だいたいうちで、飼ってた犬二匹が、成仏出来ないのなんて、我が家の家族のせいじゃない。我が家は、その後は、他の犬に浮気もせず、野良猫も相手にせず、ずっと喪に服してぃる。それより、この住宅の住人たちが、小型の室内犬に乗り換えたどころか、どんどん猫派に鞍替えしていることに、問題がある。
二匹とも、犬が蔑ろにされて、いなくなっちゃっうんじゃないかと、心配で仕方がなくて、出て来ちゃうんだろう。もっとも、生きている時は、自分たちより、大きな犬なんて、最悪の天敵でしかなかったが。
それにしても、犬を見掛けなくなってしまった。もちろん、猫は、野良猫でなくても、結構放し飼い状態だと言うこともある。一方、犬は、猫とたいして大きさの変わらない超小型犬でも、放し飼い状態にすることはない。だから、実際のにゃん口と、わん口の差以上に、猫ばっかりと思えてしまうのかも知れない。しかし、一応首都圏にしては、土地のだだっ広いこのど田舎は、バブル時代など、大型犬天国だったのだが。まるで、3D犬種図鑑と言う感じだった。もちろん、小心、臆病の塊だったしろには、白日の悪夢でしかなかっただろうとは、思う。
一番に思い出されるのは、セントバーナード二頭だ。しろを、住宅街の外、田んぼに連れて行くようになって、すぐからだ。最初は、田んぼは、左手に、里山沿いの道を歩いた。しばらく歩いて、最初に現れる地元の農家だ。里山も、持っている感じで、広大な土地持ちらしい。一番手前の里山の斜面を削って、何だか、フェアウェイみたいになっている。上の方に、グリーンもあった気がする。ミスショットをすると、下にボールが落ちてくる。良く考えたものだと言う感じだが、よっぽど、おカネも、余っているのだろう。
母屋は、もちろん、恐ろしく広い。このど田舎でも、ほとんど見かけない広さ。数百坪と言った感じ。家も大きい。余程の地元の名家か、山持ちだから、宅地に売って儲けたか、と言うところだろう。
農道を、大きく回って行くと、その田舎の豪邸が、現れてくる。宅地は、道よりも、かなり高いところにあるが、だだっ広いから、良く見通せる。ただ、悪いことに、鶏を放して飼っているのだ。鶏舎はあるようだが、昼間は、庭に放すのだろう。せいぜい十数羽と言う感じだから、養鶏をしているのでは無さそうだ。多分、家で食べるくらいの卵でも、獲っているのだろう。
不味い。しろは、もちろん、ラブラブ。美味しそうだな、って、感じ?跳び上がって、覗き込む。逃げて散る、鶏。しろ、もっと、ラブラブ。眼は、完全にハートマーク。抑えても、また、跳び上がる。
あっ!やばいって!しろ… うぉんっ!何か、地を揺るがす様な。うぉんっ!うぉんっ!あれっ、二頭もいる‼︎デカいっ!跳び上がった、しろ。真っ青。あっ、一応、毛色は、しろです。慌てて、跳んだまま、逃げ出そうと。ええっ、今度は、そっち⁉︎そりゃ、そうだ。怖いよな。じゃあ、そっち。ええっ、何で。また、振り向く、しろ。何なんだようっ⁉︎ラブラブ、鶏。うぉんっ、うぉんっ、うぉんっ‼︎ひぃ〜っ、助けて〜っ!しろっ‼︎
いい加減にしてよっ!しろっ… まあ、しょうがないか。あんなおっきな犬、会ったことなかったもんな。それも、二匹、いや、二頭!二頭だよ。そもそも、数え方からして、違うよ。何なんだよ。って、しろが。
バニくってた。しろ、完全に。美味しいそうだな。ひぃ〜っ、怖いよ〜っ。いや、美味しそう。いやいや、ひぃ〜っ、勘弁してよ〜っ。
鶏、鶏小屋のずっと奥。その物置は、あった。いや、犬小屋。何だ、あの生意気な小動物は。俺様たちの縄張り、俺様たちの鶏に、何か文句あるのか!文句が、あるのかよっ‼︎と、そんな感じだった。馬鹿でかい、セントバーナード。それも、二頭も。庭の一番奥、遠くで、気が付かなかった。しかし、二頭も、出て来て。しっかりと、しろを、認知して。睥睨してぃる。
噛みつかれるとか、食べられちゃうでもない。もう、しろ、おせんべい?圧死⁉︎同じ生き物に、見えない。もう、必死。逃げる、しろ。
ただ、これは、終わりでは、無かった。まあ、吠えられるのは、飼い主も嫌だけど。セントバーナードは、だだっ広い庭の一番奥にいる。直ぐそばで、吠えられる訳じゃない。まあ、良いか。で、その道を、行く。すると、いつも。ラブラブ。うぉんっ!やばいっ。でも… ラブラブ。うぉんっ、うぉんっ‼︎ひぃ〜っ、助けて〜っ! …の繰り返しに、なってしまった。そんな、情け無いしろの姿を見ることが、だんだん …快感に、なってしまった。何年も、そんな散歩が、続いてしまった。