指先に口付けて
「・・・やばい。これはヤバイ」
本日2月13日11時過ぎ、キッチンに立った一護は目の前に広がった惨状に息を飲んだ。
「これも全部あのエロぬいぐるみのせいだ」
ふるふると拳を震わせながらも、怒りをぶつける相手はつい先程義魂丸の状態に戻してしまったので、投げつけるくらいしか出来ない。
投げつけるにしても、家のほうが壊れてしまうのでソレも出来ない。
「あ~もう!!今から買い物に行くなんてこと、ばれたら親父がうるさいし・・・」
コンビニなら開いてるけど・・・爆睡しているのになぜかこっそり出かけて帰ってくると起きている親父の説教を受けて時間がなくなるのはもっとヤバイ。
明日買って行くのがベストか?
だけど買ったものだと義理っぽい・・・アイツ、優しそうに見せているくせにちょっとしたことで腹黒面を表に出すから、絶対に笑顔で怒って変な疑いを持つんだよ。
だけど、この量じゃトリュフの一個も作れないし、クッキーの一枚もコーティングできない・・・
「・・・・・」
いや待てって、とにかく落ち着け俺。
ソレはもっとヤバイ。
何がヤバイってそんな考えを持った俺がヤバイ。
落ち着け、とにかく深呼吸をして落ち着いて、その考えを捨てろ。
「だけど・・・」
それ以外に周囲への被害を無くす方法があるか?いや無い。
ああ、だけどそんな・・・
「一護」
「来た・・・来ちゃったよ」
雰囲気で感じさせるくらいのいつにない機嫌の良さで、手を上げて俺を呼びながら近づいてくる眼鏡に、決心は砂浜の城のように今にも崩れそうになっている。
というかもう崩れ消えていて、今すぐ逃げて現世に帰りたいです。
そんな一護の心に全く気付かず、藍染は二週間ぶりに会いに来てくれた一護の姿に、これが一護がいなければ反逆を起こそうと思っていた男の顔かと信じられないくらいに浮かれきっていた。
「久しぶりだね、元気にしていたかい?」
藍染は手の届くところまで来ると、人目も憚らずに一護を抱き締めて耳元で甘く囁く。
これが無意識の行為だと一護は気付いているので、このタラシと心の中で愚痴りながら違和感のある左手の薬指を気にする。
「一護、具合が悪いのかい?いつもなら『元気だから』と言いながら押し返したり『今悪くなった』と言って蹴りをしかけてくるのに」
「わかっているならやんなよ」
肩を掴んだまま身体を離した藍染は、大人しい一護の様子にどことなく不満げに尋ねてくる。
一護は、そんな藍染の言葉につい突っ込みを入れてしまい、隠していた左手を出してしまった。
「その指、一体どうしたんだ?!」
「あ~怪我じゃないから、別にどうもしてないから揺さ振るな」
包帯が巻かれた左手の指に気付いた藍染にガクガクと前後に揺らされ、頭がくらくらして気持ち悪くなってきたので一護は藍染の首を掴んで動きを止めさせた。
「怪我じゃない?じゃあ何で?もしかして僕のためにチョコを作ろうとして火傷をしたのかい?それで僕を心配させまいと」
「怪我じゃないって言ってるだろうが」
人の話を聞かない藍染にグッと首を掴んだ手の力を強めれば、クンっと藍染は鼻を鳴らす。
「甘い匂い?」
「は?」
「もしかして」
ぼそりと呟いた言葉が聞き取れずに聞き返すが、藍染はソレに答えずに絞めていた手を掴んで顔の前まで持ち上げて「やっぱり」と言って笑みを深める。
「な、なんだよ」
急にやらしい笑みを浮かべたので、一護は冷汗ととも自分の指と藍染を見比べて息を飲む。
まさか、いやまさか、こいつはギンじゃないしそんな、こんな些細な事で気付くはず・・・
「これは僕が貰ってもいいよね?」
するすると片手で器用に包帯を解いていく行動に必死に叫びながら止めようとしたけれど、一護の身体をこれまた器用に片手で押さえ込んだ藍染は鼻歌を歌いそうなくらいの上機嫌で笑いながらするりと包帯を解いて地面に落としてしまった。
現れてしまった指に一護は後悔したように涙ぐみながら口をパクパクさせ、羞恥心から逃れるように藍染から視線を外す。
「僕以外にあげるなんてこと無いよね?」
茶色くなった指をペロリと舐め、ビクリと震えた一護の肩に顔を乗せるようにして囁けば、耳を赤くしてまたビクっと身体を震わせた。
「うう…そうだよ、アンタにあげるためのだよ///」
「じゃあ行こうか」
「へ?」
「僕がもらえるんだろう」
「え、あ、チョコは」
「勿論中身ももらえるよね」
指に塗ったチョコはあげると言った。だけど藍染はそうはとらなかったのか、抱き上げられ瞬歩で連れてこられたのは藍染の私室。
これは最悪の事態じゃないか?と思ったときには布団の上に押し倒されていて、
「中身って・・・?」
アハハと乾いた笑みで誤魔化そうとしてみるが、
「指を切り取るなんて一護を傷つける行為は嫌だから、別の方法で貰おうかと思ってね」
「ハハ・・・切り取るって、時々怖い事考えるよなアンタは」
「僕としてはそこより後に言った事に気を留めて欲しかったな」
そこは気を留めるよりも聞き流したいんです。
「まあ聞き流しても僕としては特に変更の予定は無いけど」
変更してください!!
声にならない叫び声は届かず、浮かされる体熱で指のチョコが解け切るまで藍染に食べられてしまった一護は、
「コンのやつ・・・!」
今回の悲劇を生み出す原因を作ったコンに、帰ったら絞めてゴミ箱に捨ててやる!と拳を握り締めた。
END
バレンタインフリー小説です。
ご自由にお持ち帰りください。
「・・・やばい。これはヤバイ」
本日2月13日11時過ぎ、キッチンに立った一護は目の前に広がった惨状に息を飲んだ。
「これも全部あのエロぬいぐるみのせいだ」
ふるふると拳を震わせながらも、怒りをぶつける相手はつい先程義魂丸の状態に戻してしまったので、投げつけるくらいしか出来ない。
投げつけるにしても、家のほうが壊れてしまうのでソレも出来ない。
「あ~もう!!今から買い物に行くなんてこと、ばれたら親父がうるさいし・・・」
コンビニなら開いてるけど・・・爆睡しているのになぜかこっそり出かけて帰ってくると起きている親父の説教を受けて時間がなくなるのはもっとヤバイ。
明日買って行くのがベストか?
だけど買ったものだと義理っぽい・・・アイツ、優しそうに見せているくせにちょっとしたことで腹黒面を表に出すから、絶対に笑顔で怒って変な疑いを持つんだよ。
だけど、この量じゃトリュフの一個も作れないし、クッキーの一枚もコーティングできない・・・
「・・・・・」
いや待てって、とにかく落ち着け俺。
ソレはもっとヤバイ。
何がヤバイってそんな考えを持った俺がヤバイ。
落ち着け、とにかく深呼吸をして落ち着いて、その考えを捨てろ。
「だけど・・・」
それ以外に周囲への被害を無くす方法があるか?いや無い。
ああ、だけどそんな・・・
「一護」
「来た・・・来ちゃったよ」
雰囲気で感じさせるくらいのいつにない機嫌の良さで、手を上げて俺を呼びながら近づいてくる眼鏡に、決心は砂浜の城のように今にも崩れそうになっている。
というかもう崩れ消えていて、今すぐ逃げて現世に帰りたいです。
そんな一護の心に全く気付かず、藍染は二週間ぶりに会いに来てくれた一護の姿に、これが一護がいなければ反逆を起こそうと思っていた男の顔かと信じられないくらいに浮かれきっていた。
「久しぶりだね、元気にしていたかい?」
藍染は手の届くところまで来ると、人目も憚らずに一護を抱き締めて耳元で甘く囁く。
これが無意識の行為だと一護は気付いているので、このタラシと心の中で愚痴りながら違和感のある左手の薬指を気にする。
「一護、具合が悪いのかい?いつもなら『元気だから』と言いながら押し返したり『今悪くなった』と言って蹴りをしかけてくるのに」
「わかっているならやんなよ」
肩を掴んだまま身体を離した藍染は、大人しい一護の様子にどことなく不満げに尋ねてくる。
一護は、そんな藍染の言葉につい突っ込みを入れてしまい、隠していた左手を出してしまった。
「その指、一体どうしたんだ?!」
「あ~怪我じゃないから、別にどうもしてないから揺さ振るな」
包帯が巻かれた左手の指に気付いた藍染にガクガクと前後に揺らされ、頭がくらくらして気持ち悪くなってきたので一護は藍染の首を掴んで動きを止めさせた。
「怪我じゃない?じゃあ何で?もしかして僕のためにチョコを作ろうとして火傷をしたのかい?それで僕を心配させまいと」
「怪我じゃないって言ってるだろうが」
人の話を聞かない藍染にグッと首を掴んだ手の力を強めれば、クンっと藍染は鼻を鳴らす。
「甘い匂い?」
「は?」
「もしかして」
ぼそりと呟いた言葉が聞き取れずに聞き返すが、藍染はソレに答えずに絞めていた手を掴んで顔の前まで持ち上げて「やっぱり」と言って笑みを深める。
「な、なんだよ」
急にやらしい笑みを浮かべたので、一護は冷汗ととも自分の指と藍染を見比べて息を飲む。
まさか、いやまさか、こいつはギンじゃないしそんな、こんな些細な事で気付くはず・・・
「これは僕が貰ってもいいよね?」
するすると片手で器用に包帯を解いていく行動に必死に叫びながら止めようとしたけれど、一護の身体をこれまた器用に片手で押さえ込んだ藍染は鼻歌を歌いそうなくらいの上機嫌で笑いながらするりと包帯を解いて地面に落としてしまった。
現れてしまった指に一護は後悔したように涙ぐみながら口をパクパクさせ、羞恥心から逃れるように藍染から視線を外す。
「僕以外にあげるなんてこと無いよね?」
茶色くなった指をペロリと舐め、ビクリと震えた一護の肩に顔を乗せるようにして囁けば、耳を赤くしてまたビクっと身体を震わせた。
「うう…そうだよ、アンタにあげるためのだよ///」
「じゃあ行こうか」
「へ?」
「僕がもらえるんだろう」
「え、あ、チョコは」
「勿論中身ももらえるよね」
指に塗ったチョコはあげると言った。だけど藍染はそうはとらなかったのか、抱き上げられ瞬歩で連れてこられたのは藍染の私室。
これは最悪の事態じゃないか?と思ったときには布団の上に押し倒されていて、
「中身って・・・?」
アハハと乾いた笑みで誤魔化そうとしてみるが、
「指を切り取るなんて一護を傷つける行為は嫌だから、別の方法で貰おうかと思ってね」
「ハハ・・・切り取るって、時々怖い事考えるよなアンタは」
「僕としてはそこより後に言った事に気を留めて欲しかったな」
そこは気を留めるよりも聞き流したいんです。
「まあ聞き流しても僕としては特に変更の予定は無いけど」
変更してください!!
声にならない叫び声は届かず、浮かされる体熱で指のチョコが解け切るまで藍染に食べられてしまった一護は、
「コンのやつ・・・!」
今回の悲劇を生み出す原因を作ったコンに、帰ったら絞めてゴミ箱に捨ててやる!と拳を握り締めた。
END
バレンタインフリー小説です。
ご自由にお持ち帰りください。
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