私の主人たらある日、
コーヒーカップを拾って参りましたの。
いえいえ、そのコーヒーカップじゃなくて
ほら、遊園地になんかにある
乗り物のコーヒーカップ。
それをせっせと自分の書斎に運んで…
以来、会社から戻ると
真っ先にコーヒーカップへと向うのです。
一体何をしてるかって?
それがコーヒーカップの中にすっぽり座り込んで
一時間ぐらいかしら、
目を閉じて、腕組みをして
ただじっとしてるだけなんです。
私、思い余って尋ねました。
「あなた‥
いつもそこでそうやって
何をなさってるんですか?」
すると主人、
「ああ、見てのとおり
コーヒーになろうと思ってるんだ。
味わい深く、コク深く、気品高く‥
身も心も完璧な
誰もがうなるような
そんなコーヒーになってやろうと。
あれこれ試して
もうちょっとでってとこなんだけど
それがなかなかね…」