アルバム7曲めからはカバー曲になります。1曲目は藤島桓夫(たけお)さんの「お月さん今晩は」。Kiinaの歌唱はこちら↓
https://m.youtube.com/watch?v=XoKO45dnzpw
歌詞は歌ネットより。
https://www.uta-net.com/song/113865/
藤島さんと言えば、1960年に出された「月の法善寺横丁」もKiinaはカバーしていますね。
こちらは板前修行の旅に出る若者とお店のこいさんの別れを歌っていますが、ふたりは相思相愛で将来を誓い合った仲です。曲中のKiinaの関西弁のセリフが見事でしたね。
「お月さん今晩は」は、それより3年前の1957年の作品です。
リンゴ畑が出てくるので、信州か東北が舞台でしょうか。歌の主人公はリンゴ農家の跡継ぎで、家を離れることが出来ない。愛し合ったはずの彼女の方は、(就職などの)やむを得ない事情があったわけでなく単純に華やかな都会に憧れて故郷も彼も捨てたのでしょう。
裏切られた気持ちがいっぱいの歌です。
この曲を歌うKiinaの歌唱で私が見事だと思うのは、各歌詞の2行め(2小節めに当たるのかな?)の発音です。
Kiinaの発音というのは、普段「こんなに美しい日本語の発音で歌う人が他にいるかしら?」と思うくらい、一音一音に濁りがなく明瞭。特に「あ」行、「え」行の明るさは惚れ惚れするくらいはっきりくっきり耳に響いてきます。
これが「「お月さん今晩は」では
「田舎の村『で〜』」
「恨んでみた『が〜』』
「二人できい『て〜』」
の発音に、ほんのすこ〜しだけ翳りが感じられるのです。
このほんのちょっとの暗さが隠し味になって、曲全体を哀感のある味わい深いものにしている気がします。隠し味なので、ほんの少しだけ。調味料は入れ過ぎる全部が台無しになってしまいます。
こんな微妙な匙加減は、「やってみなさい」と言われて誰もが出来るものではなくて、やはりKiinaだからこその巧まざる技だろうと思います。
そんなわけで、私はKiinaの「田舎の村で」の「で〜♬」を「色っぽいなぁ…」と殊更に愛してやまないのです。