社会保険労務士酒井嘉孝ブログ

東京都武蔵野市で社労士事務所を開業している酒井嘉孝のブログです。
(ブログの内容は書かれた時点のものとご理解ください)

社会保障協定について-日中社会保障協定が発効しています-

2019年12月26日 10時07分08秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

令和元年9月1日から日本と中国との社会保障協定が発効しています。

まず社会保障協定とは何かということについて簡単な例をお示しします。
日本で勤務していて、日本の社会保険に入っている人が外国へ転勤になった場合、原則論をいうと日本の社会保険にも、転勤先の外国の社会保険にも加入し、日本と外国の両方の社会保険料を払います(要するに二重払い)。
両方の国の社会保険制度に加入して両方から給付が受けられれば良いですが、特に年金は長期にわたる加入が必要で、数年で日本に帰ってくる場合、外国でかけてきた年金保険料が掛け捨てになります。
社会保障協定が発効している国同士で、社会保障制度に加入していることを証明する「適用証明書」を届け出ることにより、この二重払いと掛け捨てになってしまうことを防止しようというのが社会保障協定の趣旨です。

社会保障協定が発効している国へ転勤となった場合は、日本の社会保険に入っていれば、適用証明書を届け出ることにより転勤先の外国の社会保険に入る必要が(義務としては)なくなります。
日本との社会保障協定が発効しているのは20か国(令和元年12月現在)ですが、各国ごとに年金制度や協定の内容が違うので海外へ派遣する際は各国の内容を検討をお願いします。
スイスなどは1年で老齢年金の受給資格があるようです(出る年金の金額はわかりませんが)。
主要各国の年金制度(厚生労働省HP)
また、社会保障協定が発効している国同士では年金加入期間の通算という効果もある国も多いです。年金加入期間が通算されれば、一方の国の年金制度に加入していれば日本と相手国の両方で年金に加入していたことになります。

9月からの中国との社会保障協定は年金保険料の二重払いの防止のみです。従って日本から派遣された場合は中国の年金が、中国から日本へ来た方は日本の年金の資格が得られません。
9月より前から中国にいらっしゃる方は9月1日から協定発効日に中国へ派遣されたものとして取り扱われます。
協定相手国別の情報(中国)(厚生労働省HP)
なお、香港とマカオは中国側の制度の事情により9月からの社会保障協定の対象にはなりません。

職場の忘年会、新年会などは残業となるか

2019年12月15日 22時19分04秒 | 社会保険・労働保険
特定社会保険労務士の酒井嘉孝です。

最近ネット上で忘年会スルーという言葉がはやって(?)いるようです。
主に職場の行事としての忘年会に参加したくない人が、いかにして出ないで穏便に乗り切るかについて書かれているような気がします。

私が勤め人だった頃も会社行事としての忘年会がありました。そのオフィス全体では150人くらいいましたが出席したのは100人を切るくらいだったと思います。近くのホテルの宴会場を借りて派手な催しではありました。
翌日の朝礼で偉い人が出ない人が多かったのを問題にして『忘年会の出席率が悪い。会社行事というのは出る出ないの選択ができるものではない』という趣旨のことを言ったところ、私の隣に立っていた人が、強制するなら時間外なんだから残業代出せよとぼやいていました。
忘年会、明けて新年会のシーズン真っ只中ですが、職場の行事としての忘年会などが行われる場合、残業代を会社側からすると請求される、労働者側からすると請求できるかどうか考えたいと思います。

はじめに残業代が発生する場合のケースについて列挙します。
1.所定労働時間外に行われる
2.強制参加である
3.幹事や世話役で、その人にとって不参加の選択肢が通常ありえない
4.参加しないと人事考課への影響がある

1は当然の前提として、2は会社が労働者を指揮・命令下においているかどうかで判断していきます。要するに飲み会に参加することが「業務命令」であるかどうかです。
3は「強制」の派生系といえるでしょうか。4などは間接的に出ないことによってペナルティが発生するので強制と同等になりえます。
なお、会社がその忘年会や飲み会の費用を負担しているかどうかは関係ありません。

ここで問題になってくるのは会社は「強制」とは言っていないものの、労働者側から言うと「断りにくい飲み会」です。
大方の『忘年会スルー』として問題にしているのはこのケースではないでしょうか。

労働問題の多くは個別の実質実体で判断されます。従って列挙した2の強制参加は「強制」という言葉を遣っているかどうかだけでは判断されません。慣例的にそうなっているとか、参加しないことについて強く理由を問われるとか、上司の方が「会社の行事に出ないのは問題がある」などの発言があるとか、出ないといけない雰囲気が出ていて実際みんな出ているなども「強制」に含まれると考えます。
逆に言うと半強制的な雰囲気が出ていたり、出ないことによって上司の方が渋い顔をしたとしても、出ない人が例年複数人いて適当な理由をつければ出なくても実際何もお咎めがないということであれば業務命令には当たらず、残業代が発生することはないものと考えます。

裁判例はドンピシャなのは見つけられませんでしたが、飲み会後の労働災害・通勤災害についての判例がありました。
「従業員の慰安と親睦を目的とするものであつて 社会一般に通常行われている忘年会と変りはない」ので、その後に起きた負傷は労災不支給となったものです。要するに忘年会自体は仕事ではない(=残業代なら払わなくて良い?)と判断されました。
福井労基署長休業補償不支給決定取消

上記の判例は昭和58年のもので平成28年に最高裁による以下の判例もあります。
遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
この裁判では、業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に,研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことは労災にあたると判断したものです。要するにこの裁判例では飲み会は仕事であると判断されました。
この裁判例は最終的に会社に戻る途中の事故で、その飲み会は途中の事例であると言う考え方もできるので一概に上記の昭和58年の判断を覆したとは言えませんが、状況によって「飲み会」が仕事かどうかが個別に判断されるという例として挙げました。

飲み会が「業務命令」「仕事」になるかは個別の判断になります。『自由参加』の体裁を崩さなければ大きく問題になることはないものと考えます。