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28日の日本の主要紙は、アメリカが南シナ海に軍艦を送って「航行の自由作戦」を開始したことを、そろって1面で報じた。中国が南シナ海に人工島を建設していることに対して、同海域のシーレーンを守るために、ついにアメリカ政府が重い腰をあげたということだ。
そもそも、この作戦は5月ごろから検討されてはいたが、オバマ米大統領が習近平・中国国家主席の訪米が終わるまで、実施を見送ってきた経緯がある。作戦の実施そのものは評価できるが、オバマ大統領の中国への過剰とも言える配慮がうかがえる。
英エコノミスト誌も、「米艦船が27日に、中国が自国の領海と見なす南シナ海に進入したことについての疑問は、それが実施されたということではない。むしろ、アメリカが『ルーティン』と主張し続けるこのパトロールが、もっと早く行われなかったことだ」と指摘している。
日本国内では、今回のアメリカの作戦によって、中国が窮地に陥ったという議論も出されている。しかし、アメリカが軍艦を送っただけで解決するほど、問題は簡単ではない。中国は3千メートル級の滑走路を3本も建設しており、軍事目的であることは明らかだ。
新アメリカ安全保障センターのリチャード・フォンテイン所長は、人工島の建設は「航行の自由」以上の問題を突きつけているとして、次のように論じている。
これらの施設は、自国の海岸線から離れた場所での中国の戦力投射能力が大きく増大することを意味している。たった1隻の空母しか持たない中国は、アメリカが持っているような、重要地域に戦力投射の戦力を送り込む力を欠いている。土地を埋め立て、南シナ海の海域で軍事設備を整えることで、中国はこの欠点を補い、他の場所で戦力を投射する力を蓄えている。
中国は、同海域で紛争が起きた場合に戦いを有利に進めるために手はずを、整えているということだ。アメリカは作戦を今後も続けていくという立場を示しているが、中国は空母攻撃用の装備も整えているところであり、いずれはアメリカの船がやすやすと近海に近づけなくなる事態もあり得る。今回の作戦によって、中国が強気の姿勢をいったんは引っ込めることがあり得たとしても、今後、艦船の派遣以上の対応が必要になることは容易に想像できる。
ここで日本にとって重要なのは、もはや中国の脅威を無視することはできないということを、議論の前提としてとらえ、アメリカとともに南シナ海の「航行の自由」を守ることに協力することだろう。
南シナ海の領有を主張する中国の議論は、“イカれている”ようにしか聞こえない。習氏は訪米の際にも、「南シナ海の島や岩礁は、太古の昔から中国の領土だ。それらは祖先から我々に残されたものだ」と主張している。こうした話を、公式訪問の中で、しかも真面目にするのだから、驚いてしまう。
しかし、「歴史的に中国の領土だ」という主張を、日本は笑って済ますわけにはいかない。もし日本人が、国会前で「安保反対」と叫んでいる人々の意見を受け入れて、集団的自衛権の行使を容認せず、アメリカとの同盟にひびが入り、国防強化にうつつを抜かすとすれば、10年後にこの国を待ち受けているのは南シナ海と同じ運命なのかもしれないのだ。
その時に中国は、「日本は漢字を使っているから、歴史的に中国の領土だ」とでも言うのかもしれない。今の段階で言えば笑い話にしか聞こえないかもしれないが、南シナ海でかの国が主張している内容を考えれば、そう言い出したとして驚くには値しない。
日本国内では「中国脅威論を言うと、日中関係が損なわれる」という意見が根強い。しかし、もはや中国の脅威は無視できる段階ではないということを、コンセンサスとして共有すべきだろう。そして、アメリカや地域の他の国々と協力して、南シナ海での警戒活動に日本も協力していくべきである。国会ではホルムズ海峡の話題ばかりだったが、集団的自衛権の意義は本来、そこにある。