何か異常にガリガリと音がする。
静かな寝間を突き破るとはこの事じゃ。
見れば同居人となったアイツが、ケースの中を忙しく動き回っている。
様子を窺っていると、最初は何か探し物でもあるのかと思えた。あちこちを物色しているかの様でな。
けれど時間が経つにつれ、探しているのは他でもない、外へ出るための出口である事に思えてきた。
闇雲に目的も無く動いている様に見えて、必死に外の空気に触れようと齷齪していたのじゃな。
そだねー。
先ず、カブト虫の気持ちを代弁するなら〝こんなところ早く出してくれ~〟なんじゃろう。
きっと。
カブト虫だって生き物の端くれじゃ。
考えてみれば命を持った人様と同じに、生きる意思が備わっているのじゃ。
自分が今どこにいて、今どうしたいという意思を、動き回る事でこっちに訴えかけているのかも、なのじゃ。
あっしと出会ってしまったのが運の尽き、もう諦めておくれなんて言い種は、勝手にも程があると思ってるんじゃろうな。
人様は時として、この世界に生きている意味を考える。
何のために産まれたのだろうかと。
命の意味を考える時、それは小さな虫にとっても同じなはずじゃ。
限りある時間の中で、人も虫も葉っぱも、それぞれが区別なく存在する意味があるなら、その答えは?
昨日今日と日々を重ね、明日を信じながら、何の種別もなく消滅していく意味があるのなら、それは?
などなど答えも出せずに展転反側をする。
ふと、ケースに目をくれれば、
呑気にアイツは鼻提灯の世界を極め込んで居やがる。
どうせ又夜中になれば、ガサガサ騒ぎ出すんじゃ。
ったく。
この文を認めながら頭の中で鳴っていたのが、実は中島みゆきの「明日なき我等」だった。