天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

夏の夜の借景

2015-08-18 20:30:06 | 
コースターのような花火
遅れて聞こえる花火の音
終わると気付く火薬のにおい

夜を縁取る提灯のあかり
お腹に響く太鼓の音
ほんのり漂う白粉のかおり

氷水に浮かぶラムネ瓶
青白く光るビー玉

色鮮やかな兵児帯
水中に咲く金魚

子供達は
小銭を握りしめて
笑いさざめき
夜の海の珍しさに
目を見張る

少年は
夜の紗をすかして
うなじの白さを見る

少女は
夜の綾を解いて
ほほの赤らむのを見る

夜は伸び縮みする

そして

煌めきと寂しさを

落としていく






渇き

2015-08-13 20:24:14 | ショート ショート
うたた寝から目覚める。じゃわじゃわ

と鳴き叫ぶ蝉。まぶたが重い。腫れて

いるのだろう。茉莉花は鉛のような体

をおこす。喉がひりつく。身体中が水

分を求めていた。体がびっくりしない

ように、茉莉花はなまぬるい湯ざまし

を飲んだ。冷たい水のように体は喜ば

ないが、緩やかに体は水分を受け入れ

た。体も心もおんなじだと茉莉花は

思った。強烈な刺激は、強烈な快楽を

生み出すけれど、長くは続かない。そ

してそれを享受していると、知らず知

らずの内に内部から崩壊してしまうの

だ。自らが気が付いた時には、深刻な

ダメージを受けている。それでもより

強くより強くと、刺激を快楽を求めて

いく。破滅の沼にずぶずぶとはまって

いく。人間は本当にしょうもない生き

物。そして、あたしもね。茉莉花は汗

ばんだ髪の毛をかきあげながら、自嘲

した。茉莉花はベランダに出た。灼熱

の太陽が降りそそいでいた。熱くなっ

ているのが分かっていながら、彼女は

手すりに触れた。火ぶくれができそう

なくらいだった。自虐的な気分だった

茉莉花は手すりをぎゅっと握った。熱

さは痛みに変わった。このまま熱で体

を焼きつくして欲しかったが、茉莉花

の体は苦痛を嫌がった。手は手すりを

離した。しかも、無意識のうちに手に

息を吹きかけていた。健やかな本能だ

こと。茉莉花は苦笑する。心は暗黒を

抱えているというのに。

茉莉花は求めていた人と寝た。かりそ

めでいいからと思っていた。その願い

はかなった。一瞬の逢瀬。それでもよ

かったはず。それは欺瞞であったのだ

けれど。しかも欺瞞であることも分

かっていたけれど。儚い共寝は虚しい

だけだった。渇きは癒えることはな

く、それ以上の渇きをもたらしただけ

だった。


もっともっと。ずっとずっと。茉莉花

はこの夏の熱に溶けてしまいたかった

が、かなわない。


渇きは深まるばかりだ。



〈終〉



あたしのYES

2015-08-13 18:43:02 | 
あたしのYESはラブじゃない
その時の気分だから
明日はどうかなんてわかんない

イイカゲンなその場しのぎ
としたり顔で言うけどさ

そんなあんたがたの言葉は
どれだけ
ほんとの意味を持つ?

嘘つきでもいいじゃん
それを隠さなきゃいい

あたしの言葉には
何重の意味なんてない

薄っぺらい裏表だけ

あたしのYESはリアルじゃない
その時の気分だから
永遠には続かない

ムセキニンなその場しのぎ
と嫌な顔で言うけどさ

そんなあんたがたの思いは
どれだけ
つよい意志を持つ?

能なしでもいいじゃん
それでも使い用がある

あたしの言葉には
重い意味なんてない

薄っぺらい輪郭だけ

あたしのYESはラブじゃない
あたしのYESはリアルじゃない

空洞のYESさ




ハッピーチューン

2015-08-13 18:28:01 | 
夏のテンションを引っ張って

ダンス ダンス ダンス

夏のテンションを引っ張って

ループ ループ ループ

カクテル光線を受けて

夏の夜のハッピーチューン

ラメ入りチューブトップで

ジャンプ ジャンプ ジャンプ

ビールの泡を飛び散らして

パンプ パンプ パンプ

レッドのペディキュア

アイラインを強めにひいて

リップグロスでグラマラスな

キス キス キス

ミラーボールきらめかせ

夏の夜のハッピーチューン




紅玉の唇

2015-08-11 18:45:10 | ショート ショート
彼女の唇が俺を籠絡した。禁断の実。

赤くて甘くてつややかに光っていた。

わかりやすい例え。紅玉の唇だ。


俺と彼女が出会った頃、彼女は高校生

だった。ある公園の池の端に佇んでい

た。夕暮れ。彼女を茜色に染めてい

た。大きな少しつり目気味の目。すっ

きりした鼻。ここまではのびやかな手

足と長い首の体つきとあいまって、子

鹿のような印象だ。そんな印象にそぐ

わないふっくらとした唇。すべてをと

ろかす柔らかそうな唇。俺はその唇に

目を奪われた。彼女と目があった。そ

の時、彼女は笑った。夕日に赤く染

まった唇が花のように開いた。

「なあに、オジサン。」

彼女は、自分が捕らえる獲物のことが

よくわかっていた。都合よく自分を甘

やかし、自分の思い通りになるしも

べ。まだ高校生でありながら、その術

をがわかっていた。いつ涙をうかべ、

いつ拗ねて、いつ怒り、いつ逃げる

か。溺れる哀れな蟻たち。彼女は甘い

蜜をたたえる食虫花であった。そし

て、その時から俺は溺れる蟻の一匹に

なった。



最初は、何をあげても、何を食べ

ても

「うれしい。オジサン、大好き。」

って、抱きついてくれた。ミルクの香

りがして、俺は癒された。彼女を少し

でも自分好みのオンナにしたかったん

だ。俺はいろんなモノを与え、いろん

なトコロに連れていった。彼女はわか

りやすかった。古今東西の小説のヒロ

インのごとく、美しくみだらに、高慢

に花開いていった。そうなればなるほ

ど、彼女の唇は燃え、艶かしく濡れて

いった。俺はそのたびに、彼女の深み

にはまっていった。しかし、彼女はだ

んだん俺に冷淡になっていった。俺が

プレゼントを渡すたび、

「なにこれ、ダサッ。◯◯さんなん

か、××の限定品くれたのに。ジジイは

ダメだね。」

と鼻で笑った。言葉だけではなく、俺

との約束もしょっちゅう破った。待ち

合わせしても来ないので、連絡した

ら、

「今日は気分じゃない。」

と不機嫌そうに言い放った。それでも

マシな方だった。ひどい時は、連絡さ

えとれなくなった。彼女の家にさえい

ないのだ。(何回、彼女の家の前に佇

んだことだろう!)

あまりにもひどい扱いをされるので、

俺のプライドはズタズタになってし

まった。もう会わないでいようと思う

のだが、そのタイミングで連絡がきた

りするのだった。

「オジサンの声が聞きたくなったの。」

彼女の鼻にかかった甘え声。

「嘘つけ。こんどはなにが欲しいん

だ。もう会わないよ。」

「そう…別に会いたいわけじゃないの

よ。ただ声が聞きたかっただけ。」

と彼女が電話を切ろうとすると、俺は

反射的に未練がましくなるのだった。

「いや待て。」

「いや。待たない。オジサンみたいに

冷たいこと言う人嫌い。」

と怒りを含んだ声で言われると俺はオ

ロオロしてしまい、最終的に彼女の言

うなりになってしまうのだった。




あれから何年たったのだろう。隣で眠

る彼女の横で俺は腹ばいになってい

た。長い首には血管が浮き出してい

る。ミルクのような体臭に脂の香りが

混じるようになった。そしてあの瑞々

しい林檎の唇には、うっすらとひび割

れが走っていた。

俺はぞっとした。

年ごとに脂肪ののる彼女の肢体に

俺は夢中になっていった。

改めて俺は彼女の体つきを眺めた。

伸びきった白い体がそこに横たわって

いた。




魔法はとけた。



俺はため息をつき、起き上がった。


〈終〉