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誰も知らない、ものがたり。

オリジナル小説「Quiet World」 27

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 一気に立て続けに約30分ほどの時間でコウタが歌った曲は全部で5、6曲ほど。

 全てコウタが作ったオリジナル曲だった。

 若者特有の少し高めの歌声。よく伸びる声に不思議な安らぎやなぜだか懐かしさを感じさせる。

 何度かその歌声を聴いている住人たちも、お世辞ではなく心からの拍手喝采をコウタに贈っていた。

 初めて聴いたカヲリは、鉄パイプの少年という初対面の印象とのギャップもあいまって心底驚き、そして感動し、ケンと一緒に大きな拍手を送っていた。

 そして、コウタが「最後の曲は」と言ってから、その曲をつくった経緯を話しだした。

 ケンがこのコウタのライブステージの催しを思いついたのは、今日の午後のこと。一緒に行っていたほうれん草の栽培管理の仕事を終えてから、今、このステージに上がるまでの間に、ほぼ即興で作った曲だということだった。

 曲のタイトルは「家族」。

 作りたての歌詞が書いてあるのだろう、クシャッとなった紙を取り出し、膝の上に器用に乗せて歌い出した曲は、ゆっくりとしたテンポのバラード曲だった。

 その歌詞には、まずはじめに自分を生んでくれた両親やこの場所まで一緒にやってきた叔父のこと、そして、ダイさんをはじめ、クワイエットワールで出会った人たちの事が綴られていた。

 曲の終盤に、カヲリ、ケン、そして、マルコとの新しい出会いのことも歌に織り込まれていた。

 この広い世界の中で、この小さい小さい旧世界の集落に集まって、世界を襲った宇宙災害の難を逃れて出会えたことの奇跡。

 そのつながりを”家族の絆”として歌う曲だった。

 シンプルで飾らないギターのコード進行に載せて歌われる曲だったが、その分、コウタの朴訥とした素直な気持ちがよく伝わってくる。

 コウタが家族を奪われてこの集落に流れ着いたのと同じように、住人の一人ひとりも、その家族や友人を失った者たちばかりだった。

 歌い終えたコウタを、皆が泣き顔で讃えた。

 また歌い終えてから最後にコウタはマルコに謝った。

 マルコはケンに感想を促されると、こう言った。

 

「・・・ハカセ、今度ワタクシにも涙を流す機能を与えてクダサイ」

 

 博士は親指を立てて応えると、皆が泣きながら笑った。

 コウタは、最後は自分自身の涙を拭くような仕草を隠すように頭を下げた。

 

 その頭を垂れる少年の姿を見ながら、皆、いつまでも大きな拍手を送っていた。

 

 「ごめんね。ありがとう」

 

 コウタはもう一度最後にケン、カヲリ、マルコに、そして、皆に届く声でそういった。

 マルコはそれに空中で一回転するアクションで応える。

 ラボで行われたコウタのステージはそうやって幕を閉じた。

 

 

 その日の夜空には満月が浮かんでいた。暗い夜道もラボを中心に集落に設置された街灯が明るく照らしていた。

 その道をライブを鑑賞し終えたクワイエットワールドの住人たちが各々の家に向かってようやく歩き出した頃、慌ててラボに電動バイクを走らせてやってくる複数の男たちの姿があった。

 ライブのステージを降りたコウタを囲むように、ケン、ダイさんを含む村の男達が集まり、話を咲かせていると、その男たちがまず「ダイさーん!」と大きな声を出しながらラボのエントランスロビーへと入ってきた。

 何事かと顔を出す博士にも、男の中の一人が「ああ、博士よかった起きてらして!」と声を掛ける。

「何だいこんな夜中に騒々しい」と博士。隣りにいたユリと顔を見合わせる。

「どうしたん?」とダイが男たちに問いかけると、その中の赤いシャツを来た30代半ば位の男が慌てた様子で話しだした。

 

「なんだって!?」話を聞いたダイの一際大きな声がエントランスロビーに響く。

「どうしたんですか?」ユリが心配そうに聴くと、ダイは赤いシャツの男と目を合わせてうなずきあってから、博士とユリに向かって説明した。

 

「いや、それが、防護服を身につけていない見知らぬ若者が、今時分にたった1人で、集落の検疫棟に現れたそうで・・・」

 

・・・つづく

 


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主題歌 『Quiet World』

うたのほし

作詞・作曲 : shishy

唄:はな 

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