前回まで三回にわたって自分の好きなNHK大河ドラマの最高傑作は?ということで、1978年(昭和53年)放映の「黄金の日日」を取り上げた。
しかし、そこで振り返ってみると重要な概要について述べていないことに気づいた。
つまり、ドラマの中では脇役に過ぎないのに、歴史上の人物としては知名度が高いキャラクターばかりに説明が集中してしまったのである。
ここで改めて、このドラマの概要について語ってみたい。
時代は今から400年以上前の安土桃山時代。舞台は泉州・堺(大阪府堺市)。
主人公は納屋助左衛門。のちに貿易商となり、ルソンに渡海して貿易で巨万の富を得たことから呂宋(るそん)助左衛門と呼ばれた。
この助左衛門と泉州・堺の町の栄枯盛衰、それをとりまく織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった戦国武将や、当時の名の知れた人物たちとの絡みを壮大なスケールで描いたドラマである。
原作は経済小説の開拓者でもあった城山三郎。脚本は「ウルトラセブン」でお馴染みの市川森一である。
そして、主人公・助左衛門を演じるのは、当時は六代目・市川染五郎(現・二代目松本白鴎)であった。女優の松たか子の父親といった方が馴染みが深いであろう。
これまで戦国時代を舞台に取り上げた大河ドラマは何本か製作された。いずれも、豊臣秀吉(太閤記)、上杉謙信(天と地と)、斎藤道三(国盗り物語)といった戦国大名が主人公である。
ところが、この「黄金の日日」はそのような英雄タイプの人物ではなく、一介の商人が主人公である。おまけにこの助左衛門という人物は生年月日はもとより、没年すら定かではない。
おまけに資料があまりにも少ない。つまり謎に包まれた人物というわけだ。
原作の方も大河ドラマを見終わって、かなり時がたってから読んだが薄い文庫本で、1日で読み終えた。とても一年かけて放映するような内容とは思えなかった。
しかし、この点は脚本家・市川森一の腕の見せ所だったのであろう。資料が少なく、謎に包まれた人物となれば作家としては、いかようにも料理が出来る。
その結果、原作には登場しなかったキャラクターやエピソードが盛り込まれ、見事な脚本が出来上がったと思われる。
大河ドラマは一年をかけて放映されるわけであるから、登場人物も多くなる。
歴史ドラマとはいえ、小説が原作だ。架空の人物も登場する。
魅力ある女性の登場人物も多い。こちらは後に述べていくとして、先ずは助左衛門に関わる二人の個性的な登場人物から紹介していきたい。
一人は杉谷善住坊(川谷拓三)、もう一人は石川五右衛門(根津甚八)である。
後者の五右衛門の方は、今でも名前を聞けば、大泥棒としてピンとくる方も多いであろう。
だが、善住坊の方は、ある程度は歴史に詳しい人間でないと名前を聞いたことがない人が大半ではないかと思われる。
結論からいって、二人とも実在とされる人物。
善住坊は狙撃犯、五右衛門は盗賊。完全なアウトローである。
この二人も助左衛門と同様に、その生涯がはっきりとは知られていないが
助左衛門と違うのは、その死に様が凄まじく、また、はっきりと知られていることだ。
それでは、この二人から語っていきたいと思う。
続く