炭素の科学

宇宙で水素、ヘリウムに次いで3番目に出来た安定な元素で、生命体に必須の有機化合物の基本の元素である炭素について知ろう

4.炭素の誕生

2016年01月18日 | 科学

既述のページへのリンク: ①炭素という名称の起源   ②炭素の認識:木炭は何故炭素なのか   ③元素としての炭素の性質   ④炭素の誕生   ⑤宇宙の炭素   ⑥原始太陽系の炭素   ⑦炭素と有機物   ⑧炭素原子とメタン分子   ⑨炭化水素分子内での炭素の結合   ➉分子内での炭素と酸素の共有結合   ⑪窒素の形成と水素と炭素と酸素   ⑫窒素を含んだ有機化合物と無機化合物   ⑬星(恒星)と炭素   ⑭炭化水素分子内での炭素―炭素結合と電子   ⑮複雑な構造の炭化水素、⑯複素環式化合物、⑰炭素化合物の多様性⑱炭素原子と星間分子

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炭素という元素は、永遠の過去から物質の素材として存在したのであろうか?答えは否である。では、何時どのようにして誕生したのだろうか?

現在では「宇宙のビッグバン理論」が広く認められるようになってきている。この理論によれば、全宇宙の物質は無の状態から137億年ぐらい前に出現したことになる。この出発時点から、時間の経過とともに、物質の素となる種々の素粒子が順次形成されてくる。しかし、全ての原子の素材である陽子(pと表記)も中性子(nと表記)も電子(e-と表記)も初期には存在しない。従って、これらの粒子によって組立てられている炭素の原子も当然、存在しない。

原子としてこの世に最初に出現したのは水素(H)である。通常の元素としての水素は1個の陽子と1個の電子が結合したものである。原子から電子を取り除いたものを原子核という。通常の原子核は陽子(p)と中性子(n)で形成されている。しかし、最初に出来た元素である水素だけは、単独の陽子の形をしており、通常1Hと表記される。ビッグバンの後、陽子は宇宙全体にばらまかれるが、その分布に濃淡があった。分布の濃いところでは、引力によって粒子どうしが引き合い、さらに濃度が高くなり、集団の内部が非常に高温高圧の状態になる。この状態では、粒子どうしが激しくぶつかり合い反発するが、ある以上のエネルギーでぶつかり合うと粒子同士が融合して、新しい1個の粒子を作る。この過程は、原子核どうしが融合して新しい原子核を作るので、核融合反応と呼ばれ、新しい種類の元素を作ることになるので元素合成とも呼ばれる。

物質は質量(重さとして知覚される)を持っているが、その根本は、その物質を形成している原子の質量に由来している。陽子と中性子はほぼ同じ質量であるが、電子はそれに比べると非常に軽い。その結果、実質的に原子の質量を決定づけているのは原子核に含まれる陽子と中性子の数である。陽子(p)のみからなる水素(1H)の原子核どうしが融合すると、陽子と中性子を1個ずつ持つ原子核を形成すると同時に、陽電子(通常の原子がもつ電子とは極性が逆)とニュートリノを放出する。この過程で合成された原子核を持った原子は、2個の陽子のうち1個の陽子が陽電子を失って中性子となっている。そのため、相変わらず陽子を1個しか持たないので、元素としては水素の性質を示す。しかし、原子核に陽子と中性子を1個ずつ持っているので、水素ではあるが、原子としての質量は陽子1個だけの場合のほぼ二倍となる。

原子核に陽子と中性子を1個ずつ持った原子を重水素(重い水素または二重の水素という意味)と呼び、DまたはHと表記する。元素記号の左肩に付された数字は陽子と中性子の数の合計で、元素の重さの目安で、質量数と呼ばれる。陽子のみで形成されている水素は1Hと表記される。このように原子核に含まれる陽子の数が同じで、中性子の数が異なる元素は、元素の周期表の同じ位置に配置されるが異なった物質であることから、同位体と呼ばれる。この核合成を記号用いて式で表すと以下のように表現される(νeはニュートリノを表す)。

          1H + 1H → 2H +e+ + νe ・・・・・・・・・・(1)

ここに出来た重水素の原子核にさらに水素の原子核が融合すると、ガンマ線を放出しながら2個の陽子と1個の中性子を持った原子核が合成される。2個の陽子を持つ元素はヘリウム(He)である。この核反応は記号を用いて式で表現すると以下の式となる(γはガンマ線という電磁波(エネルギー)を表す)。

         2H + 1H → 3He + γ ・・・・・・・・・・・・ (2)

ここに出来た3Heどうしが融合すると2個の水素(1H)を放出しながらより安定なヘリウムの同位体4Heを形成する。これを式に表わすと以下のようになる。

         3He + 3He → 4He + 1H + H ・・・・・・・(3)

上記の核融合反応は、我々の太陽で実際に起こっている反応で、この時に放出される膨大なエネルギーのおかげで、ほとんどすべての地球上の生物は生きてゆけるのである。

式(1)~(3)をまとめると以下の式(4)のようになり、我々の太陽では、水素(陽子)が燃えて(核融合して)ヘリウム(原子核)が形成されていると表現できる。

         41H → 4He + 2e+ + 2νe + 2γ ・・・・・・(4)

地球上では水素(分子)が燃えて(酸素と結合して)水(分子)を形成するのと言葉としては類似しているが、核反応に関与する実態が原子核で、反応結果として新しい元素を作るのに対して、地球上の反応で関与するのは電子で元素そのものには変化がなく、原子間の結合の組み換えが起こるのみである点で、全く異質のものである。

炭素は6個の陽子を持っていて、中性子の数は殆どの炭素の原子核で6個である。これは、3個のヘリウム(4He)が融合すればできる。式で示せば単純に(5)で表現される。

         34He → 12C ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(5)

この核融合反応は、トリプルアルファ反応と呼ばれる反応で、3個のアルファ粒子(ヘリウム(4He)の原子核をアルファ粒子と呼ぶ)が融合することに起因する。しかし、同時に3個のアルファ粒子が遭遇して融合する機会はほとんどなく、まず2個のアルファ粒子が融合してできたベリリウム(8Be)にもう1個のアルファ粒子(4He)が融合することによって炭素(12C)ができる。ところが8Beは不安定ですぐに元の4Heに分解してしまうので、ベリリウムが分解するまでの短時間に次の融合を実現する必要がある。幸い4He、8Be、12Cともに非常に近いエネルギー状態が存在して4Heと8Beが融合して容易に12Cを形成することができるので、8Beが分解するまでに12Cが形成される機会もあり、かつ12Cが安定なために反応の結果として12Cが蓄積される。

実際にこの反応が起こるためには、水素の核融合の場合よりはるかに高密度の状態が必要となり、太陽の質量の50%以上の大きさの星(恒星)の内部が目安となる。従って我々の太陽では、水素を燃焼しつくすと、水素の核融合によって作られたヘリウムが燃焼して炭素を作ることになる。だが、我々の太陽は、まだ水素の燃焼段階なので、炭素は作られていない。従って、太陽系に存在する炭素は、別の場所で作られた炭素が宇宙にばらまかれ、その一部が太陽系の形成時に取り込まれたことになる。星が十分に大きければ、炭素(12C)はさらにヘリウム(4He)と反応して酸素(16O)を形成する。

地球上に生命が誕生し、生物として活動を続けてゆくための中心的存在となる元素には、水素(H)、炭素(C)、酸素(O)の他に窒素(Nと表記)がある。窒素は、炭素が存在し、かつある程度以上の大きさを持った星の中でおこる、CNOサイクルと呼ばれる一連の原子核の反応の過程で作られる。炭素や酸素が作られる星の中では、CNOサイクルは、主な原子核反応のひとつである。サイクルの出発原料となるのは炭素(12C)と水素(1H)で、生成した不安定な原子核が陽電子(e+)とニュートリノ(νe)を放出して、原子番号の一つ小さい元素(陽子が一つ少ない元素)となる過程が含まれている。元素記号と式で表すと以下のようになる。

         12C + 1H → 13N + γ ・ ・・・・・・・・・・・(6)

         13N → 13C + e+ + νe  ・・・・・・・・・・・(7)

         13C + 1H → 14N + γ   ・・・・・・・・・・・(8)

         14N + 1H → 15O + γ  ・・・・・・・・・・・・(9)

         15O → 15N + e+ + νe  ・・・・・・・・・・・(10)

         15N + 1H → 12C +4He ・・・・・・・・・・・(11)

結果的には炭素(12C)が介在して、4個の水素(1H)から1個の4Heができることになる。このサイクルの途中で安定な窒素原子(14N)が合成されることは、宇宙形成のかなり初期から窒素原子も炭素原子や酸素原子同様広く供給されていたことを意味する。宇宙は初期の状態から、生命の誕生に向かって着々と準備を進めているのである。

地球上には炭素(C)や窒素(N)や酸素(O)より重い様々な元素が存在するが、それらの多くは、炭素や酸素が合成できる星よりさらに大きな星の内部や超新星爆発と呼ばれるそれらの星の末期の現象で発生する衝撃波の中で形成されて宇宙にばらまかれる。

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