「東北でいちばん人口の多い市町村は?」ときかれれば、真っ先に杜の都・仙台が浮かびますが、「東北で二番目に人口の多い市町村」を知っていますか?
青森でも盛岡でもない、しかし福島でも郡山でもない。実は福島県いわき市なのです。(あくまで人口のはなしで、人口密度は別になります)
というわけで、この記事では、ついつい足しげく通ってしまう、私の心の別荘地・福島県いわき市のことを自己満足で語らせてください。
私はいわきがすきだ。
生まれ故郷でもない街なのに、数か月に一度、常磐線に飛び乗っては、いわきに降り立ってしまう。
とある日は寝坊をしてしまったので、すこし奮発して、水戸から特急ひたちに乗った。
日立以北、窓越しに太平洋が見えれば、旅のテンションは一気に上がっていく。
ちなみに特急ひたちは席を選べるのなら、迷わずA席を勧めたいです。大きく海の見える窓側席。
・勿来周辺
そして大津港駅のトンネルを過ぎると、福島県いわき市に突入する。
第一の駅が勿来駅。
昔、陸奥国と常陸国の境界の関所「勿来の関」があったとか、なかったとかいう、勿来(なこそ)。古語で「な来そ(なこそ・来るなの意)」という意味も持つらしい、勿来。この駅は特急がたまに止まらない。
でも勿来駅から1キロくらい南に歩くと、海水浴場があったり、海が見渡せるスーパー銭湯があったり、マリンビューなレストラン「ジョイ(ジョイ勿来海岸店)」もある。
ジョイ、あまり知られてないけど、いい感じのお店。向こうの机の人の頼んでたワッフルも見るからに美味しそうだったし、私はこう、海を観ながらアイスコーヒー飲んで、ガーリックソースのハンバーグプレートが焼けるのを待っている。
そして勿来周辺を歩くのもいい。特に冬場の晴れた日は最高。
海沿いを歩いていると、寂しくて、眩しげな沖のほうから、潮風が勢いよく吹き付けてきて、なんかたのしい。無害な強風ってどうして人を楽しくさせるんだ。扇風機の前で陣取ってた童心を思い返させる。
でもいわきの空は東北なのに、あまり東北らしくないというか、和歌山や、四国の海沿いや、九州の宮崎辺りに来た時のような、空の青さや日差しの眩しさに、南国すら感じてしまう。
ずっと北行きの電車に乗っていたのに、私はどこにいるのだろうか。風の冷たさに北緯は感じるけれど、実はどこかで電車が折り返し運転してなかろうか。
・湯本周辺
それから湯本駅周辺。ここは特急も止まるし、フラガールで有名な「スパリゾートハワイアンズ」もある。ハワイ!そして温泉の町。ただ私はリゾートにはいかず、普段使いの公衆浴場へ向かう。
駅前で見かけた恰幅のいいおじさん。出た!南国要素。半裸で常夏気取り。そしてハリのある腹周りだ。メッチャ肺活量ありそう。
ちなみにいわき市は「いわき市彫刻のある街つくり(リンク)」って、路上にいろいろ彫刻を設置してるんだけれど、この笛吹きおじさんは、旭川のサクソフォンおじさん(リンク)の親戚かな。
カバンに潜ませたタオルを確かめて、道中すこしだけ迷いながら、温泉の町をぶらぶら歩く。
しかし歩いていると、クルマ社会を拒絶する温泉街の細い道や、透かしブロックがランダムに揺れる、くたびれた白色のフェンスに心を煽られ、いかにもな観光客を横目に、私は無言で地元の人のフリをした。
だけどまあ、温泉で脱いでしまえば、地元の人から、よそ者だってバレてしまうのも仕方ないことだろうか。
洗い場で、公衆浴場に不慣れなしぐさをみせてしまい、常連の人懐っこいおばあさんから「どこから来たのォ~?」と訊かれてしまった時、私は地元民のフリを諦めた。
ちなみに立ち寄っていたのは、写真の「さはこの湯」という、公衆浴場でした。
湯本駅から歩いて10分位のところにある、地元民熱愛の公衆浴場。弱アルカリ性のすべすべ美人湯で、ほんのり硫黄臭のする源泉がかけ流しされている。湯上りぽかぽか。名湯。
また建物は江戸時代末期の建物を模した、比較的小ぎれいなもので、男女日替わりの檜風呂・岩風呂の檜風呂は、木の使い方に、東北らしさがあって「今の私は東北の温泉に浸かっている」という謎の達成感も大きい。確かにここは東北だ。浴場の作りをみても、針葉樹の木材を多用する東北の公衆浴場に対して、例えば九州の公衆浴場なら、もっとタイルを多用した作りのはず。
でもいわきは本当に東北だろうか。館内ではラジオ福島が流れていて、ラジオパーソナティは、同じ日・同じ県、会津若松の雪下ろしのことを話している。けど、いわきは東北だというのに殆ど雪が降らないし、真冬の磐越西線の車窓のような、水墨画の世界にもならないし、ここは窓の外の彩度が高すぎる。
「さはこの湯」から10分くらい歩いて、「いわき市石炭・化石館 ほるる」にも寄った。
エントランスを通ると、まずはいわき市で発掘された、フタバスズキリュウのレプリカが迎えてくれて、館内には恐竜に限らず、かつて地球上に生息した様々な生き物の化石たちが並ぶ(生きてたゾーン)。
それから、いわきで見られる地層や、変わった石。化石や鉱石たちの展示があって、目にも楽しい。あとは知らない鉱石も、どうしてそんな柄になって、そんな名前になるのかなって、それが何となくわかる時と、どうしようもなくわからない時があるのがおもしろい。
「藍閃石」は名前のとおり、石の中に藍色が、閃きのようにサーッと散らばっていて、確かに「藍閃石」っぽいのわかる。でも「蛙目粘土」は白っぽくて、水分を帯びれば粘土にはなりそうだけれど、蛙の要素を私は嗅ぎ取れなかった。なんだろう「蛙目」って。地名かな。でもそもそも、今までカエルの目を真面目に見つめたことはあっただろうか。いや無いな。
また館内には模擬坑道もあって、いわきの炭鉱の町としての歴史を語ってくれる。
いわきはかつて石炭鉱業でも栄えていた。しかし石炭から石油の時代へ移り変わる中で、炭鉱の将来も危ぶまれ、企業の存続、そして炭鉱で働く人たちの生活を何とかできないか。そして炭鉱で湧き出る温泉と地熱も、何かに利用できないかと作られたのが、あの「スパリゾート」だった。炭鉱から観光へ。一山一家の大逆転。
ただこう、いわきも広い町なので、これだけがいわきの歴史ではない。
「いわき市」という市も、内郷市(かつて炭鉱で栄えていた)・磐城市(現在の小名浜周辺、「アクアマリンふくしま」という水族館もある)・平市(現在のいわき駅周辺)・常盤市(現在の湯本周辺)・勿来市の5つの市に加えて、4つの町と5つの村が1966年に合併し、合併当時は日本一広い面積(1,232平方キロメートル)の市でもあったという、とても巨大な市だ。
そして現在は同じ「いわき市」を名乗っていても、訛りの濃さや気質が違うという話もきいたし、何度行っても掴み切れなさのある町にも感じる。
でもその掴み切れなさで、フィールドワーク的に町を歩いたり、町中の喫茶店や飲み屋で住民の会話に耳を傾けるのも楽しいし、気軽に他所へ移住できない、遠方の故郷に里帰りしづらい今だからこそ、どこかに「心のふるさと」的なものを作っていいな。生活に支障のない範囲で、どこかの町を愛でるのもいいもんだな。って、私は勝手にいわきを「心の別荘地」にしています。
いわきの町。温泉があって、海があって、気候がおだやかで、明るくて、よそ者にもやさしいし。
・いわき駅周辺
そして、いわき駅までやってきた。1994年までは旧市名と同じ「平駅」を名乗っていた、いわき駅。この辺りは駅ビルが建ち、飲食店が多く並び、市庁舎が置かれ、街ゆく人も多い。名実ともにいわき市の中心部だ。
駅から5分くらいの所にある、喫茶店「ブレイク」で名物のホットサンド(ハーフ)を頼む。ホットサンド、カリカリの耳まで美味しいし、見た目以上の重量感。あとブレイクのパン類は、食べきれない時、アルミホイルに包んで持ち帰り用にしてくれるのも嬉しい。帰りの電車で小腹が空いたときに早速食べてる。
これは別の時に頼んだ季節限定のイチゴパフェ800円。フルーツパーラーのクリーム控えめで上品なパフェに対して、コチラはたっぷり生クリームにイチゴの甘酸っぱさが効いたパフェ。重量感ではホットサンドに負けてない。これもいいんです。
それから以前、喫茶店「ブレイク」へ年始の時期に行ったら、カウンターの隣は、帰省の男子学生ふたり組で、まだまだハタチそこらなんだろうけど、「なつかしい!なつかしい!」を連呼しながら、故郷の名物に舌鼓をうつ若者たちの様子が、ひたすら微笑ましかったな、なんて、そんな一コマ思い出しつつ、「喫茶店が元気な町はいい町だ」の経験則からいっても、ああ、いわきっていい町だな。
なんて考えていたら、辺りはもう暗くなっていた。
しかしこう、夜のいわき駅周辺もたのしい所だし、他に取り上げたいところも沢山あるけれど、それはまたどこかで。