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誰も知らない、ものがたり。

オリジナル小説「Quiet World」 21

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


前の話を読む


 

 ユリが”大さん”と呼んだ白髪交じりの大柄な男は、このQuiet Worldの創設時のメンバーの1人だった。

 ユリがノアでマザーAIの開発に携わっていた頃からの知り合いで、いわゆるノアの中枢で事務的な管理業務に携わっていた男だった。当時の数少ないユリの理解者であり、ノア中枢部の様々な不穏な動きについても知り得る情報をユリに伝え、ついにはともに危険をかいくぐりこの地までやってきた仲間でもあった。

 名を小山大志(こやまだいし)と言う。

 小山は先程マルコに襲いかかった少年について、事情を知らないケンとカヲリ、そして当のマルコにかいつまんで説明をした。

 少年の名前は石崎コウタ。年齢は12歳。今から5年前にこの集落から比較的近い地方都市のコロニーから親戚である叔父とともにたった二人でこの集落に逃れてきた。その叔父は自身の自己免疫疾患の快復を見る前に、この地にやってきた直後に亡くなってしまった。

 コウタはこのQuiet Worldにやってきた当初は何も言葉を発さずにいた。常に下を向き、集落にいる誰にも心を開こうとしなかった。

 博士の自己免疫修復の食事療法によって防護服を脱ぐことができるまでのプログラムを終えても、与えられた住まいから一歩たりとも出ようとしない。

 唯一の身寄りであった叔父はこの集落についてすぐに身体が弱り、集落の病院施設に収容されていたので、身の回りの世話をする大人は誰もいなかった。このままでは良くないということで、小山がその世話役に名乗り出て、自宅に招き入れての二人の共同生活が始まった。

 小山が少年の声を初めて聴いたのは、二人で共同生活を初めて1週間ほど経った時だ。

 小山が用意した夕食を食べている最中、温かい野菜スープに口をつけたと思ったら急に泣き出して漏れ出た嗚咽が、小山が初めて聴いたコウタの声だった。

 そのままコウタは小山に両親と離れ離れになってしまった時のいきさつを、当時たった7歳の少年がわかる限りの内容で、声を絞り出すようにたどたどしく話しだしたという。

「両親は、ある日突然、家にやってきた大きなロボット達にそれぞれ連れて行かれてしまったそうです。その代わりにコウタの家に置かれたコーディネートロボのAIに、両親と会いたいと、毎日毎日、いくらお願いしても、まったく聞き入れてもらえなかったと・・・」

 小山はちらりとマルコを見ていった。

「きっと、おまえさんが少しばかりそのコーディネートロボットのAIに姿が似てたのかもしれんですわ」

『・・・ワタシにはそのようないたいけなこどもに対して冷酷な対応はデキカネマス』

 マルコは不服そうに言った。

「そのようだ」小山の目尻に皺が寄った。

「・・・おそらく、コウタの両親は例の精神病棟に拘束されたんでしょう。その理由は当時コウタも小さかったし、今となってはわからんです」

 両親との暮らしを突然コロニーのAIとロボットたちによって奪われた。そして、恐らく精神疾患というのは全くの言いがかりで何かしらノアの体制に不都合な行動や思想を、予めノアの中枢部に監視されていたのだろう。

 ケン自身、友人のトオルが突然重度の精神疾患の患者として、コロニーの地下最下層に近いセクション46に収監されてしまった経緯をこの目で見てきた。

 正直、そのことがノアに対する疑念を確定的なものにし、こうやって危険を犯してまでこのQuiet Worldにやってきた大きな理由でもあった。

 ノアの上層部、そのごく一部の間に蔓延る闇。

 行き過ぎた思想と行動の管理は、人々にかりそめの安全と豊かな暮らしを与える代わりに、緩やかに確実に人々の尊厳を奪いつつある。

 コウタは、その被害者の一人であった。

 いや、被害者と認識できている少ない人間の中の一人、というのが正しいのかもしれない。

 

・・・つづく。


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主題歌 『Quiet World』

うたのほし

作詞・作曲 : shishy

唄:はな 

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