誰も気づかない
私は風
人々の間を通り過ぎ
忘れ去られる
真夏に照りつける
太陽は若者の汗を
作り出す
私が
ほんの少し
彼らの間を
走り去ると
心は和らぎ
ほっと
息を吐き出す
頬をなでると
満足そうな
溜め息が漏れる
ほんの
一瞬
何億万分の１秒が
私の人生
そして
私は
いなくなる
真面目に生きてきた
一生懸命働いた
困っている人を
助けてきた
すべきことをしてきた
つもりだった
そう
つもりだった
夢を失くし
進むべき
道を
見失った
どこに
希望を落としたのだろう
誰か
知りませんか
雨は嫌い
悲しかったあの頃を
思い出すから
ひとりで泣きながら
帰った道
震えが止まらず
寒かった
雨は嫌い
楽しかった思い出を
洗い流すから
青い空の
あの笑いを
遠い遠い記憶に
変えてしまう
雨は奇跡
醜い心を
洗い流してくれる
誰にも消せなかった
渦巻く
黒い闇を
叩き潰してくれる
ああ
だから待ち望もう
降りすさぶ恵みの
雨を
体中で
受け止めよう
大雨のあと
空は雲たちの
いたずら書きで
いそがしい
花たちはおもいっきり
背のびして
空に葉っぱを
とどかせる
ほら
根っこまで
葉っぱのすみずみまで
すんだ空気を
ふくらませて
もうすぐ
もうすぐ
とどきそう
おひさまは
ピカピカ笑ってる
光をもらって
元気になって
花たちが歌ってる
大雨のあと
お花たちの学校は
一日中
音楽会
キレイなきれいな
歌が聞こえるよ
美しいもの
月の雫
可愛らしいもの
猫のしっぽ
あどけないもの
夢
醜いもの
隠れて囁くうわさ話
怖ろしいもの
真夜中に吹きすさぶ風
美味なもの
友と分けるデザート
憐れなもの
ずぶ濡れで家を探す犬
愛おしいもの
生まれたての仔馬
この世で一番大切なもの
私とあなた