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SWAN日記 ~杜の小径~

陰陽師SS短編 ◆◆ 件(くだん)とアマビエ ◆◆

陰陽師SS短編 ◆◆ 件(くだん)とアマビエ ◆◆  

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2025年、最初のSSは陰陽師です💫
ベルばらでも楔でもなく 陰 陽 師 (笑)
 
以前、陰陽師サークル友人のお誕生日に合わせて書いた短編。
許可もいただいてコチラに再録です。
 Sさん有難う〜^_^
2020年の春頃だったか‥コロナが流行り始めてアマビエ画が広まり始めた頃に書いたSSなのでアマビエの物語です。
陰陽師SSのUPはカテゴリ内の1話(前後編)だけかも…と言いつつ、もう1話増えました(^_^)a
 
2025年、コロナのような感染症が広まることなく、穏やかな一年でありますように^_^
僻地の拙ブログではありますが、本年もよろしくお願いいたします☆
 
SWAN/白鳥いろは
 
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
 
陰陽師SS短編 
◆◆ 件(くだん)とアマビエ ◆◆  

時は平安時代。
陰陽師・安倍晴明の屋敷では何時もの如く源博雅が晴明に誘われ二人で酒を飲んでいた。
濡れ縁から眺める澄んだ星空が美しい。
星を見ながら博雅が呟いた。
「しばらくは賀茂家や晴明や‥心強い陰陽師がいるから京の都も安泰であるなぁ」
「どうした急に?」
「冷夏で不作が続けば民が飢える。飢饉や疫病が流行れば多くの民が命を落とす。百年毎くらいに疫病が流行ってきたではないか。書物では七三五年(天平七年)から数年、八六一年(貞観三年)から数年も疫病が広がって民や子供たちが命を落としたとある。後者は早良親王の呪いとの噂もあったが、あれは嘘であろう?書物にある早良親王は良い人物であったとあるし‥」
「まぁ‥な。そのつど御霊会で鎮魂はしているが‥‥。おれも疫病や飢饉の原因が怨霊だけでは無いと判っているさ。人や何かの所為にして御霊会で鎮魂する‥気休めのような気もするが先の見えぬ疫病の恐怖に対し、何かに縋りたくなるのも致し方ないであろうよ。都に人が集まれば人口が集中する。衛生環境が悪化すれば疫病も流行りやすくなるだろうさ」
この時代、疫病の原因は怨霊‥恨みを抱いて死んだ者達の霊だとする御霊信仰が広まっていた。
早良親王や伊予親王を始め皇族や貴族で謀反の罪の疑いで亡くなった数名の者達の怨霊が人々に恐れられ御霊会が執り行われてきた。
陰陽師‥宮中の陰陽寮での主だった仕事は御霊会だけでは無い。
厄除けや悪霊祓い、占いも勿論だが、風水や天文学に基づいて良い立地の土地や建物を調べたり、年間の暦の作成や時間の管理等と様々だ。
第六感が優れているだけでは無く、頭脳も優秀でキレ者が多い陰陽師。
酒を呑みながら寛いでいる安倍晴明もその一人だった。
なかなか陰陽寮に出仕もせず屋敷に籠っている変わり者ではあるが、陰陽頭であり晴明の兄弟子でもある賀茂保憲に次ぐか同等の実力を持っている為、晴明の屋敷に使いの者がやって来ることも度々なのである‥が、他の者では晴明の屋敷の結界を突破出来ぬ為、保憲が直接訪ねてきたり、帝からの仕事だと博雅が抜擢されることも多かった。

「なぁ晴明よ。御霊会もそうだが、陰陽師の祈祷や護符も効力は強いと思うのだ。不作や疫病など予言や厄除けなどができる妖怪や物の怪はいるのか?」
「そうさなぁ‥いないこともないが」
「やはりいるのだな。それでも天候不良や冷夏が続き不作になれば飢饉がくるし、疫病の流行りも止められぬのだなぁ‥」
「誰かしら予言を受けている者はいるのさ。予言を伝えられる途中で物の怪だと逃げたしたり、幻覚だ夢だと己に言い聞かせて見なかったことにしたり‥周囲に伝えたところで《気がふれた》と思われることもあるだろうな。貴族や宮中に仕える者達ならばまだしも、民達すべてが読み書きを出来る訳では無かろう?」
「予言する妖怪や物の怪が現れても信じぬということか‥。世の中の先を人に教えるのだから悪いモノ達では無いのだな」
「人に直接危害を加える事は無い。よく知られるのは‥件(くだん)、アマビエにアマビコだな。件は人面牛‥人の頭に牛の胴体で豊凶や疫病を予言すると言われている。
アマビエとアマビコは同じであるが地域で呼び名が違うようだ。これも豊凶や疫病の予言だな。
アマビエが予言する時には《自分の姿を貼り置けば難を逃れる》《早々に私の姿を写して人々に見せよ》と助言もあるのだから護符や厄除けの効力もあるのだが‥描きとめた人によりアマビエ像が大きく変わるのでなぁ。
件は地に姿を現すが、アマビエは海だ。
件の姿は人々にも想像し易いが‥。アマビエは長髪にクチバシ、身体に鱗、三本足(ヒレ)という姿ゆえ、口伝いだと想像し難いゆえ描きとめるのも苦労する。予言を受けた者が絵心があれば良いのだがな。
件は予言をして数日で死ぬ(消える)と言われているが‥何度かの予言を告げて、役目を終えれば次に生まれ変わる準備に入るだけだ。件もアマビエも普段は人に見えぬ為、存在にも気付かないさ」
「件にアマビエか‥会えるのか?」
「博雅‥お前、恐ろしくないのか?」
「何故だ?」
「博雅らしい。まぁ、お前なら大丈夫だろうな」
「‥‥‥?」
博雅は杯を持ったままポカンと口を開いている。
「‥相手もある程度は人を選んで予言するからさ」
「そうなのか?」
興味津々らしい博雅は会ったことの無い《件》と《アマビエ》を思ってニコニコと笑っている。
普通の人間であれば恐怖心が勝るものであるのに‥この呑気さも博雅ならではなので、晴明も呆れ笑いをするしかない。
「件も人懐こいぞ。アマビエも美しい鱗を持つ妖怪で人懐こい。会わせても良いが‥覚悟はしておけ」
「覚悟‥って、何をだ?」
「お前は式神や付喪神、物の怪や妖怪などにも好かれる性格ゆえ‥今後の予言をいくつされても知らんぞ」
予言が農作物の豊凶や疫病の流行りだけとは限らない。博雅に関わる予言を一から十までされそうで晴明は呆れるように口元で笑う。
「必要な時でなければ、予言しないのではないか?」
首を傾げる博雅に晴明は笑って酒を注いでくる。
「何だ晴明、自分だけ納得するな!」
博雅は頬を膨らませて杯の酒を飲んだのだった。

「さて‥と。酒も楽しんだし、そろそろ件を呼ぼうか」
「今からか?」
立ち上がった晴明は庭に身体を向け、何かを唱えだすと。
辺りに霧がまき、スゥ‥と何かが姿を現した。
胴体は牛であるが首から上は人の頭に人の顔、綺麗な黒髪の色白で美しい面立ちの件だった。
「‥晴明さま。何か御用でしょうか?」
女の顔と声‥普通に話をする件に博雅は目をパチクリさせる。
「呼び出してすまぬ。この源博雅が‥件に会うてみたいと申すのでな」
件は博雅を見た。
「源博雅さま‥お噂は予々いろいろな所で聞いております」
「初めて会うの。源博雅と申す。‥件殿に名はあるのか?」
件相手にも呼び捨てにはしない博雅に不思議そうな表情をしながらも静かに答えた。
「名は‥ありませぬ。何度か人に予言を伝えれば生まれ変わりますので」
「それでもお主は人の言葉を話す。以前は人であったのではないか?」
博雅の言葉に件は晴明を見た。
「博雅はこのような漢なのだよ」
天然だ、と晴明は件をみて苦笑いをする。
件から見ても博雅に晴明のような術師の強い力は感じられない。
博雅に感じるのは、例えるなら《癒し》の力。
異界の者達が口を揃えていう源博雅の不思議な力とはこういうことか‥と件も納得して頷いた。
「博雅よ。件にも昔は名もあったさ。不作や飢饉、疫病が流行った時、鎮める為に人柱‥悪く言えば生贄だが、それが執り行われていた時代もあるということだ。自ら志願し人柱になった者もいれば、悪人を人柱にすることもあった。自ら志願した者達は《件》となることもある。人を救いたい思いで予言を続けているのさ。だから件の姿は老若男女問わない」
「‥そのような事が‥‥辛いな」
悲しそうな表情をする博雅に件は言う。
「~ですが、博雅さま。何度か予言をした後、時がくれば成仏し、いずれは人として生まれ変わリますので‥我が身を不幸などとは思っておりません」
「‥そう‥なのか?」
「はい」
笑う件につられて博雅も微笑む。
「では、件殿。そなたの人であった時の名は何という?」
「‥冬の雪‥《ゆき》です」
「《ゆき》か。雪のように色白で可愛らしい女子であったのだろうな。~よし。件殿のことは雪と呼ぼう。なぁ、雪。良いであろう?」
件は微笑みながら頷いた。
「その名で呼ばれたのは久しぶりでございます」
やれやれ‥と晴明は博雅を見る。
これだから、この天然的な漢は人外の者達から慕われる。
自分が預けた護符もあるし、博雅を慕っている異形の者達も護りに入るのだから、本人も源の屋敷周辺も術師の呪い札などは効かぬ安全圏だった。
笛の名手でもある博雅は、心の赴くまま竜笛を奏でる漢。
朱雀門の鬼と交換したという竜笛《葉二》。
博雅は奏でる竜笛の音色は浄化や鎮静する力を持つ。
その竜笛も源博雅が奏でることで効力を持つのだから、不思議な漢だった。
保憲は「晴明と博雅様が組めば鬼に金棒だろう」と厄介な仕事も押し付けてくる。
恋仲になった博雅絡みでなければ、晴明とて出仕などせずに屋敷でのんびりしていたいのだが‥と件の雪と博雅が楽しそうに話をしている姿を眺めながら晴明は苦笑する。

「なぁ晴明!雪が今からアマビエに会いに行かぬかと申しておるが…朝方までに帰れるか?」
「今度はアマビエか。なに、件の雪が引く牛車なら直ぐに肥後(熊本)の海辺に着くだろうさ」
晴明も件を《雪》と呼ぶのを聞き、博雅は笑って頷いた。

晴明が術で出した牛車に二人は乗り込むと、雪が引く牛車がゆっくりと動き出した。
「雪、重くは無いか?」
気遣う博雅に雪は笑う。
「博雅さま、大丈夫でございます。晴明さまの用意した牛車を件が引いているのですから直ぐに着きますよ」
「おい晴明。なんの術なのだ?」
「さぁなぁ…そろそろ肥後の浜辺だぞ」
「え‥?もう着いたのか?」
そんな会話をしているうちに牛車はギィ‥ッと停車した。
「晴明さま、博雅さま、到着いたしました」
二人は牛車から浜辺に降りる。
牛車はスゥ‥と消え、件の雪だけが残った。
博雅は辺りを見回した。
肥後の海は空気も澄んで星が綺麗だ。
穏やかな波の音と潮風が心地よい。
「肥後の海は初めてだが…月明かりに映えて綺麗だな。ここにアマビエを呼べるのか?」
「‥呼ばなくても、おれと件の雪の気配を感じて姿を現わすだろうさ」
そう言って晴明は水面を指差した。
波の上‥水面がキラキラと輝く。
水面から何かが現れ、海中を歩いて浜辺に近づいてきた。
長い黒髪、身体の鱗が月明かりに照らされて美しく光り輝く。
月明かりに照らされて神々しくとも見える姿だ。
人の顔であるが口はクチバシのような…河童に似た口元のようだ。
三本足という後ろ足の一本は尾びれの役目なのか魚の尾に近く、二本の足にもふくらはぎから踝にかけてヒレがある。
手にも水かきらしきものがあり、半魚人のように見えるが美しい妖怪だった。
「これはこれは‥晴明さまに件‥お久しぶりです」
「アマビエ、久しぶりだな」
「お久しゅう‥アマビエ」
「皆様お揃いで‥何かありましたでしょうか?」
微笑みながらも首を傾げるアマビエに晴明は言う。
「源博雅がお主に会うてみたいそうなのでな。件と共に来たのだよ」
「まぁ‥源博雅さまとは。人外の世界でも有名なお方です。晴明さまと博雅さまがお組みになれば怖いものなど無いでしょう」
「わたしは源博雅。初めてお目にかかる‥アマビエ殿」
頭を下げる博雅に、つられて頭を下げたアマビエは晴明をみた。
件と同じような反応に晴明は口元で笑う。
「気にするな。博雅はこういう漢だ。醍醐天皇を祖父に持つ貴族であるのに、鬼門であるおれの屋敷まで徒歩で来るような奴であるがな」
「星が綺麗な夜、夜道を歩いて何が悪いのだ?」
天然的に笑って博雅は続ける。
「アマビエ殿、お主にも名はあるのか?」
「わたしはアマビエを名乗っておりますが‥?」
「それは妖名であろう?それ以外の名はあるのだろうか?」
「‥特にありませぬが‥」
「そうか!では名を付けよう!」
博雅はアマビエを見ながら首を傾げて考えた後。
「アマビエ殿は濡れた鱗が月夜に照らされて輝くように美しいゆえ‥輝く夜で《輝夜~かぐや~》はどうであろう?」
人間であれば暗闇さえも恐れるものだが、博雅は普通ではなかった。
物の怪や妖怪なども恐れない。
博雅が纏う暖かな力を感じながら、アマビエは礼を伝えた。
「‥輝夜とは‥美しい名を有難うございます」
嬉しそうに博雅は頷く。
「アマビエの輝夜も件の雪も、人に予言を伝える者と聞いた。予言する時期でも無いのに‥姿を現わしてくれ有難う」
件とアマビエは博雅に頭を下げ、顔を見合わせて笑った。
「いえ。わたし共も晴明さまにお会いするのも久しく、博雅さまは初めてお目にかかるお人ですので‥」
「ええ。人外の者達の間でも晴明さまと博雅さまの名は知れ渡っております。お会いしとうございました」
件とアマビエは口々に言った。
「‥そうであるのか?」
博雅の呑気な言葉に件とアマビエは晴明を見ると、晴明も肩を竦めてみせる。

「博雅さま。晴明さまの護符もお持ちと思いますが、わたしの姿を描き写して護符変わりにお屋敷にお貼りくださいませ。災いを避ける助けになりましょう」
「おぉ。アマビエ殿の姿を描き写し、護符代わりになると晴明も言っていたな。よし、晴明も一緒に描こうぞ」
「おれも描くのか?」
嬉しそうな博雅に晴明は呆れ顔で笑う。
晴明の術で二人の式神が現れ、一人は台代わりの薄い板と和紙と筆を手渡たし、もう一人は二人の間に立ち、蝋燭の火で手元を明るく照らした。
浜辺に佇むアマビエを見ながら、博雅は考えながら筆を進めてゆく。
隣の晴明も筆を滑らせるようにサラサラと描いてゆく。
「よし、出来た!」
「早いな博雅」
博雅より少し遅れて晴明も描き終えた。
「ほら、これでどうだろう?」
博雅は描き終えたアマビエ像を広げて見せた。

「「「「はい?( ̄O ̄;)」」」」

晴明とアマビエと件、式神達までも驚愕の表情をして固まった。ドン引き状態である。
子どもの落書き以下であろうかと思うほど源博雅には絵心が全く無かった。
(注・江戸時代に役人が描いたというアマビエ画をご想像ください‥笑)
「ひろ‥博雅さま。これがわたしでございますか?」
「おお。すまぬのぅ‥絵は苦手なのだ。どれ、晴明はどうだ?」
ポリポリと頭を掻きながら博雅は晴明を見ると、晴明もペラリと和紙を広げてみせた。

「「‥ほぅ‥」」

精密に描かれた美しい姿にアマビエと件は感銘の声を上げ、式神達も微笑んでいる。

「おお!美しいアマビエだ。晴明、お前は絵心もあるのだなぁ!」
博雅は晴明の絵とアマビエを見比べて笑った。
「このアマビエ像に色もつけられれば美しさが増すのにのぅ‥晴明?」
「いや、このままで充分だ」
晴明は即答で断言した。
博雅のアマビエにも彩色したら大変なことになりそうである。
「‥そうか?~で、アマビエ殿‥輝夜よ。お主を描いたこの絵を屋敷に貼れば良いのだな」
嬉々として笑う博雅に一同は複雑な表情を浮かべた。
アマビエは泣きそうな顔をしている。
何かと来客も多いであろう源の屋敷‥このまま都でアマビエ像が伝記されたら大変だ。
「‥博雅よ。おれの描いた絵と交換しないか?陰陽師が描いたアマビエ像のほうが効力も強かろう」
流石にアマビエの心中を悟って晴明が助け船を出した。
博雅は天然で全く悪気は無いのである。
「おぉ!それは良い案であるな」
嬉しそうに笑い、博雅は絵を交換したのだった。
あらためて博雅は件とアマビエに向き合い、笑みを浮かべた。
「今宵は件の雪とアマビエの輝夜に会えて良かった。礼に葉二を奏でようぞ」
博雅は懐から竜笛を取り出し、口元に構える。
そして。
波の音に調和するように竜笛が鳴り響き、辺り一面は澄んだ音色に包み込まれた。

件とアマビエ、晴明も博雅の奏でる竜笛の音色に聴き入った。
心の赴くままに竜笛を吹き終えた博雅に、件とアマビエも「ほぅ」と息を吐く。
優しく、心までも癒され、全てを浄化するような音色。
異界の者達が口を揃えていう博雅の力を感じて件とアマビエも微笑む。

「博雅さま。笛の音のお礼に‥わたし達から予言をお伝えしましょう」
アマビエは言った。
「え?天変地異か何かあるのか?」
「いえいえ。晴明さまと博雅さまがおりますので、しばらくは京も安泰でございます」
「はい。飢饉や疫病の流行りもこの先数十年の間はありませんのでご安心ください。別の予言でございます」
そう言う件に博雅は首を傾げた。
「うん‥?」
「博雅さまの予言でございますよ」
「‥おれの‥?」
件とアマビエは笑い合う。
「はい。よろしいですか?」
「では、幾つか申し上げますので覚えておいてくださいませ」
博雅の返事を待たず、件とアマビエは交互に言い始めた。
「◯月◯日、お屋敷で博雅さまは階段を踏み外し、右足首を痛めます。晴明さま、お薬の処方を用意しておいてください」
「◯日◯日、宮中で風邪が流行り、博雅さまも風邪をひかれます。熱が上がりますが一晩で下がりましょう。しばらく喉が痛むと思いますが、晴明さまがいらっしゃれば大丈夫です」
「◯月◯日、博雅さまはお庭にある熟した金柑の実を取ろうとして、枝の棘で指を痛めます。ご注意くださいませ」
「博雅さま。褥での晴明さまと博雅さまは大変仲睦まじく思いますが、睡眠も充分おとりください。お仕事のお疲れも溜まりますとお身体の調子を崩します」
「え~‥と‥、はい?」
ポカンとする博雅の隣で晴明はクスクスと笑った。
「うむ。判った。足を痛めた際には薬草と塗り薬、風邪をひいた際には熱冷ましの薬と蜜飴を用意しておこう。金柑の実を煎じるのも良いな‥笛を奏でる指を痛めては辛かろう。塗り薬を用意しておく。博雅が身体の調子を崩したら介抱するので心配ない」
晴明の言葉に件とアマビエは頷いた。
「晴明さまがご一緒であれば心配ありませぬ」
「はい。京を守るには、お二人が組めば最強ですゆえ。博雅さま、まだ予言をお聞きになりたいでしょうか?」
アマビエの言葉に博雅はブンブンと顔を横に振る。
このまま十も二十も予言されたところで覚えてなどいられない。
仁王立ちで目を丸くしている博雅の姿に、また件とアマビエは笑った。

「晴明さま、博雅さま。今後、予言が必要な時には‥この件とアマビエ、お二人の元に参ります」
件の言葉に晴明と博雅は頷く。
「博雅さま。もし‥身近な予言をお知りになりたい時には‥晴明さまと共にアマビエと件をお呼びだしくださいませ」
『あのような予言か?』と眉間に皺を寄せる博雅をみて晴明は可笑しそうに笑ったのだった。
 
~その後。
晴明の描いたアマビエは彩色され博雅の屋敷に飾られ、源の屋敷を訪れた者達は美しいアマビエの姿を褒め称えた。
博雅の描いたアマビエは晴明の屋敷にも貼られ、それをみた保憲が驚愕したのも無理のない話。晴明に説明されるまで何者が描かれているのかも判らない保憲だった。

時折、晴明と博雅も件の雪とアマビエの輝夜に会いに来ていた。
名を呼ばれると、雪も輝夜も嬉しそうに笑い、博雅の予言‥身体の不調から宮中の仕事、どうでも良いことまでも逐一伝えるのだった。
その度に見せる博雅の百面相の表情も可笑しく、笑いが絶えなかった。
『お前は物の怪達に好かれるゆえ‥人外のモノ達を名付けたり、名で呼び始めた博雅の自業自得だ』
名をつけるとはどういう事なのか‥意味も知らず、何事も良かれと思って行動する博雅。
天然で無意識な博雅であるが、この漢の周囲は頑丈に守られてゆく。
晴明は件とアマビエの予言に唇の端を上げて笑い、頷いた。
件とアマビエの言う通り、晴明と博雅がいる京では長年に渡って不作や飢饉、疫病が流行ることも無かったため、アマビエ画を描き写して出回ることも無いのだった。

~~~~~~~~~~~~~~

それから数百年後の江戸時代。
アマビエは肥後の海辺である予言をした。
自分を描き写した役人の和紙をみて、まるで博雅並の描き姿であったためアマビエは驚愕する。
護符代わりや厄除けの効力があるとはいえ、アマビエとて自分の姿は多少絵心のある人間に正確に描き写してもらいたい。
『‥晴明さま~‥』
アマビエは心の奥で叫んだ。
晴明と博雅が輪廻転生で生まれ変わってくれれば良いのに‥‥と切実に願う。
ある程度は人を選んで予言をするが、その者の絵心の有無までは判らない。
この役人も正義感は強い人間と判るものの予言する者を誤ったかと思うアマビエであったが、もう後のまつりだった。

◆おわり◆
 
〜お読みいただき有難うございました☆
SWAN/白鳥いろは
 
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎

コメント一覧

swan1789
千菊丸 さま

はじめまして。白鳥いろは です。
コメント有難うございます^_^
陰陽寮に在籍する陰陽師は年末年始など大忙しであったと思われます(笑)
〜晴明は屋敷でゴロゴロしていて、帝か陰陽頭から頼まれた博雅が『仕事しろ』と迎えに来そうです(呆)

ベルばらSSもお読みいただいているとのこと、嬉しいです^_^
拙ブログですが、2025年もよろしくお願いいたします。

SWAN/白鳥いろは
千菊丸
はじめまして、千菊丸と申します。
ベルばら二次小説をいつも楽しく拝読しております。
陰陽師、元日の晴明は忙しそうですね。
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