し「風俗に行けばいい」「実家に帰れ」などと責める不法な水際作戦が横行しているという。

　これらの現状がコロナ危機によってさらに深刻化していることが、相談の現場からは明らかになっている。
　感染拡大からの３ヶ月間で、約３０００件の相談が来ている。これは例年１年間で受ける相談の数に相当するという。
　中でも目立つのは、非正規雇用の女性からの相談である。コロナ禍で困窮する女性の訴えからは、家計を支える女性が増えている一方で、非正規が雇用の調整弁として簡単に切り捨てられている現実が見て取れる。

　渡辺は、この危機に立ち向かうため社会運動によって声を上げる必要があると強調する。
　労働組合によって「雇い止めの撤回」「休業補償の支給」が既に多数実現している。「コロナだから」という雰囲気を打ち破り、組合を通じた権利主張をしていく事は、自分の身の回りのみならず、社会を改善していく事に繋がると呼びかけ、講演を締めくくった。

　この講演を受け後半で行われたワークショップでは、様々な感想や質問が挙がった。
「労働者の貧困が、虐待問題など様々な社会問題に関連していると気づいた」などの感想が上がったほか、「学生の立場で弱い立場にある人をどう支援していけばいいか」という質問に対しては、ぜひPOSSEで一緒に取り組んでほしい、と渡辺が呼びかける場面もあった。
　また「日本の貧困問題について、気になってはいたが今まで話す機会がなかった」という声も多く、このような場を設けることの重要性を改めて認識した。

　今回は、日本における貧困や格差の構造を考えることができる、初回にふさわしい講座となった。今後も「外国人労働問題」「LGBTQの労働問題」「福祉」など様々なテーマを予定しており、運営側も充実したラインナップに反響を期待しながら準備を進めている。
　これからも社会問題に関心のある学生と共に、様々なトピックについて議論を深められることを楽しみにしている。

（POSSE学生ボランティア　岩本菜々）

■「POSSEオンラインアカデミー」とは？
　新型コロナのパンデミックは、私たちの社会のなかにある矛盾を露わにし、加速させた。危機のなかでこそ、この社会のあり方を深く思考し、実践することが求められている。そこで、POSSEでは「コロナ危機のなかでこそ、学ぼう」をテーマに、「POSSEオンラインアカデミー」をスタート。定期的にオンライン上で学習会を開催し、学校では学べない現場の実践にもとづく知見から、社会問題を考える。

■今回のPOSSEオンラインアカデミー「コロナ危機と貧困」アーカイブ映像

■次回のPOSSEオンラインアカデミー「コロナ危機と外国人労働者」