【密約】非核三原則は見直さず
何のための調査だったのか
「外交に国民の信頼と理解を取り戻す」(岡田克也外相)とする民主党政権の下で、外務省の有識者委員会が米核搭載艦船の日本寄港などを「密約」と認定した。日本が“国是”とする非核三原則に抵触する中身だが、鳩山政権は従来の三原則を見直さないとしている。岡田外相は9日夜のNHK番組で、冷戦後に米国が核政策を転換したにもかかわらず密約を否定し続けた歴代自民党政権を「政治の怠慢」と批判したが、報告書で三原則の形骸(けいがい)化が明確になったにもかかわらず、見直さないことこそ怠慢といえるだろう。
民主党政権は自民党政権が否定してきた密約を暴くことで、国民に真実を伝え、政権交代の歴史的意義を果たそうとしたといえなくない。もっとも、密約を公にすることによって生じるさまざまな外交・安全保障政策の変質をどこまで真剣に考えていたかは判然としない。
今回、核持ち込み密約を認めた結果、「核を持ち込ませず」とした非核三原則の矛盾は明らかとなったものの、岡田氏は9日夕の記者会見で、「日米安保体制の運用に影響を及ぼす考えはない。非核三原則を見直す考えはない」と見直し議論を封印した。
その理由について岡田氏は「(核持ち込みについて)日米で考え方が違う現状はあるが、平成3(1991)年以降、一時寄港の形で持ち込まれるということはない」と強調した。
米国は同年に地上配備の戦術核兵器と海上配備の戦術核ミサイルの撤去を宣言しており、核搭載艦船などが日本に寄港することはありえないというわけだ。
しかし、日本への寄港を必要としない戦略型原潜の事故などによる一時寄港や、朝鮮半島情勢が緊迫した際に核爆弾を装備した航空機が日本を一時通過する可能性は排除できない
日本有事に米軍が救援にくる際、核搭載艦船や航空機の展開を除外するよう日本側が提起できるのかという問題もある。
その際日本が安保条約に基づく事前協議を持ちかけても、核兵器配備の有無を対外的に明らかにしない「NCND」政策を取る米国が応じる可能性は少ない。いまの状態を放置すると、新たな「密約」へとつながる危険すらはらんでいる。
東アジアの安全保障環境は、朝鮮半島に冷戦構造が残る上、北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の急速な軍拡で、密約が結ばれた昭和35年当時よりも厳しさを増している。
外務省や防衛省の当局者からは、米国の「核の傘」による抑止力を維持する観点から、「密約解明を機に有事に限定して核持ち込みを容認する『非核2・5原則』に改めるべきだ」との声も出ている。
今後の日本の安全保障政策の行方を見据えず、今回の調査が密約の存否だけを論じ、「旧政権の密約を暴くことだけが目的だった」としたら、あまりにむなしいと言わざるをえない。(赤地真志帆)
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http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100310/plc1003100403002-n1.htm