スティグリッツ教授が
欧米の緊縮財政を批判
2011-11-22 中野雄太氏、ブログ転載
欧米諸国では、莫大な債務削減に向けて
緊縮財政を余儀なくされています。
特に、欧州ではギリシャ問題がイタリアや
スペインにも飛び火しており、域内のドイツ
をはじめとした経済大国までもが緊縮財政
をせざるを得ない状況です。
このまま今の情勢が進むならば、欧州発の
リセッション(景気後退)は必至です。
一方、アメリカもデフォルト寸前まで債務危機
が悪化したのは記憶に新しいところです。
ティーパーティーは政府の機能停止まで
主張しており、共和党内では金融緩和に
対しても否定的な見解が出ています。
連邦準備銀行の理事からも、バーナンキ議長
の金融政策に対する反対論が出ており、
金融緩和第三弾(QE3)は、実施が困難と
なってきました。
こうした欧米の緊縮財政モードを、2001年の
ノーベル経済学受賞者のスティグリッツ教授
が痛烈に批判をしています。ダイヤモンド
オンラインに掲載された記事を転載します。
教授は、今やるべきは緊縮財政ではなく、
景気対策だと主張しています。
転載始め
【第18回】 2011年9月15日 ジョセフ・E・スティグリッツ
[Joseph E.Stiglitz]
欧州とアメリカに互いに伝播する“間違った考え”
2008年のグレートリセッションは北大西洋
リセッションへと姿を変えている。低成長と
高失業にはまり込んでいるのは主要新興市場
ではなく、主としてヨーロッパとアメリカだ。
しかも、壮大な崩壊という終局に向かって
いるのはヨーロッパとアメリカだけだ。
バブルの崩壊が巨額のケインズ流景気刺激策
につながり、それは景気後退がはるかに深刻
になるのを防ぎはしたが、かなりの財政赤字を
生み出すことにもなった。
それへの対応、すなわち大幅な歳出削減により、
受け入れがたいほど高水準の失業
(莫大な資源のムダと苦しみの過剰供給)が
――場合によっては何年も――続くことが確実になっている。
欧州連合(EU)は、財政危機にある加盟国を
支援することをようやく決意した。EUに選択の
余地はなかった。財政不安がギリシャや
アイルランドのような小国からイタリアやスペイン
のような域内の大国に広がる恐れが出てきて、
ユーロの存続そのものが次第に危うくなって
いたからだ。
ヨーロッパの指導者たちは、財政危機に陥っ
ている国々の債務はその国の経済が成長しない
限り対処できないこと、そしてその成長は支援なし
では実現できないことを認識したのである。
だが、彼らは支援を約束すると同時に、
非危機国は歳出を削減しなければならない
という考えをさらに強めた。その結果取られる
緊縮政策は、ヨーロッパの成長を妨げ、
したがってその最も困窮しているメンバーの
成長を妨げるだろう。なんといっても、貿易
相手国の力強い成長ほど、ギリシャを助ける
効果のあるものはないからだ。
低成長は税収を悪化させ、緊縮政策が
目指す財政再建という目標を損なうだろう。
危機の前の議論は、経済のファンダメンタルズ
を立て直す策がほとんど取られてこなかった
ことを示していた。あらゆる資本主義経済に
欠かせないこと――破綻した、すなわち支払い
不能になった経済主体の債務の再編――に
欧州中央銀行(ECB)が猛反対したことは、
欧米の銀行システムが依然として脆弱で
あることをはっきり物語っていた。
ECBが読み違えたギリシャの債務問題
ECBは、ギリシャの不良ソブリン債務は
全額納税者が肩代わりするべきだと主張した。
民間部門の関与(PSI)はいかなるかたちの
ものであれ「クレジットイベント(信用問題)」
を引き起こし、それは
クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の巨額
の支払いを余儀なくさせて、金融不安をさらに
悪化させる恐れがあるという懸念からだ。
だが、それがECBにとって真の懸念事項で
あるなら――ECBが民間の貸し手の代理を
務めているだけではないのなら――ECBは
当然、銀行の資本増強を要求するべきだった。
また、銀行が高リスクのCDS市場に参加
するのを禁止するべきだった。
CDS市場では、銀行の運命は、何をもって
クレジットイベントとするかという格付け
会社の判断に左右される。実際の話、
先頃のブリュッセルでのサミットで、ヨーロッパ
の指導者たちが達成した前向きな成果は、
ECBとアメリカの格付け会社の両方を制御
するプロセスを開始したことだった。
実際、ECBの立場で最も奇妙である点は、
債務再編はクレジットイベントに該当すると
格付け会社が判定した場合には、再編後
の国債は担保として認めないと脅しを
かけたことだ。再編の目的は、ひとえに
債務を一部免除して残りの債務をより対処
しやすくすることにあった。国債が再編前に
担保として適格であったなら、再編後はより
安全になっているはずであり、したがって
等しく適格なはずだった。
このエピソードは、中央銀行が政治課題を
持つ政治機関であること、また独立性を保っ
ているはずの中央銀行が自身の規制対象
である銀行に支配される傾向があること
(少なくともそう「認識」されること)を、あら
ためて思い知らせるものだ。
アメリカの収縮不安
大西洋の向こう側でも事態は似たり寄ったりだ。
アメリカでは極右勢力が連邦政府を閉鎖させる
と脅しをかけており、ゲーム理論が主張して
いることを裏づけている。つまり、自分たちの
主張が通らなければ見境なく破壊に情熱を
注ぐ人びとが分別のある人びとと対決したら、
前者が勝つということだ。
そのため、バラク・オバマ大統領は、増税を
まったく伴わないバランスを欠いた
債務削減策に不本意ながら同意した。
過去20年間大儲けしてきた億万長者に
対してさえ増税せず、経済効率を損ない
環境悪化を助長している石油会社への
税制優遇措置を廃止することさえしない
策である。
アメリカはソブリンデフォルトを防ぐために
債務上限を引き上げたが、楽観論者たちは
短期的なマクロ経済への影響は限定的――
来年度の歳出削減額は約250億ドル――と
主張している。だが、(1000億ドル以上の
カネを普通のアメリカ人の懐に戻した)所得
税減税は延長されなかったし、金融機関は
間違いなく、将来の収縮的影響を予想して
融資をさらに渋るようになるだろう。
景気刺激策の終了自体が収縮的影響
をもたらす。加えて、住宅価格が引き続き
下落し、GDP成長率が低下し、失業率が
依然として高止まりしている(フルタイムの
仕事を望んでいるアメリカ人の6人に1人が、
いまなおそうした仕事に就けないでいる)なか、
必要なのは――財政再建のためにも――
緊縮政策ではなく、さらなる景気刺激策である。
赤字を増大させる最も重要な要因は
経済成長の弱さによる税収の伸び悩みで
あり、したがって最善の処方はアメリカを
成長軌道に戻すことだ。債務問題に関する
先頃の合意は、間違った方向への動きである。
欧米間の金融危機の伝播については
ずいぶん懸念されてきた。なんといっても、
アメリカの金融不始末がヨーロッパの問題を
引き起こすうえで重要な役割を演じたのであり、
ヨーロッパの金融不安は――とりわけアメリカ
の銀行システムの脆弱さと不透明なCDS市場に
銀行が引き続き参加していることを考えると――
アメリカに好影響はもたらさないだろう。
だが、真の問題は別の伝播から生じる。
間違った考えは簡単に国境を越えて広まる
もので、大西洋の両側の間違った経済政策は
互いに補強し合ってきた。
それらの政策がもたらす停滞も同様に補強し
合うことになるだろう。
(翻訳・藤井清美)
I dissent:A Contagion of Bad Ideas Joseph E.Stiglitz:Project Syndicate,2011
転載終わり
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