うたた寝から目覚める。じゃわじゃわ
と鳴き叫ぶ蝉。まぶたが重い。腫れて
いるのだろう。茉莉花は鉛のような体
をおこす。喉がひりつく。身体中が水
分を求めていた。体がびっくりしない
ように、茉莉花はなまぬるい湯ざまし
を飲んだ。冷たい水のように体は喜ば
ないが、緩やかに体は水分を受け入れ
た。体も心もおんなじだと茉莉花は
思った。強烈な刺激は、強烈な快楽を
生み出すけれど、長くは続かない。そ
してそれを享受していると、知らず知
らずの内に内部から崩壊してしまうの
だ。自らが気が付いた時には、深刻な
ダメージを受けている。それでもより
強くより強くと、刺激を快楽を求めて
いく。破滅の沼にずぶずぶとはまって
いく。人間は本当にしょうもない生き
物。そして、あたしもね。茉莉花は汗
ばんだ髪の毛をかきあげながら、自嘲
した。茉莉花はベランダに出た。灼熱
の太陽が降りそそいでいた。熱くなっ
ているのが分かっていながら、彼女は
手すりに触れた。火ぶくれができそう
なくらいだった。自虐的な気分だった
茉莉花は手すりをぎゅっと握った。熱
さは痛みに変わった。このまま熱で体
を焼きつくして欲しかったが、茉莉花
の体は苦痛を嫌がった。手は手すりを
離した。しかも、無意識のうちに手に
息を吹きかけていた。健やかな本能だ
こと。茉莉花は苦笑する。心は暗黒を
抱えているというのに。
茉莉花は求めていた人と寝た。かりそ
めでいいからと思っていた。その願い
はかなった。一瞬の逢瀬。それでもよ
かったはず。それは欺瞞であったのだ
けれど。しかも欺瞞であることも分
かっていたけれど。儚い共寝は虚しい
だけだった。渇きは癒えることはな
く、それ以上の渇きをもたらしただけ
だった。
もっともっと。ずっとずっと。茉莉花
はこの夏の熱に溶けてしまいたかった
が、かなわない。
渇きは深まるばかりだ。
〈終〉
と鳴き叫ぶ蝉。まぶたが重い。腫れて
いるのだろう。茉莉花は鉛のような体
をおこす。喉がひりつく。身体中が水
分を求めていた。体がびっくりしない
ように、茉莉花はなまぬるい湯ざまし
を飲んだ。冷たい水のように体は喜ば
ないが、緩やかに体は水分を受け入れ
た。体も心もおんなじだと茉莉花は
思った。強烈な刺激は、強烈な快楽を
生み出すけれど、長くは続かない。そ
してそれを享受していると、知らず知
らずの内に内部から崩壊してしまうの
だ。自らが気が付いた時には、深刻な
ダメージを受けている。それでもより
強くより強くと、刺激を快楽を求めて
いく。破滅の沼にずぶずぶとはまって
いく。人間は本当にしょうもない生き
物。そして、あたしもね。茉莉花は汗
ばんだ髪の毛をかきあげながら、自嘲
した。茉莉花はベランダに出た。灼熱
の太陽が降りそそいでいた。熱くなっ
ているのが分かっていながら、彼女は
手すりに触れた。火ぶくれができそう
なくらいだった。自虐的な気分だった
茉莉花は手すりをぎゅっと握った。熱
さは痛みに変わった。このまま熱で体
を焼きつくして欲しかったが、茉莉花
の体は苦痛を嫌がった。手は手すりを
離した。しかも、無意識のうちに手に
息を吹きかけていた。健やかな本能だ
こと。茉莉花は苦笑する。心は暗黒を
抱えているというのに。
茉莉花は求めていた人と寝た。かりそ
めでいいからと思っていた。その願い
はかなった。一瞬の逢瀬。それでもよ
かったはず。それは欺瞞であったのだ
けれど。しかも欺瞞であることも分
かっていたけれど。儚い共寝は虚しい
だけだった。渇きは癒えることはな
く、それ以上の渇きをもたらしただけ
だった。
もっともっと。ずっとずっと。茉莉花
はこの夏の熱に溶けてしまいたかった
が、かなわない。
渇きは深まるばかりだ。
〈終〉