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京の一枚

桜守、京都の桜を語る

「自分だけの桜を見っけて、一生をかけて付き合う。それが本物の花見」




佐野藤右衛門(さのとうえもん)

1928年、京都市生まれ。


京都府立農林学校卒業。


天保3年より、植木職人として京都・仁和寺御室御所に仕えてきた“佐野藤右衛門”の16代目。


明治より造園業を営み、14代目より日本各地の名桜の保存につとめる「桜守」を継承。


故イサム・ノグチ氏デザインの、パリにあるユネスコ日本庭園を手がけた功績で1997年、ユネスコのピカソ・メダルを贈られる。


勲五等双光旭日章受賞。


『櫻よ』(集英社文庫)、『京の桜』(紫紅社)など著書多数。





桜が大好きな日本人ですが、“通な”桜の楽しみ方をおうかがいしたいのですが。

「『桜はどうですか?』と聞かれたら『桜は咲きますなあ』としか言えませんなあ。


今の人らは急いていかん。


炊飯器ですぐにご飯が炊ける、お風呂かてボタン押したらすぐに沸く、みたいな暮らしをしとるからいかんのや。


桜というのは自然の一部。


自然の摂理っちゅうもんを考えんといかん。


ところで、皆さん、よう知ってはるソメイヨシノ。


あれはクローン桜やっちゅうこと知ってますか? 彼岸桜と大島桜の変種やという説と、東京の染井村の植木屋が作ったっちゅう節と2つありますが、接木が簡単で、成長が早く、花が枝いっぱいに咲くから、明治から昭和初期にかけて大流行したんや。


日露戦争の戦勝記念や、紀元2600年記念やいうては、日本中に植えまくったわけです。


めしべが退化して花粉もないソメイヨシノは自生もできへん、鳥も寄りつかん、クローン桜や。


だから日本国中どこで見ても、みんな同じ。


そんなもん愛でてもほんまの花見とは言わんわな。


その全国のソメイヨシノが今一斉に枯れてきている。


それで初めて『ソメイヨシノの寿命は100年くらいやな』っちゅうことが分かったんです。


成長が早いとされるソメイヨシノをとっても、自然界というのは、そんな長いスパンで動いているんや。


だから、お城の中にソメイヨシノが植わってるのは、どう考えてもおかしいし、もっと言うたら、遠山の金さんの”桜吹雪”がソメイヨシノなんもおかしいわな。


戦国時代にも江戸時代にもなかった植物なんやから。


まあそんな冷めた目で見てみるのも、おもしろいんとちゃいますか」

では、改めて“本物の花見”とはどういうものなんでしょうか?

「日本に自生している桜は、大島桜、山桜、彼岸桜の3つ。


桜の種類といえば300以上あるけど、実を成して自生できる桜はこの3つだけ。


あとは突然変異か品種改良したものばかりやからみんなめしべが退化してる。


接木でないとあかんのや。


だから素人はこの3つだけ覚えといたらよろしい。


まずは、“自然に咲いている桜”、つまりは今では少なくなった里山や、もっと山奥にある桜の中から“自分だけの桜”を見つけてください。


自生の桜というのは当然のことながら、環境に左右されるから咲かない年もある。


『今年は雨が少なかったから、あの桜は無事に咲くやろか、台風が来たから、倒れてはせんやろか』。


自分の桜を見つけたら、年中その桜のことが気になりますやろ? そうして春になって見に行ったら、無事に花をつけている。


その時の感動といったら、いわゆる花見のどんちゃん騒ぎなんかでは得られないものがありますわ。


桜にとって“花が咲く”のは一年の最後なんです。


実をつけて新しい命を生み出し、新芽を吹くための最終段階。


それが分かれば、新緑の桜の美しさ、寒い時期にエネルギーを溜め込んでいる桜のたくましさに気づくはず。


そうやって桜の一年と自分の一年を重ね合わせて、自分を振り返る、しいては自然界のことを考える手立てとする。


それが、わしが考える“本物の花見”です」

なるほど。


桜と自分の人生を重ね合わせて見るわけですね。

「わしらは、桜の一分・二分咲きのことを『ほころびかける』、五分咲きのことを『笑いかける』と言います。


笑いかけの桜はまるで子供のはにかみのよう、そして満開の桜は、華やかな娘の姿のように見えます。


そして、姥桜。


しわくちゃの幹にもなんともいえない風格が漂い、そしてわずかに残った枝に咲く花には、色気を通り越した色香を感じます。


それから、桜が咲くのは、西行も歌で詠んでますが、昔から“如月の望月”つまり、旧暦2月の満月、と相場が決まっているんです。


そう、桜の営みというのは、女性の一生と同じ。


桜にのめり込んでるわしは、なるほど女好きですわ。


だから桜を理解しようするのは、女性を理解しようとすることと同じこと。


そんな風に“相手を思いやる心”をも桜から学ぶことができると思います」




佐野さんのお勧めの桜が見られるスポット








■円山公園

八坂神社の東部に広がる約8.6万平方メートルの公園。園内は池を中心に茶店や料亭が点在し、四季折々の風情が漂う。京都随一の桜の名所といわれ、中でも15代目佐野藤右衛門が植えた樹齢80年を迎える「祇園しだれ桜」が有名。

京都市東山区円山町


TEL:075-222-3586(緑地管理課)
24時間365日開放
入園料:無料


JR京都駅中央口より100・206系統の市バス約20分「祇園下」下車すぐ。


または京阪「四条駅」より徒歩15分




■京都地主神社

清水寺本堂の北にあり「えんむすびの神さま」として知られ、特に境内の「恋占いの石」が有名。1633年(寛永10年)徳川家光が再建した本殿・拝殿・総門は世界文化遺産に登録されている。境内は桜の名所として知られ、一樹に八重と一重の花を持つ「地主桜」(じしゅざくら)はあまりの美しさに、嵯峨天皇が二度、三度と車を引き返させては見事に咲く花を眺めたといわれることから「御車返しの桜」(みぐるまがえしのさくら)とも呼ばれる。

京都市東山区清水1


TEL:075-541-2097
開門時間:9:00~17:00
休み:なし
参拝料金:無料


JR京都駅中央口より100・206系統市バス約13分「五条坂」


または「清水道」下車、徒歩約10分


http://www.jishujinja.or.jp/






■京都御所

京都御苑内にあり、明治の初めまで実際に、天皇がお住まいになったところ。春と秋に一般公開が年2回行われ、その他の参観については事前に申し込みが必要。紫宸殿(ししんでん)での天皇の即位式などの儀式に際し、天皇を守るため、左近衛大将 (さこんのえだいしょ)、右近衛門大将(うこんのえだいしょう)が天皇を挟んで両側に座る位置を示したのが「左近の桜」「右近の橘」として知られる。

京都市上京区京都御苑3


TEL:075-211-1211(宮内庁京都事務所)


開門時間: 9:00~15:00


休み:土・日・祝日(ただし月により土曜開庁の場合あり)


参観料金:無料


地下鉄烏丸線「今出川駅」よりすぐ


http://sankan.kunaicho.go.jp/guide/kyoto.html


*すべて過去の写真です。














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