2011.01.20 リバティ記事
中国国内のメディアが堂々と政府批判を始めたことを
伝え ている。記事では、政府系の有名全国紙「光明日報」が、
地方政府が「満足調査」の割合を常に50%以上になるよう
操作していることを暴露したなど数例を挙げている。氏は、
「常識をひっくり返すような出来事が続出している」と驚き、
「党と政府の『一枚岩』専制体制に大きな亀裂が生じて
きている」と指摘する。旧ソ連崩壊もグラスノスチ(情報公開)
がきっかけになった。
かいくぐり、インターネットのフェイスブックやツイッター
を通じて反政府デモが拡大したことが大きな要因として挙げ
られる。もはや、中国でも、携帯電話やインターネットの
広がりを止めることはできないが、
こうした「情報の自由化」が、一党独裁体制を崩す日も
近いかもしれない。(格)
マスメディアと国家体制との関係といえば、中国のような一党独裁の政治体制下では、
メディアが体制の一部としてもっぱら政府の弁明と擁護に徹しているというのが
今までの常識である。が、今の中国で、このような常識をひっくり返すような出来事が
続出している。
5日、著名全国紙の『光明日報』はある暴露記事を掲載した。重慶市開県や
吉林省永吉県の地方政府がウェブ上で県民を対象に「行政に対する満足度調査」
を行った際、「満足度」が常に50%以上となるようインチキを行っていることを
暴いたのである。独裁体制の一部である地方政府が民衆を相手に「満足度調査」を
行うようになったのも新しい現象の一つであるが、そのインチキが政府系の新聞
によって暴かれたことは実に興味深い。その前日の4日、共産党中央委員会の機関紙
である『人民日報』も堂々たる「政府批判」をやった。各地方政府が中央政府のバブル
抑制政策を無視して不動産価格の暴騰を助長したことを厳しく批判する論文を掲載
したのである。党中央の機関紙がこのような論文を掲載したことは、地方政府が
「党の指導」からいかに逸脱しているかを示したのと同時に、メディアと政府の関係が
従来通りの「一心同体」ではなくなったことの証拠ともいえる。
昨年12月中旬、『第一財経報』という経済専門紙と中央官庁の国家発展改革委員会
との間で展開されていた「華麗なるけんか」も注目すべき事例である。
同月13日、『第一財経報』は、政府が行政命令をもって食用油の市場価格を無理
やりに抑え付けた結果、それに対抗して一部の食用油生産メーカーが生産停止に踏
み切ったことを報道したが、物価の管轄機関である国家発展改革委員会は当日のうち
にウェブ上で声明を発表して、「報道されたような事実はまったくない」と強調した
中央政府の一部門がメディアの報道に対して「声明」を発表して反論するようなことは
一時前の中国ではほとんど考えられなかった事態だが、さらに驚くべきことに、当の
『第一財経報』は一歩も引かずに、翌日の14日に発展改革委員会の声明に対する
反論の声明を掲載して、断固たる反撃に打って出たのである。
国家発展改革委員会といえば、その前身が国の経済運営の要を握る「国家計画委員会」
であって、今でも中央政府の中枢部門の一つである。それが今や、一新聞社のけんか
相手に「成り下がっている」ありさまである。新聞が政府批判を盛んにやるようになった
背景には、党と政府の支配からはみ出しつつある市場経済とネット世論の発達がある。
市場経済は生まれつき政治的支配を嫌うものであるし、ネット上の自由奔放な批判は
従来のメディアのあり方にも多大な影響を及ぼしている。日に増して高まる民衆の不満は
もはや無視できない段階に来ていることも大きな要因であろう。
いずれにせよ、現体制下で、本来なら「党の指導」を基軸に政府と一蓮托生
(いちれんたくしょう)の関係にあるメディアが、その矛先を他ならぬ政府に向け始めた
ことの意義は大きい。情報と世論の徹底したコントロールの上で成り立つ党と政府の
「一枚岩」専制体制に大きな亀裂が生じてきているのである。
「政府を批判してはいけない」という長年のタブーがいったん破られると、後はもう
とどまるところを知らない。「政府がけしからん」と言うのが一種の風潮となった暁には、
体制そのものの崩壊もそう遠くないのであろう。
【プロフィル】石平
せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、
神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に
入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。