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ヒカルは、ベッドに横たわり目を瞑るイナダトモヤの傍らで、椅子に座りながら目を細め、しばしの時を静寂の中で過ごした。
程なくして、イナダの小さな寝息の音が聞こえはじめる。その呼吸のリズムは次第に安定し、腹の膨らみで布団が上下しているのが見て取れた。
ヒカルが額に意識を集中し、イナダの表層意識の微細な振動を感じとろうとしても、その反応は受け取れなかった。イナダの意識はこの次元から離れている。それはすなわち、睡眠状態にあることを意味した。
ひとつ深く息を吸い、細い息を口から長く吐き切ると、ヒカルは椅子に深く腰掛けながら力を抜き、リラックスした状態で目を瞑る。そして、自分の心と身体の中心に向けて深く意識を降ろしていった。
とても深く、光の届かない暗い海の中を、ただ一人どこまでも沈んでいくような意識の沈着。
深く沈んでいくほどにヒカルの意識はより微細になって、あらゆるものを取り巻く空気のような偏在性を増しながら、同時に自身の身体性の感覚を失っていく。
孤独や恐怖、あるいは、高揚や好奇といった感情の揺らぎは、とうに存在しえない深遠な世界をさらに進んでいく。
やがて、時間という流れをもすり抜けて漂うほどの精細な意識となって完全に暗闇と同化した時、あらゆるつながりから遮断された虚空のニュートラルポイントに辿り着く。
そこには、完全な無がひろがっていた。
一瞬と永遠の区別も無く、全ての中心であり、最果てでもある場所。
静寂に満たされたその虚空に、一点、完全に留まったヒカルの意識。
その点を、その虚空で新たに生まれたヒカルのもう一つの意識が、観察した。
その瞬間、突如と光の波紋が幾重もの輪となって広がっていく感覚と、ブーンという振動の高鳴りがヒカルの内面世界に響き渡る。
イナダが眠るベッドの横で、微かな青白い光を放ち出したヒカルの意識は、今、臨界点を超え、いくつもの次元を跨がった宇宙の特異点に浮遊していた。
・・・つづく
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