朝から異臭が、わがやのリビングに立ちこめました。昨夜、仕込んだロールパン。生まれて初めて焼くパンにワクワクしながら、オーブンのスイッチを押しました。まだ眠っている子どもたちは、あまーいパンの焼ける香りで目を覚ますのだろうなぁと想像しながら…。
ところが、5分経っても10分経っても、香ばしい香りなどしてきません。「お、パン焼いてるの? ええにおいするやん」とリビングに入ってきた夫。「うそやろ。ええにおいちゃうやん」「う、うん、発酵するにおい……かな」
実際、部屋に充満するのは、酒かすのようなにおい。換気扇を強にして、ゴーゴー風を入れ替えます。そして、まさかのチーン!とオーブンが焼き上がりを告げる音。
恐る恐るフタを開けると…、そこにあったのは、ロールパンとは大きくかけ離れた、クッキーのような白い固まりでした。
あ、朝ごはんどうしよう…。お米炊いていないのに……。
仕方なく、カチカチに固まったパンとジャムを食卓に並べます。家族が息をのむ音が聞こえるようです。
首を傾けながら、丈夫な歯でかじりつく夫。「イタリアの安いユースホステルに泊まったときは、こんな固いパンやったわ、うんうん。保存食としてやったら、いいんちゃうかな。ほら、乾パンってこんなかんじやん」
だれが、オーブンで乾パンを朝から焼くのでしょうか。
皿の上のパンを見つめてるだけで、なかなか食べ出そうとしない長女。「ビスコンティと思ったらいいんちゃう?」とフォローするも、「私にはロールパンとしか思われへん…」と涙ぐむ長女。
あれほど楽しみにしていた次女は、オエッとえずいたきり、また布団にもぐってしまいました。
そんななか、三女が「おいしいっ!!」と叫んだので、耳を疑いました。よく見ると、パンに塗っているジャムだけを食べています。固いパンはお皿のようにして、ジャムだけを舐める至福の表情に胸が痛みます。
簡単そうに見えて、いざ試してみると、難しいことがこの世にはたくさんあるのだと気づかされました。来年は、みんなが笑って食べられるパンを作れるように頑張りたいと思います。