晩ご飯の時間まで、お父さんとマキお姉さんとトランプをやったり、僕が得意なお絵かきをしてみんなに見せたりしていた。
おばあちゃんはずっとベッドの布団の上でそれをニコニコしながら見ていた。いつもは一緒に遊ぶのに。
時折少しつらそうにして横になったりするし、トイレに行く時も、マキお姉ちゃんに手伝ってもらわないといけないようだった。
やっぱりあまり元気そうじゃ無い。まだ病気がなおりきってないんだ、きっと。
今日は、おばあちゃん家にお泊まりするって聞いていた。
今日は平日で、お母さんは仕事だから今日はいないけど、お父さんはお仕事休んで僕を連れてきた。
あ、いまは僕はもう夏休みにはいったところ。
夜はみんなでいつもみたいに広いお庭で花火をしたかったのに、きっと、おばあちゃんはベッドから動けないんだろうな。
おばあちゃん家に来て一番の楽しみは、ご飯だった。おばあちゃんのつくるご飯はすごくおいしいんだ。
もちろん、お母さんのご飯も美味しいけど、おばあちゃんのご飯は、またなんかちがって、おいしい。
でも、今日はマキお姉ちゃんがご飯をつくっていた。
少し残念だけど、顔に出さないようにしたよ。だって、まきお姉ちゃんにわるいじゃん。そういうの僕はけっこう気にするんだ。
お父さんとテレビでお笑い番組を見てはしゃいでいると、すごくいい香りがキッチンからしてきたよ。
「はいおまたせー。テーブル片付けてくださーい」
マキお姉ちゃんはお盆にご飯をのせて持ってきてくれた。
肉じゃがにサラダにまぜごはんに、沢山具が入ったお味噌汁。
僕はおばあちゃんのお味噌汁が大好きで、それはいつも具だくさんでいい香りがしたのだけど、マキお姉ちゃんがつくってくれたお味噌汁もおんなじようにとっても良い香りがした。
そのことをマキお姉ちゃんに話すと、マキお姉ちゃんはうれしそうにいった。
「そうよー、これはおばあちゃんから教わったイナダ家伝統のお味噌汁よ。いいおだし使っているから、美味しいのよ」
そんなやりとりをしていると、ベッドの上から様子を見守っていたおばあちゃんがうれしそうに言う。
「あら、いいのはおだしだけじゃないでしょ。たっぷりの愛情がはいってる。ふふふ」
「そうでした。もちろん、はいっておりますよ、たっぷりの愛情」
マキお姉ちゃんは両手でハートのマークをつくって見せて、お味噌汁にふりかけでも掛けるようなそぶりで手を振った。
それをみて僕たちは笑った。おばあちゃんも笑った。
運ばれてきたのは、3人分のご飯だった。それに気がついて、僕は聞いてみた。
「あれ、おばあちゃんはご飯食べないの?」
「そう、あたしはね、たべられないの。ざんねーん。いまは、これがおばあちゃんのごはん。」
そういって、おばあちゃんは袖をまくって腕を僕に見せた。
そこには、箱のようなものが腕にバンドでとめられていた。
よく判らずにいると、お父さんが説明してくれた。
箱のようなものには栄養剤がはいっていて「点滴」で栄養をとっているんだって。
ご飯が食べられないなんて、かわいそう。そう思ったけど、言わなかった。
おばあちゃんはなんだか、それでも楽しそうだったから。
3人でご飯を食べ終えると、お片付けのお手伝いをしたあと、マキお姉ちゃんが花火をだしてきた。
お庭でやろうって。
ベッドにいるおばあちゃんにも見えるようにやりましょうって。
僕は喜んでお父さんとお庭にでた。
水を入れたバケツをお父さんは用意してくれた。
ろうそくを立てる缶詰の空き缶をマキお姉ちゃんがキッチンから持ってきてくれた。
僕知ってるよ。ここにろうそくをたてて風よけにするんだ。
最初の一本目に火を付けるとバチバチっといいながら火花が勢いよく飛び出した。
「わあ、キレイ!」ってマキお姉ちゃんがいって、ばあちゃんもお父さんも、みんなでおおーって盛り上がったよ。
花火の火が眩しかった。もう周りは暗いから、すごく明るく見えた。
花火は直ぐに消えちゃうけど、沢山あるから次々と火を付けて遊んだよ。
色んな形の火花が、色んな色を出してとってもキレイ。
僕は花火を両手に持って、くるくるまわったりして見せた。
おばあちゃんもすごいキレイって、喜んでくれた。
花火の火が消えると、おばあちゃんは「もっとみせてくれる?」と僕にいう。
僕も沢山花火ができて、おばあちゃんも喜んでくれるのでうれしくなって、「うん!」と大きな声を出して、花火に火をつける。
ずっとやってると、だんだん花火が少なくなっていった。
最後は、いつも線香花火がのこっちゃう。
でもね、おばあちゃんはいつも言うんだ。今日もやっぱりいった。
「あたしは線香花火が、やっぱりいちばん好きね」って。それが僕にはふしぎだった。だから聞いてみた。
「一杯キレイな火が出るのが楽しいのに。線香花火ってちょっとさみしくない?最後、ぼとって落ちるし。」
「ふふふ、そうね。でもね、すぐ終わっちゃうのがわかるから、キレイなの。それに、けっこう見てると、小さい火花も色んな表情をみせるのよ。そして、最後は必ず、ぼとっておちる。さみしいけど、それがキレイなの」
ふうん、そういうものかなと思いながら、僕は最後に残った線香花火に火を付けたよ。
何本かあるので、お父さんも、マキお姉ちゃんも、みんなでそれぞれ持って、火を付けた。
最初の火花が出て少しすると、だんだんと丸い固まりができて、そこからパチパチいいながら元気な火花が出たと思ったら、少しして大人しくなって、ジジジジいいながら細い火花になった。
まわりをみると、お父さんもマキお姉ちゃんも、それぞれが線香花火をじっと見つめてる。「きれいだね」ってお父さんが言うと、マキお姉ちゃんは「うん」といった。あとはだまって線香花火を見つめてる。「あっ」とお父さんが言うのと、お父さんの線香花火の玉が落ちるのが同じくらいだった。マキお姉ちゃんも「あっ」っていった。火玉が落ちて消えた。
「トモくんの線香花火、すごく長くない?」まきお姉ちゃんがいうように、僕の線香花火は玉が最後まで落ちずにそのまま消えた。ちょっと得意な気持ちになって、みんなを見た。お父さんも、マキお姉ちゃんも、おばあちゃんも笑顔だった。でもおばあちゃんはなんだか泣いてもいるみたい。笑顔でいながら、自分の涙を指でぬぐっていた。
・・・つづく
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