成長戦略はどうあるべきか
■産業政策を実施しなかった産業の方が発展している?
■政府が支援すれば成長産業が育つわけではないと……。
■長年の経済学の実証研究によれば、産業政策は極めて
分が悪い結論が出ている。
等がよく分かります
転載
幸福実現党ニュース~
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成長戦略はどうあるべきか。[HRPニュースファイル576]
政府の経済政策を立案する際に必ず出てくるのが「成長戦略」
という言葉です。
一般的には、今後の成長が見込まれる分野に資源を配分することを指します。
近年では、環境や医療、福祉が代表選手です。過去には、「鉄は国家なり」
と呼ばれたように、鉄鋼業に重点的に資金や人材が投入された時代があり
ました。このように、成長戦略は「傾斜生産方式」と呼ばれた産業政策の
イメージに近く、政府主導の政策であることは間違いありません。
最近では、城山三郎氏の『官僚たちの夏』(新潮社文庫)がTVドラマ化
されたこともあり、熱血官僚の奮闘記が記されています。この本には通産省
(現経済産業省)がモデルとなっており、城山氏は官僚の優秀性と国家の
ために命懸けで働く男の姿を表現しようとしたのでしょう。
とまれ、安倍政権の経済政策にも入り込んでいる成長戦略について様々な
角度から検証する必要はあると思います。
第一に、成長戦略とは官僚主導が多いということ。
実際には官僚が法案作成原案や事務処理を行っています。また、官僚主導
になると非常に面倒な手続きや規制が多くなることも事実です。
例えば、エコカー減税や電化製品のエコポイント。
これらの制度は定額給付金や子ども手当などのような減税措置と違い、
納税者が実際に消費をしてこそ効果がでます。面倒な書類の提出をガマン
できれば、企業や関連業界の活性化にはなっているでしょう。ただし、
当該商品に興味を持たない方にとっては意味をなさないのも事実です。
ある意味、政府による強制的な消費促進が本当に良いのかどうかの
検討は必要です。
次に、「成長戦略そのものを政府が決めることが本当にできるのか?」
という根源的な問題があります。ケインズ経済学には政府の市場介入を
正当化する論理が含まれていますが、自他共に優秀性を自負する官僚には
ケインズモデルとの親和性が高いようです。
上記の『官僚たちの夏』のモデルとなった通産省は、海外ではMITI
(Ministry of International trade and Industry )と呼ばれたほど
有名でした。日本の高度成長は、MITIの存在があったからだと考える
海外の学者もいますが実際はどうだったのでしょうか。
東京大学の三輪芳朗教授とハーバード大学のマーク・ラムザイヤー教授
との共同研究書である『産業政策の誤解』(東洋経済新報社)では、
明確に産業政策を否定する結論を導いています(P・クルーグマン著の
教科書『国際経済学』のコラムでも同じ結論を紹介している)。
なぜなら、産業政策を実施しようとした官庁には、民間経済に影響を及ぼす
有効な政策手段が欠落していたこと。例外的にも有効な手段を有する場合
にもその行使には慎重であったこと等が触れられています。両教授の見解に
従えば、産業政策を実施しなかった産業の方が発展しているということです。
早稲田大学の若田部昌澄教授の著書『もうダマされないための経済学講座』
を使い、もう少し詳細を見ていきましょう。
例えば、通産省が作成した特定産業振興臨時措置法案があります。
この法案が通ると、新規参入ができなくなります。この時、後に世界の
Hondaの礎を作った本田宗一郎氏は、四輪車の生産に踏み切ります。
さもなければ、本田技研工業は今後自動車産業へ参入できなくなります。
現実は道路上でのテスト走行までは成功したものの、量産体制まではでき
ないというのが現状でした。幸いなことに、この法案は廃案となり、以後、
本田技研工業は腰を据えて自動車生産をすることができるようになった
わけです。
要するに、成長戦略と称する産業政策を行うと新規参入が阻害されるため、
技術やビジョンをもった中小企業の芽を摘む可能性があるわけです。
また、当時の本田技研工業が世界のHondaへと成長できると、誰が想像できた
でしょうか。このように、成長産業は官僚でなくとも見極めることは極めて
難しいのです。ましてや、最近は新規有望産業のブームが過ぎると消える
ことが多く、有望産業の見極めはますます困難になりつつあります。
さらに、R・ビーソンとD・ワインシュタイン教授の研究によれば、補助金、
関税、税控除、政府金融の四つに関して、支援度が低いほど産業の成長率が
高いことが示されています。言い換えれば、政府が支援すれば成長産業が
育つわけではないと読むことができるのです。
このように、長年の経済学の実証研究によれば、産業政策は極めて分が悪い
結論が出ています。要するに、政府が成長戦略を採用する必要はないという
ことです。もし実行するならば、民間企業が活動しやすいように規制緩和や
減税などを行い、民間の自由な発想と創意工夫を邪魔しないことです。
発明や発見は現場で起きており、イノベーションは現場で起きている以上、
政府が市場に介入する必要性はありません。
シカゴ大学教授であり、ノーベル経済学者でもあるG・ベッカー教授は
「最良の産業政策とは、何もしないことである」
(上記の三輪教授の著作に引用あり)と述べています。まさに言い得て妙
だと言えましょう。(文責:中野雄太)
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