吾輩は猫である。名前はすでにある。タマニンエレメントである。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄ぐらい厩舎でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて馬というものを見た。しかもあとで聞くとそれは北大馬という馬中で中々可愛らしい種族であったそうだ。
この馬というのは時々我々を捕えてふんふん臭いをかぐという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の背に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。背の上で少し落ちついて北大馬の顔を見たのがいわゆる馬というものの見始であろう。
この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一短い毛をもって装飾されるべきはずの頭がふさふさしてまるで箒だ。その後猫にもだいぶ逢ったがこんな片輪には一度も出会わした事がない。のみならず顔があまりに長くなっている。そうしてその穴の中から時々ぶうぶうと息を吐く。
どうも草の匂いがして実に弱った。これが馬の食べる乾草というものである事はようやくこの頃知った。
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