2013年の安倍政権の労働改革のなかでも、特に「限定正社員」の議論は労働問題に取り組む団体・研究者の間で話題になりました。そこでは、限定正社員が解雇をしやすくなるだけであるということで反対する意見が多くみられました。この記事では、昨年8月に開催されたシンポジウムをもとに、『POSSE』20号に掲載された企画「限定正社員をどう論じるのか」における、限定正社員のとらえかたをめぐる論考を紹介します。
まず、甲南大学名誉教授・熊沢誠さんの意見です。熊沢さんは、限定正社員に対する批判の高まりについて、雇用形態やそれに対応する処遇は、本来労使自治にゆだねられるべきであるにもかかわらず、労働者の労働条件に対する発言権・決定権があまりに低いため、労働運動が政府の労働政策に過剰な関心を寄せすぎていると述べます。
熊沢さんはこれまで、労働の種類や働く部署などの変化に適応する働き方のフレキシビリティと、それに適応するために生活において企業や仕事を最優先する生活態度の二つの適応力が、「会社人間」を生み出していると主張してきました。そのうえで熊沢さんは、仕事領域を限定するとされる限定正社員の特徴が、そうした労働者に対する企業の要請を相対化しうるという側面にこだわります。
そして、限定正社員の導入に絶対反対することは、「数的にも絶対多数でなくなるとともに、既に幻想になった純正社員の保障モデルに危うく依存して、そこにはかない期待をつなぐもの」と痛烈に批判します。
最後に熊沢さんは、限定正社員の導入に対しての二つの要求を労働組合に提案します。急進的な一つ目は、「すべての非正規労働者を無期雇用の限定正社員に転換せよ」。「場合によっては、企業の無限定な働き方を制約できない従来の正社員を限定正社員にしたっていいよくらい」という自身の見解を明らかにしています。二つ目は、一つ目までいかなくても、「純正社員と限定正社員の相互転換性の獲得」を前提にした上での「限定正社員の有期雇用化の拒否」です。
龍谷大学教授の脇田滋さんは、企業への貢献度や責任という「歪んだものさし」に基づく人事管理のなかに、現在の限定正社員が位置付けられているところに違和感があると述べています。そうではなく、有期雇用のみならず非正規全体に対する規制をおこない、安定した雇用のもとで、差別のない限定正社員を標準的な働き方にしていく必要があると主張しています。
昭和大学特任教授の木下武男さんは、過酷な労働を強いられる日本型の無限定正社員と、貧困と雇用不安の日本型非正社員を問題視したうえで、労働運動の目指すべきルートを提唱しています。まず有期雇用の非正規社員を限定正社員に移行させ、その上で従来型の正社員と限定正社員の賃金差別を撤廃、最終的に賃金・労働時間規制とともに住宅・教育・家族・医療・福祉・年金などの政策制度によって生活を支えられた福祉国家型のジョブ型正社員に変えていくというものです。
政策による「上から」の日本的雇用慣行の解体が本格的に始まろうとしています。安倍労働改革では、限定正社員を解雇をしやすくするためのものと位置づける動きもありました。また、企業側がそのように限定正社員を運用してくることも考えられます。それらに反対しつつ、限定正社員に日本型正社員や非正社員のあり方を超えるための展望を見いだす三氏のような議論が、労働運動や研究者に求められているのではないでしょうか。
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