■労働相談の概況
この間の労働相談は、7月37件、8月20件、9月25件と、3ヶ月で合計82件にのぼりました。
相談内容としては、退職勧奨に関するものが24件、パワー・ハラスメント(以下、パワハラ)が23件、賃金未払いが18件と大半を占めています(1件の相談のうち複数の問題を含む場合は、重複して計上)。
相談者の雇用形態としては、正社員からの相談がもっとも多く、約54%を占めていました。また、勤続年数に関して、約4割が1年未満であったという特徴があります。(詳細については、別添2011年7~9月労働相談状況(PDF形式)参照。)
■傾向の分析と今後の活動方針
今季の相談傾向をみると、退職勧奨や解雇(15件)といった離職に関するものや、パワハラの相談が依然として多いという印象を受けますが、今回は、この間増加してきており、今季15件の相談が寄せられた長時間労働の問題に着目したいと思います。
長時間労働の相談においては、1日の労働時間が(労働時間を把握できるものだけでも)すべて12時間を超えており、なかには1日21時間労働を1ヶ月続けたというものもあります。あるいは、「毎日深夜2時まで」「毎日誰かが徹夜をしており、2~3日家に帰れない」という相談や、「2年間で休みがとれたのは年末年始のみ」といったものもありました。
これらの長時間労働は、過労死ラインをはるかに超えたものとなっています。「今月の残業が150時間を超えた」という相談からは、いつ病気になってもおかしくない、最悪の場合にはいつ亡くなってもおかしくない、という状況下で働いていることがうかがえます。
(*過労死ラインとは、厚生労働省が出している「脳・心臓疾患に関する(労災)認定基準」のことを指します。このなかでは、発症の直前1ヶ月に100時間以上、または2ヶ月ないし6ヶ月のいずれかの平均で80時間以上の時間外労働をしている場合、疾患の発症と仕事との関連性が強いとされています。)
また、パワハラなど他の要因も関係していると考えられますが、病院でうつと診断された方、あるいは自覚症状がある方からの相談も増えてきています。長時間労働とうつの相談からは、心身ともに体調を崩すまで働かされている状況がわかります。しかも、働くことにこれだけ多くの時間を費やしていると、体調に不安を感じたときに、休んだり病院に行ったりする、あるいは相談する、といったことさえできないため、問題がより深刻化する傾向があります。
ではなぜ、こうした長時間労働に労働者は巻き込まれてしまうのでしょうか。
労働基準法では、労働時間は1日8時間、週40時間以内でなければならないと定められています。そして、この法定労働時間を超えた労働(時間外労働)に対しては、使用者は割増賃金を支払う義務を負います。時間外労働についていえば、通常の賃金+25%を支払う必要が生じるため、こうした割増賃金の支払いが間接的に長時間労働を防止する機能を有しているといえます。
逆に言えば、日本においては、こうした間接的な意味での労働時間規制しか存在せず、1日の労働時間に上限を設けるなど、直接的な意味で労働時間を抑制するものが存在しないのです。ヨーロッパでは、EUにおける労働時間指令によって、毎日最低11時間の継続する休息をとる権利が確保されなければならないというかたちで、労働時間が規制されています。
さらに、日本では労基法で定められたこの最低限のラインさえも守られていない現状があります。ここで1つの事例を紹介します。
IT関係の会社で事務作業をしている方から、「給料明細を見る限り、裁量労働制が採用されているようだ。インターネットで簡単に調べたところ、全て個人の裁量に任せるといった内容のようだが、会社からは勤務時間が定められている」という相談がきました。裁量労働制とは、新技術・商品の開発など使用者が労働の遂行手段や労働時間の配分について具体的な指示をすることが困難な業務について、労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなす制度です。この方の場合、勤務時間が使用者によって決められている時点で、そもそも裁量労働制が認められない可能性が高いといえます。
また、最近では固定残業代、あるいはみなし残業代といった制度をとる会社が多く散見されます。これは、現実の時間外労働の有無や長短にかかわらず、一定時間分の定額割増賃金を支給し、これ以外の割増賃金を支給しないというものです。残業代を固定で支払うこと自体は違法ではありませんが、実際には、残業代の定額頭打ちの制度として利用されていることがほとんどです。
このように、多くの法制度、あるいは会社独自の制度が、企業が残業代を支払わないための方策として使用され、現にそうした仕組みを後押しするようなハウツー本やマニュアル本が企業側の弁護士・社会保険労務士から出されているのです。割増賃金が長時間労働を抑制するものとしての、本来の機能を果たしていないといえます。
こうした現状に対しては、日本においても実質的な労働時間規制の成立が求められます。その一つの取り組みとして、過労死防止基本法の制定運動が挙げられます。長時間労働が普遍化してしまっている現状に対して、100万人署名を中心とした世論形成を進めていくことで、国に具体的な対策をとらせていくことを目的としています。(“ストップ!過労死”実行委員会HP http://www.stopkaroshi.net/index.html)
また、現場レベルでの対処としては、割増賃金の支払いによって長時間労働に縛りをかけていく必要があります。そのためには、働いた時間の記録を残し、請求行為をきちんと行っていくことが重要です。さらには、過労死ラインを超えるような働き方を続け、体を壊してしまってからでは、未払い分を取り返すことも難しくなってしまいます。つらい、きついと感じたら、一度その職場から離れ、休むという選択肢もあります。また、自分自身だけでなく、家族や友人など、身近な人の働き方に不安を感じた場合、早めに相談をすることが、その後どういった選択をするにしても重要になります。NPO法人POSSE(ポッセ)では、相談活動を通した相談者へのアドバイスを行うとともに、日本で所与のものとなってしまっている長時間労働やうつの問題に今後も取り組んでいきます。
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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。
なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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