折々の記

ブルーのある風景(9)

    高峰を吹き下りた乾いた寒気は、国道沿いに平行に連なる数100mの山々に遮られて、一旦隣町に冷気溜まりをつくる。しかし、吹走し続ける強い北西風の相乗効果は颪となり、凄まじい虎落(もがり)笛を奏でながらこの里を吹き過ぎてゆく。特に晩秋から春先にかけての寒冷前線通過後にこの現象が著しい。

 木々の枝が大きくしなり、土埃が高く舞い上がり、ときに空の在処(ありか)を見失う。家がガタガタ音をたて、一瞬、「浮くっ!」と感じることすらある。その恐怖に子供たちは夜な夜な膝小僧を抱えて眠るのだとよく口にする。が、古老たちは一向に気にも留めずに、炬燵で背を丸めて茶を啜りつつ遠い昔話に耽る。彼らは知っているのだ。この風が止まない限り春は来ないのだということを。それまではひたすら耐えるしかないのだということを。

 斯くして轟々と吹き荒れる風は人々を寝静まらせ、人々に忍従を強い、海に出て海面から熱を供給され、水平線の彼方にあの積雲や層積雲となって変貌したその姿を再び現す。海は風の墓場だったのだ。すべてはただの風のひと吹きに過ぎなかったかのごとし。あした、私はその軌跡を探して海の方へ下りていくだろう。

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