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日記、日々の想い 

いのちを、知ったとき

いのちのことを
本当に、おまえが
知ったのは
あの叔父さんとの
久しぶりの対面だった
そうなのかも知れない
ものごごろが
ついていたのか
ついていなかったのか
定かでもない
叔父さんの、微かな記憶
ただ、優しい笑顔
それだけの叔父さん
でも、再会した叔父さんは
巨大な病院の片隅にある
その結核病棟にも
打ち捨てられた
夜の闇に佇む
掘立て小屋のような
うら寂れた霊安所の中
枕元の蝋燭、一本
仄かに灯るだけの
闇の底の底に
ただ、沈んでいた
微かな蝋燭の灯が
照らし出しているのは
一枚の白布だけで
でも、やがて
闇に慣れた眼を凝らせば
少しずつ、浮かび上がる
白衣を纏っている
遺骸の輪郭
それは、ただ
ものだった
ただただ
ものだった
紛れもなく
ものでしかなかった
あのセピア色に黄ばんだ
古ぼけた記憶に
住んでいた叔父さんは
叔父さんの笑顔
その叔父さんのいのちは
その僅かな心象
それだけを残して
既に、その闇の底に
砕け散ってしまっていた
そして、そんなおまえは
やがて、いのちの
かけがえのなさも、思い知る
道端に、打ち捨てられた
こいぬは、消え入りそうに
弱々しく、泣いていて
おまえに、助けを求めていた
あの叔父さんの
無慈悲で、無残なだけの
あの死
いのちが、なくなること
そのことを
知っていたおまえは
そのこいぬが
やがて、物言わぬ
ただのものになることを
薄々と、思い描いて
いたのかも、知れない
だから、おまえは
その消えそうないのちを
ただ、抱き上げて
ただ、抱き締める
そうしたのだと思う
でも、それは
抱き締めた筈のいのちを
育むどころか
守るどころか
ただ、打ち捨てることの
その前置きでしかなかった
おまえは、それで
いのちが、代わりのない
そして、あまりにも儚い
だからこそ
そのいのちを守る
守り抜く為には
もっと、強さを
もっと、もっと
身に付けれなければ
ならないのだと
思い知ったのだと思う
少しは…
結局、いのちなど
叔父だった遺骸
あのもの、のように
腐り果て、朽ち果て
ただ、無機質な
物質と果てるけど
あのこいぬのように
ただ、か弱くて儚い
一瞬で弾ける
ただのシャボン玉だから
そのいのちを
守るためには
弱いおまえは
たとえ僅かでも
より、強くならなければ
ならないのだ、と…
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