まるでCGソフトで絵をつくりはじめたばかりの、何も描かれていない空間のように、ぐるりと見渡す限りの真っ平らな白い地平を、この一本の道だけどこまでも続いているようだった。
この時、私の記憶の断片として埋もれていた光景がフラッシュバックした。
量子テレポーテーションで海外出張から東京に帰る時に、意味もわからずにただひたすら歩いていた一本の道。
全てが始まった、あの道も、今思えばこのような道だったかもしれない。
ただ、その時とは明らかに異なる不思議な光景があった。
道の先の地平線上に、いくつもの太陽が見えるのだ。まるで、白夜の空に低い軌道を描く太陽の連続写真のように、たくさんの太陽が並んでいる。
そして、更に驚くことに、反対側の地平線を振り返って見ると、太陽と同じような並び方で、月がいくつも並んでいた。まるで、理科の教科書に書かれる挿絵のようだ。片方の空は昼。もう片方は夜。彼方の空の色が不思議なグラデーションで2つに分けられていた。
「なんだ、ここは・・・」呆然として声を出す私。
その視線を追うように、ヒカルも周りを見渡すと、何かしらの状況が把握できたのか、1つ2つ頷いてから身体を起こして立ち上がり、私の方を見ていった。
「なるほど。ここは、ニュートラルポイントね・・・」
「・・・ニュートラルポイント?」
案の定、ぽかんとした私の口から出たのを聞いて、ヒカルは少しだけ説明してくれた。
宇宙には全てに相対する2つの極が同時に存在する。光と影。白と黒。善と悪。S極とN極。ここは、その2つの極の中間。ニュートラルなポイントということらしい。すべての中間ということは、いまは釣り合って静止しているシーソーがあるとしたら、どちらか一方に少しでも重みが偏ることで、バランスが崩れて動き出し、いずれは大きな変化を生み出すポイントでもあるという。
それを、私たち人の意識の解釈を通じて「道」として具現化されたものだとか。
「・・・ごめん。やっぱりよくわからない」この手の話は私にとっては最後までわからないまま、仕方がないことだ。
「とにかく、ここは宇宙の全ての事象に通じる場所で、私たち・・・いえ、現在の存在である、イナダくんの選択によって、宇宙が再構築されていく。もっと簡単に言うと、どちらに進むかによって、宇宙は変わるの」
「またか・・・」私はそんな大した人間じゃないのに、いつも何でそんな大きな責任を追うことになるのだろう。よくわからないなりにも、その重たさを感じて、大きなため息となって口から出た。
「前も言ったけど、何も、イナダくんだけが特別ではないわ。現在に生きる全ての人は、心の中にニュートラルポイントを持っていて、絶えずどちらかの極に向かうような選択をくり返している。それが、この宇宙の全体像を作り出しているのだから・・・」
確かに、時の濁流に呑まれる前にもそんな話をヒカルがしてくれた。しかし、だからといって、今何をするべきか、よくわからない。
「じゃあ、つまりはこの道をどっちに進むか、選んで歩けばいいのかな?」
なるべく軽く思うようにして、フラフラとあるき出す素振りをしながら聞いた。
「そう。その行き先が、アサダさんのいる場所か、あるいは、宇宙が消滅するか、どっちかということだけど・・・」
その一言を聞くと私はピクリと身体を硬直させて、動けなくなった。
「ちょっと・・・いくらなんでも、それは・・・怖いよね」
油が切れて動かなくなったロボットのようにぎこちなく首をかしげながら、ヒカルを見て恐る恐る言う私。
その言葉に、うん、とうなずくヒカルの表情はいつにもまして硬くこわばり、身体は、また少し透けて見えていた。
・・・つづく。
最新の画像もっと見る
最近の「ものがたり」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事