炭素の科学

宇宙で水素、ヘリウムに次いで3番目に出来た安定な元素で、生命体に必須の有機化合物の基本の元素である炭素について知ろう

16.複素環式化合物

2016年12月09日 | 科学

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炭素はッグバン後の第一世代の星形成に際してトリプルアルファ反応によって合成され、宇宙における星形成時の元素合成の初期から存在した。酸素も炭素を原料としてアルファ反応によって付随的に形成されるので、酸素を含んだ炭素の化合物が宇宙の星形成の早い段階から存在した可能性がある。第二世代以降の星形成に際しては多くの星形成の場でCNOサイクルが稼働し、結果として窒素が作られた。大きな星では酸素や窒素以外の様々な元素も作られた。条件さえ合えば、宇宙における星形成の早い段階から、相当複雑な有機化合物ができていた可能性がある。

有機化合物の基本となるのは炭化水素であり、炭化水素にも多様な構造の分子が存在する。それに加えて炭素と水素以外の原子(ヘテロ原子と呼ぶ)が加わると、少数の原子でも様々な分子を形成し、炭化水素と同じような平面構造をしていても大幅に性質が異なってくる。脂環式化合物の一部の炭素がヘテロ原子に置き換わったものを複素環式化合物と呼ぶ。環が単独のものを複素単環化合物、複数の環が接合した形のものを縮合複素環化合物と呼ぶ。

複素単環化合物でIUPACの規則で慣用名が認められている五員環化合物と六員環化合物を示すと以下のようになる。

五員環

 

六員環

 

慣用名を別にして、複素環化合物全般のIUPACによる命名法では、環に含まれるヘテロ原子の種類を示す接頭語を使用する。下の表(表16.1)にその接頭語を示すが、一つの環に異なったヘテロ原子が存在する場合には表の先(より左の列でより上段)に記されているものを上位とする。

表16.1

 

この接頭語に、下表(表16.2)に示されたように環の大きさと水素化の状態(飽和か不飽和か)を示す語幹を組み合わせて命名する。

表16.2

 

位置を示す番号はヘテロ原子の番号を1とし、同じヘテロ原子が2個以上ある場合には一つの原子を1とし、もう一つのヘテロ原子が最小となるように番号を付ける。異なるヘテロ原子が含まれている場合は、先に示した元素の優先順位の表(表16.1)に従って優先順位の高い原子を1とし、次のヘテロ原子がなるべく小さい番号になるようにする。下図に例を示すが。脂環式化合物に比べると命名法はかなり複雑になる。接頭語と語幹の結合において日本語特有の発音変化がある。以下に例を示す。

 

        複数の複素環が縮合しているものを「縮合複素環」と呼ぶ。以下にIUPACの規則で慣用名の使用が認められているもののうち、主なものを示す。

二環系

 

三環系

 

慣用名の使用が認められている分子は、より複雑な構造の分子を命名する場合の基礎成分あるいは付加成分として使用される。基礎成分と付加成分によって分子の名称を決める場合のIUPACの命名法では、縮合多環炭化水素の命名法に順ずることになっている。縮合にあずかる基礎成分と付加成分で慣用名が認められていないものについては、複素単環で示した表(表16.1、2)に従って命名する。付加成分が複素環の場合「エン」を「エノ」に変えて命名するが、フロ、チエノ、イミダゾ、ピリド、ピリミド、キノのような短縮した接頭語を用いる場合もある。最終的な位置番号は縮合炭化水素と同様な規則に従ってつける。この命名法はかなり複雑なので下に例を示すが、ヘテロ原子を含んだ環が優先的に基礎成分とされる。

 

  なお、角括弧の中の表現は、縮合多環炭化水素の場合と同じで、アルファベットは基礎成分の縮合位置を示す記号であり、数字は付け加える成分の縮合位置を示す位置番号を基礎成分のアルファベット記号の方向と一致させて表したものである。

命名された分子全体の位置番号の付け方は縮合多環炭化水素と同じ規則に従うが、環系の向け方に余地がある場合には、ヘテロ原子になるべく小さな番号がつくようにする。慣用名が認められている縮合環系のうち、カルバゾール、アクリジン、キサンテン、プリンについては、IUPACの規則でも例外的に従来の慣用的位置番号を使うことになっている。

炭化水素に比べて縮合複素環の構造ははるかに複雑になる。そこで、縮合複素環化合物を一律に命名しようとすると、縮合炭化水素の複雑な命名法にさらに多くの規則を付け加える必要がある。基礎成分が複素環でなければならないことは当然であるが、それ以外にも多くの項目が有る。以下に縮合複素環系の構造を表現する時の条件を優先順位に従って列記する。項目の優先順位は列記した順(項目に付けたアルファベットの順)となる。

(a)   窒素を含む成分を基礎成分として最優先する。 

(b)   窒素が含まれていない場合、複素単環で適用した元素の優先順位(表16.1:窒素を除く)に従って、順位の高いヘテロ原子を含む成分を基礎成分とする。

 

 (c)   a およびbの条件で基礎成分が決まらない場合は、最多数の環を含む成分を基礎成分とする。

 

 (d)   a,bおよびcの条件を考慮しても基礎成分が決まらない場合は、最大の環を含む成分を基礎成分とする。

 

 (e)   a~dでもまだ基礎成分が決まらない場合、元素の種類にかかわらず最も多くのヘテロ原子を含む成分を基礎成分とする。

(f)    a~eでもまだ決まらない場合には、最多種のヘテロ原子を含む成分を基礎成分とする。

(g)   a~fでもまだ決まらない場合には、表16.1で優先順位の高いヘテロ原子の最多数を含む成分を基礎成分とする。

(h)  a~gを当てはめてもまだ同じ大きさの環で同種同数のヘテロ原子を含む成分の間で選択の余地がある場合には、縮合前にヘテロ原子に小さい番号あるものを基礎成分とする。

 

 縮合位置にヘテロ原子が存在する場合、縮合させる成分環の名称はどちらもそのヘテロ原子を含むように選ぶ。2個以上の環に共通の原子が炭素の場合には位置番号を付けないが、ヘテロ原子の場合には位置番号を付ける。

 

 ベンゼン環1個と複素環1個が縮合している二環系では、一般的命名法と異なり、ヘテロ原子の位置を示す位置番号をベンゾの前につけ、後に複素環部分の名称を付けて命名する。

 

複素環化合物には小さくて類似した構造のものが多数存在し、しかもそれらの多くには慣用名が広く用いられっており、全体を一つの規則で命名するのは現実的でない。そこで、構造を特徴づけていて広く用いられている化合物の慣用名を命名の基礎(基礎成分)とし、それに他の化合物(付加成分)が付け加わった形で命名している。それでも、特定の化合物をその名称で指定するためには、上に示したように複雑な規則が必要となる。

星間分子として報告されている通常の複素環化合物として、エチレンオキシドがある。

 

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1 コメント

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マルテンサイト変態千年グローバル (鉄鋼材料エンジニア)
2024-11-08 18:56:35
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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