つらつら日暮らし

「聖衆を和南す」の意義について

現在、当方でも使っている「檀信徒喪儀法」の回向文で、特に「山頭念誦」のそれの一番最後は、以下のようになっている。

雲程に奉送し、聖衆を和南す。

今回の記事で問題にしたいのは、この「聖衆を和南す」の部分である。「和南」というのは、尊敬する対象に対して、その想いを表す「帰依の礼拝」の意を持つ語である。よって、この場合には「聖なる者達に帰依の礼拝をします」ということになる。ところで、こういう状況で用いられる語の場合、我々はどのような「聖衆」をイメージすれば良いのだろうか?この回向文の制作された状況と、その後の曹洞宗の教義の進展とは、どうやら密接な関係を持つようである。

まず、「雲程に奉送し、聖衆を和南す」の意味だが、現在の曹洞宗では以下のように解釈していると思われる。

「白雲たなびく天界に(覚霊を)送り奉り、(お迎え下さる)聖なる者達に帰依の礼拝をします」ということになろう。しかも、この場合の「聖なる者達」というのは、「山頭念誦」でお唱えするのが、「十仏名」であることを考えると、曹洞宗で伝統的に用いられていた文言などから勘案して、当然に以下の者達ということになろう(『法華経』も入れるべきだろうか?)。

・毘盧遮那仏
・盧舎那仏
・釈迦牟尼仏
・弥勒仏
・十方三世一切諸仏
・文殊菩薩
・普賢菩薩
・観世音菩薩
・諸尊菩薩摩訶薩


しかし、こうなると問題も残る。この者達に帰依をするとして、では我々はこの者達の「どこの雲程」に送ってしまったのだろうか?毘盧遮那仏だと、「密厳浄土」辺りになるのだろうか?或いは釈迦牟尼仏だと、この娑婆世界になるし、弥勒仏だと、弥勒が下生する素晴らしき世界であろうし、後の「菩薩たち」というのは、自分専門の世界を持っていない。非常に難しくなる。実は、「雲程」云々の部分を抜きにして、「聖衆を和南す」だけであれば、中国宋代の遵式が作った、様々な「作法書」に、「三帰礼文」に続く形で、「和南聖衆」とあるため、この場合の「聖衆」とは、「仏法僧の三宝」ということになろう。だとすれば、先に挙げた「十仏名」については、曹洞宗の場合、『妙法蓮華経』が入っているので、それも入れて良いということになるのかもしれない・・・いや、『法華経』自体は白雲たなびく世界に於いて、覚霊を迎えに来てはくれないか(汗)

さて、喪儀法の「山頭念誦」にて、「雲程に奉送し、聖衆を和南す」と使われると述べたが、そもそも「山頭念誦」とは、当該の死者を、火葬(もしくは土葬)にする場合に行われるものであり、導師(秉炬師)が、法語(引導法語)を唱え、そして点火した後で、山頭(山門)にいる維那が、朗声で念誦するのである。そして、この「山頭念誦」の典拠(初出)は、おそらく中国宋代に作られた『禅苑清規』である。『禅苑清規』では、この「山頭念誦」の時に唱えられるのは、「十念」である。

「十念」というのは、「南無阿弥陀仏」を「十声」することをいうので、要は、「お念仏」ということになる。そうなると話は早い。阿弥陀さまがおられる「白雲たなびく世界」、つまり西方極楽浄土にお送りするのが、この「山頭念誦」ということになり、この時“お迎えに来てくれる”方々というのは、阿弥陀仏に合わせて、付き従われる「勢至・観音」を中心とする“来迎衆”ということになろう。

これだと話は早いのに、意外なところで、手間取ってしまったのは、特に日本曹洞宗では、大きな浄土教団であった本願寺派と、北陸で対峙することとなってしまい(結果的に、北陸ではあちらが優勢だったと思うけど)、成立当初こそ、浄土教的な世界観も導入していたはず(道元禅師は、他土往生を批判していたし、瑩山禅師も否定的ではあったが、浄土禅・禅浄双修というのは、珍しい話ではない)なのに、その後意図的に削られてしまったので、全くそれが見えなくなっちゃったという話であろうと思う。

しかし、全体としては、それ程大きく変えることも出来ず、随処に「痕跡」だけが残っているので、いざ本気で訳したり、理解しようとすると、結構難しいというのが、現在の回向文ということになる。当方みたいな、怠惰な発想ばかりする人だと、別に無理して削らなくても良いじゃない、とか思うのだが、やはり浄土教系教団の圧迫を、モロに受ける地域などでは、差異を際立たせることで生き残りを図る他はなく、結果的に違う話になったのだろう。そうじゃない地域ならば、むしろ却って、禅僧が浄土教的発想や、世界観で葬儀を行う場合だってあったようだし、拙寺のある地域でも、民間信仰として、念仏講が存在する(かといって、浄土教系教団のコントロールを受けているわけではないし、拙寺がコントロールしているわけでもない。文字通り、民間信仰である)。

よって、余り難しく考えるから、混乱するのだろうとも思うわけである。余りに雑駁すぎる結論で恐縮だが・・・

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