雨明けの 久しぶりの晴天
ただ 気温は20℃以下ーー
秋の朝 冬ものを少しづつだして ハンガーにー
そろそろ準備だ
ふと 高校生時代受験に 芥川龍之介の『蕗』を思い出した
坂になった路の土が、砥との粉このやうに乾いてゐる。寂しい山間の町だから、路には石塊いしころも少くない。両側りやうがはには古いこけら葺ぶきの家が、ひつそりと日光を浴びてゐる。僕等二人ふたりの中学生は、その路をせかせか上のぼつて行つた。すると赤ん坊を背負せおつた少女が一人、濃い影を足もとに落しながら、静に坂を下くだつて来た。少女は袖そでのまくれた手に、茎の長い蕗ふきをかざしてゐる。何なんの為めかと思つたら、それは真夏の日光が、すやすや寝入つた赤ん坊の顔へ、当らぬ為の蕗であつた。僕等二人はすれ違ふ時に、そつと微笑を交換した。が、少女はそれも知らないやうに、やはり静に通りすぎた。かすかに頬ほほが日に焼けた、大様おほやうの顔だちの少女である。その顔が未いまだにどうかすると、はつきり記憶に浮ぶ事がある。里見さとみ君の所謂いはゆる一目惚ひとめぼれとは、こんな心もちを云ふのかも知れない。(二月十日)