TPPと医療制度改革
[HRPニュースファイル114] 転載
2011年12月7日
TPPは貿易だけを対象とせず、政府調達やサービスまで
含めた包括的な交渉です。今回は何かと議論が
百出している医療問題について触れていきます。
TPP反対派は、「交渉参加することによって
外資系製薬会社や保険会社が参入し、医療改革を要求して
くる。
そのため、日本の公的医療制度が崩壊する可能性がある」
と主張します。
では、実際にTPP参加によって日本の医療制度は崩壊
するのでしょうか?
まず、公的医療制度自体は、外国人にも開かれています。
内国民待遇という制度があり、日本人や日本企業と
同じように扱う規定がありますが、条件を満たした外国人
なら日本人と同じように医療サービスを受けることが
できます。
よって、日本の公的医療制度が内国民待遇違反として
ISD条項訴訟になることはありません。
次に、TPPには具体的な医療を含めた社会保障サービスに
関する規定は存在しません。アメリカ政府が、
日本の医療自由化を求めているというのは事実であるにせよ、
それはTPPとは別に進んでいる問題です。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・社会政策部
主任研究員の片岡剛士氏は、公的医療制度が崩壊する可能性
を否定します(⇒「TPPを考える」)。
最大の理由は、一国の社会保障制度は、WTO(世界貿易機構)
やTPP参加国が過去締結したFTA(自由貿易協定)においても、
社会保障にまで踏み込んだ事例がないからです。
福祉国家が多いEUでも、社会保障制度を共通化する試みは
なく、各国の専管事項として扱われているのが現実です。
さらに、TPP反対派は、交渉参加によって、混合診療
(保険診療と自由診療をあわせたもの)が解禁になり、
公的医療制度の安全性低下などが起こる可能性も指摘しています。
ただ、TPPで対象となるのは医療・保険のサービス分野であって
制度自体ではありません。
今後、医療制度が対象となる場合には、TPP参加国内での同意の
もと、医療章が新たに書き加えられなければなりません。
また、参加国内で医療制度自体の規制に対しても完全自由化を
求める意見があっても、参加国内での同意が必要なこと。
交渉には数年から十年程度の歳月がかかるので、簡単に一国の
制度を変えるのは至難の業です。
よって、TPP参加によって公的医療制度が崩壊すると考えるには
かなり無理があります。
言い換えれば、医療制度自体は国内問題として扱うべきだ
ということです。
先ほど出てきた混合診療の解禁は、日本医師会が強固に
反対をしています。最大の理由は、解禁を認めると、
これまで保険適用できる分野にまで保険がきかなくなる
とのこと。
むしろ、保険がきかない自由診療分野にも保険が適用できるよう
にすることで安心・安全な医療サービスを提供することが大事
だということです。
確かに、保険適用ができる分野を広げること自体は悪いことでは
ありませんし、人間の命に係わる医療なので安心・安全面を
強調することは誠に素晴らしい考え方です。
ただ、この主張をそのまま無批判に受け入れると、財源の問題に
直面せざるを得ません。
革新系の政党が言うように、防衛費や公共事業をカットして
医療を充実させるという主張は、意外にも支持を得ていますが、
防衛や公共事業によって雇用が生まれることで税収や保険料が
増収となってくることには目がいかないようです。
混合診療解禁を全面解禁するのか、それとも部分解禁しながら
様子をみて調整していくのかは政治的な問題であるので深入りは
しませんが、方向性は解禁を認めていくべきです。
現在、政府一般会予算歳出の社会保障関係費は3割を占めます。
社会保障は聖域として扱われてきましたが、実は当分野における
無駄が相当あることが判明しています。学習院大学の鈴木亘教授は
社会保障は社会保険方式で運用することを主張しています。
つまり、保険料収入によって運営するのが原則であって、
公費=税金をいたずらに投入する現制度には無駄が相当多いという
ことを批判しているわけです。
同教授は、混合診療解禁に関しても、「政府で行われてきた安全性
や平等性といった次元の神学論争の問題ではなく、実際問題として
公費投入額を定額として増やさないためには、自己負担もしくは
『消費』部分の領域を拡大せざるを得ない」とし、解禁に賛成の立場
をとっています。
さすれば、民間保険会社のビジネス成長にも寄与し、医療分野の効率化
が促進されるというわけです
(専門的には、「社会保障分野の選択と集中」と呼んでいる)。
※参考文献 鈴木亘著『財政危機と社会保障』講談社現代新書、
『社会保障の「不都合な真実」』日本経済新聞出版社
何でも国家が面倒をみるという制度は、一見優しい制度に見えますが、
裏には相当の無駄使いがあるということを知らなければなりません。
もし、自由診療分野にも保険適用できるような制度設計をするならば、
相応の税収をもたらす経済成長は不可欠です。
経済成長なくして、単に所得再分配としての増税だけで賄うならば、
当制度はいずれ破綻せざるを得ません。
その意味で、公的医療制度は、TPPがなくとも崩壊する可能性が
あるのです。なんでもTPPのせいにするのは間違っています。
(文責・中野雄太)
執筆者:中野 雄太 (21)
幸福実現党静岡県本部幹事長
公式サイト:http://yutasteve.blog.fc2.com/
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