ファーウェイ報復戦で分かった中国という国の「本質」https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58987 より 長谷川 幸洋氏 2018-12-14
始まった「ファーウェイ事件の報復」
米中新冷戦は貿易戦争の休戦から一転して、複雑な様相になってきた。ファーウェイ事件を受けて、中国が報復にカナダ人の元外交官を拘束したからだ。報復合戦は泥沼化する可能性が強い。これから何が起きるのか。
カナダ司法省が中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟(モン・ワンジョウ)副会長兼最高財務責任者(CFO)責任者を逮捕したのは、12月1日だった。トランプ米大統領が中国の習近平国家主席と会談し、貿易戦争の休戦を決めた、まさに同じ日である。
首脳会談に同席していたボルトン大統領補佐官はラジオで、孟容疑者の逮捕を「事前に知っていた」と語っている。一方、クドロー国家経済会議委員長はテレビで「大統領は知らなかった」と語った。大統領が知っていたかどうかは、重要なポイントだ。
もしも知っていたなら、トランプ氏は習氏と貿易休戦を決める一方で、舞台裏で中国の最重要企業であるファーウェイのCFOを逮捕し、いわば「目の前の習氏の横面を張り飛ばしていた」も同然になるからだ。
クドロー氏が「大統領は知らなかった」と語ったのは、習氏との決定的な関係悪化を防ぎたいトランプ氏の思惑をおもんばかったためかもしれない。
それを裏付けるように、トランプ氏は12月11日、ロイター通信に「米国の安全保障と対中貿易協議に資するなら、この問題で米司法省に介入する」との考えを表明した。大統領が司法省への介入を公言するなど、本来なら、三権分立の原則に抵触しかねない大問題だ。
私は、この発言をトランプ氏一流の「揺さぶり作戦」とみる。習氏がこれに飛びつくかどうか、見極めようとしているのだ。飛びつけば、トランプ氏は実際に使えるかどうかも分からないCFOカードを使って、貿易交渉を有利に進められるからだ。
逆に、中国が飛びついてこなくても困ることは何もない。司法省は淡々とCFOの容疑を究明して、しかるべき法的処分を裁判所に求めるだけだ。現実味はどうあれ、習氏に対して「大統領が配慮した」というメッセージだけは伝わった。
中国は強硬手段に出た。カナダ人の元外交官で民間研究機関「国際危機グループ(ICG)」の北東アジア担当アドバイザー、マイケル・コブリグ氏の身柄を拘束したのだ。他にも、中国は別のカナダ人を拘束した、と報じられた。
中国は認めていないが、孟容疑者逮捕に対する報復であるのは明らかだ。
第2、第3の逮捕者が出る
カナダの裁判所は11日、孟容疑者を釈放したが、国外逃亡を防ぐために足首にはGPS装置が付けられている。米国に引き渡すかどうかは、来年2月の審問で決まる見通しだ。これから、事態はどう展開するのか。
結論を先に言えば、私は「カナダも米国も中国の圧力に屈しない」とみる。カナダが中国の人質作戦に屈して、孟容疑者を自由にしてしまえば、最悪の前例になる。中国要人は他国の法律を犯しても、事実上、罪に問われない形になりかねない。それでは、中国の無法が世界にまかり通ってしまう。
悪しき前例を作ったのは、他ならぬ日本だ。日本は2010年9月、中国漁船による尖閣諸島沖での海上保安庁巡視船体当たり事件で船長を逮捕したが、中国は報復で日本人会社員4人の身柄を拘束した。すると、当時の菅直人政権は船長を釈放してしまった。
中国は今回、同じ手を使って圧力をかけている。トランプ大統領の司法省圧力発言があったとしても、もし、本当に圧力をかけて孟容疑者有利に扱えば、議会下院で多数を握る民主党にトランプ攻撃の口実を与えてしまう。トランプ氏は、それは避けたいはずだ。
むしろ、米司法省は国際ルールを無視する中国に対して一層、強硬姿勢になる可能性がある。事件の原点は、ファーウェイが通信設備を利用して重要機密情報を盗んできた疑いだった。トランプ政権は中国にいくら貿易上の利益をちらつかされても、この疑惑は棚上げできない。
9月28日公開コラムで指摘したように、トランプ政権はサイバー攻撃をした組織や個人に対して、在米資産凍結や米企業との取引禁止など制裁措置を検討している(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57707)。米司法省は制裁だけでなく「第2、第3の逮捕」に動く可能性もある。
そうなると、米国と中国、カナダの報復合戦は一段と激しくならざるを得ない。すると、何が起きるか。まず、中国在留のカナダ人や米国人は中国脱出を真剣に考えるだろう。
中国漁船船長逮捕の顛末を知っている日本人であれば、もしも日本が中国の要人を逮捕したりすれば、一目散に空港に駆け込むに違いない。報復が確実だからだ。これは何を意味しているか。
明らかになった「中国の正体」
私は、いま起きている事態の本質は「米国やカナダが中国との関係をデカップリング(切り離し)しつつある」とみる(11月23日公開コラム、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58609)。デカップリングとは、たとえば、アップルが中国でのiPhone組み立てを止めるというような話だ。
中国ではアップルの不買運動が起きている。トランプ政権が意図して米国を中国から切り離しているかどうかに関係なく、現実がそう動いている。不安に駆られた米国やカナダのビジネスマンは当分、中国を訪れようとは思わないだろう。新たな対中投資など論外だ。
以下、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58987?page=3
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