巨大資本による統合とグローバリズムの終焉。この国(ドイツ)は大丈夫なのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51164
中国への技術流出を阻止せよ!買収攻勢にさらされるドイツの場合 そして世界は新たな植民地体制へ?
拓殖大学日本文化研究所 客員教授
中国による企業買収攻勢
去年の10月、アメリカの前オバマ大統領が大統領令を発し、あるドイツ企業の中国への売却を阻止するという出来事があった。
これをトランプ氏がやれば、自由貿易に対する不当な介入として大騒ぎになるだろうが、オバマ大統領なら大丈夫! ドイツ政府は素直に応じ、すでに発行していた認可を慌てて取り消し、審査のやり直しを命じた。
というわけで、売却の話は事実上潰れた。ドイツ政府は、アメリカに影響されたものではないと言っているが、中国がオバマ大統領を強く非難したことはいうまでもない。
もう少し詳しく説明しよう。
売却されかけたドイツ企業はアイクストロン(Aixtron)社といって、半導体の生産設備(有機金属化合物半導体用MO-CVD装置)を手がけるハイテク企業。1983年以来、この生産設備を世界中に3000以上も輸出しているという。一方、そのアイクストロン社を買収しようとしていたのは、中国のFujian Grand Chip社。同社の後ろには、国有の投資ファンドがついている。アメリカは、アイクストロン社が同社に買収された場合、半導体技術が中国へ流出し、核技術、ミサイル、人工衛星など軍事産業に流用されることを懸念している。
なぜアメリカの大統領が、中国企業によるドイツ企業の買収に口を挟めるのかというと、アイクストロン社の支社がたまたまアメリカのシリコンバレーにもあるからだ。実は、中国の本当のターゲットは、ここの開発部門だと言われている。そこで、大統領令はこのアメリカ法人の中国への売却を阻止し、同時に、ドイツにも考え直すよう警告した。
しかし、アメリカに言われるまでもなく、実はドイツ政府もこのところ、保護主義的な発言を強めている。ここ数年、中国資本のドイツへの進出はめざましく、2016年に入ってからは、すでに1週間に1社のペースで、各種企業の買収が進んでいるからだ。
ドイツの技術が流出する
ドイツには元々、中規模でありながらハイテクを持つ企業が多い。そういう優秀な中堅企業が、これまで技術大国ドイツを下からしっかりと支えてきたのだが、昨今のグローバリズムの波の中で、それらの企業が生き残れなくなってしまった。そこに、ここぞとばかり、テクノロジーを必要とする中国企業が殺到し、すごい勢いで買収が進められている。
アメリカには外国投資委員会(CFIUS)という独立機関があり、同委員会の許可がないと企業の売却はできない。2013年にソフトバンクグループの孫氏がアメリカの電話通信会社スプリントを買収したが、その後、Tモバイルも買収しようとしたら、同委員会が首を縦に振らなかった。今回のアイクストロンのケースも同様だ。それに比べてEUでは買収に関する規制がゆるく、中国資本はドイツ企業を買い放題だ。去年は1月から10月までの10ヵ月間で、ドイツ企業の中国による買収総額が120億ドルを超えた。ちなみにアイクストロン社についていた買収価格は6億7600万ユーロ。
おかげで今、アイクストロン社はとても困っているという。生き残るため、中国の資金で研究開発を進め、さらに、中国市場で有利に商売を展開していこうと考えていたのに、その夢が潰えてしまったのだ。案の定、このニュースのあと、同社の株価は下落した。現在は、新たな投資家の発掘に励んでいるというが、中国人を抜きにすると、買ってくれる人はそう簡単には見つからない。
ちなみに去年は、ドイツの産業用ロボットメーカーKUKA社が、やはり中国の美的集団(ミデア・グループ)によって47億ドルで買収された。この買収を機に、ドイツでは技術流出の危険を叫ぶ声が急に高くなっている。
静かに進む新たな植民地体制
さて、このように買収に熱心な中国企業だが、実は、ドイツのハイテク産業だけをターゲットにしているわけではない。新シルクロード構想の実現のために、EUの他の国でも、多くの部門に気前よく資本を投下している。
中国経済は崩壊間近などと言われているが、なんの、なんの、中国マネーの威力はまだまだ大きい。ほぼ破産状態で、国有財産を切り売りするしかないギリシャでは、第一、第二の大きな港、ピレウス港とテッサロニキ港は今や中国の持ち物だ。中国の新シルクロード構想は、そのまま軍事作戦でもある。だからEUの国々は、内心では中国の強大化を心配しているのだが、マネーパワーには抗えず、できればウィンウィンの関係を築きたいと、甘い夢を見ている。
ただ反対に、ドイツ企業(もちろん、ドイツ以外の企業も)が中国に進出しようと思うと、足かせが多い。それには、まずは中国との合弁企業を作り、実質的な経営権も中国に渡さなくてはならない。中国企業を買収することも、単独で現地法人を作ることもできない。中国の景気が良かったうちは、これでも外国企業は十分潤ったが、最近は景気に陰りが出たうえ、そのせいだろう、中国の規制がますます厳しくなった。
現在は、たまたまトランプ大統領のせいで、アメリカとEUとのあいだの経済戦争が話題になりがちだが、今後はEUと中国の間でも、経済抗争はしだいに熾烈になっていくだろう。世界での買収の状況を見ていると、企業の統合はどんどん進んでいくようだ。アメリカがアイクストロン社の中国による買収を妨害したと聞くと、あたかも市場の寡占化を防ぐための良策のように聞こえるが、それは違う。本当は、アメリカも、そしてもちろんドイツも、皆、隙あらば他企業を買収して、市場におけるパイを少しでも増やそうと鵜の目鷹の目になっている。
わかりやすいところで言えば携帯電話。黎明期には多くのメーカーが戦っていたが、スマホが定着した今、ドイツで見かけるのはサムソンばかり(ドイツで一番よく売れている10台のうち6台がサムソン、3台がアップル、1台がLG)。Nokia やMotorolaは消えてしまった。この傾向は世界でも同じだ。もちろんスマートフォンだけでなく、銀行も、製薬会社も、すべての産業が、統合でどんどん巨大になりつつ生き延びている。しかし、アジアやアフリカの経済基盤の弱い国では、外国資本が流れ込むと、地元の産業はまったく太刀打ちできない。これまで細々と機能していた農業や軽工業は、あっという間に潰される。
耕す土地を失った農民は、外資の入った大きな農園に雇われ、農奴のようになるしかなく、また、労働者は産業革命期のような過酷な労働条件を強いられる。こうして、静かに新たな植民地体制が進んでいく。
「アメリカ・ファースト」の副次効果?
この状況を改善するためには、どうすれば良いか?
今、トランプ米大統領が打ち出した保護主義的な政策が非難されているが、アメリカはともかく、弱小国にとって保護政策は、実は最良策ではないか。
スポーツやゲームでも、競技者の実力に大きな開きがある場合は、その差を調整するためにハンディという下駄を履かせる。レスリングも、階級がなければ小さな選手は勝ち目がない。お相撲だけは、ときに小兵が大男を倒すが、それは意外であるからこそ面白いのであって、小国の多くにそんなことを期待しても無理だ。弱肉強食のこの世界で、弱い国が主権を保ち、経済的に生き残っていくためには、市場保護以外に方法はないだろう。先進国は、熾烈になった市場の奪い合いを鎮めるために保護政策を必要とし、発展途上国は、自分たちの産業を発展させるために保護政策を活用する。
トランプ大統領はそんなつもりで言ったのではないかもしれないが、悪評高い「アメリカ・ファースト」政策が飛び火して、弱小国の産業を保護する動きに繋がるかもしれないというと、少し楽観的すぎるだろうか?
。
自主権を発動しなければならない時があるのではないかなぁ。
例えば、中国みたいに稼いだお金を軍事費につぎ込んで覇権を目指しているところにはねぇ。
特恵関税など許しておれば、自分で自分の首を絞めることになりかねない。