感染症の恐怖は
まだ、幼い頃に
肺結核を、長年
患っていた叔父の
とことん、衰弱し尽くして
痩せこけた遺骸と
病院の片隅に
打ち捨てられた
結核病棟の
そのまた、片隅に
打ち捨てられていた
結核患者だけに使われる
まるで、掘立て小屋のような
粗末な霊安所の
限りなく暗鬱な
暗闇の記憶に始まる
一本の蝋燭
照らし出された
痩せこけた遺骸
不自然に、そそり立つ
鼻、その穴には
いや、目にも、耳にも
口にさえも
ありとあらゆる
体液が漏れ出る
穴と言う穴には
闇に、仄かに浮かぶ
白い脱脂綿が
詰め込まれていたんだ
菌が、漏れ出すのを
防いでいるのだと言う
そんなものか…
ただ、その脱脂綿は
叔父の遺骸から
ものごごろついた頃の
自分の記憶に、僅かに残る
叔父の笑顔
その表情を、奪っていたんだ
その叔父は
宿痾の病と言われた
結核に、取り憑かれて
短い人生を
バイクを、乗り回したりして
享楽に生きようとしたんだと
母は、義弟を貶めていた
確かに、その脆弱な生命の
無理矢理な燃焼は
やがて、若くて
でも、何年もの
情けない、寝たきりの
入院生活となって
叔父を、とことん
蝕み尽くした
それだけ、だったんだろう
ただ、骨と皮で
脱脂綿を、詰め込まれて
表情を、奪われて
無機質な、ただの骸に
なってしまったと言うこと
あの、怖しい暗鬱…
でも、結核は
特効薬とかも出来て
ワクチン接種も
義務付けられていて
やがて、あんまり
怖い、感染症では
なくなっていった
でも、でも、結局
耐性菌とか、出て来て
今のこの時代にも
まだ、怖い病気みたいだ
そして、また
このコロナ禍だ
ただ、自分に
死の、救いのない恐怖を
初めて教えてくれたのは
結核菌で
今のコロナ禍は
ずっと、小さい
ウイルスの仕業だけど
この収まらない感染症禍は
結核菌に教わった
あの死の恐怖、無惨を
今また、自分に
何度となく、蘇して
纏わり付かせている…